夢発電所

21世紀の新型燃料では、夢や想像力、開発・企画力、抱腹絶倒力、人間関係力などは新たなエネルギー資源として無尽蔵です。

さびしい心

2007-09-27 07:05:16 | 創作(etude)
 10歳のツトムくん
 きょうもあっちこっちの
 家具や
 壁や 
 イスや
 ピアノの脚を
 蹴って蹴って蹴って蹴りまくる
 何かを鍛えるのではなく
 何かに抗議している
 自分の足に痛みのある抗議

 ツトムくんは
 いつも片手に
 バスマットか
 タオルケットを
 持って行動する
 これ以上口の中に
 入りきらないほどに
 タオルケットの布を
 口の中に含んで
 大きくほほがふくらんでいる

 ツトムくんは
 おとなのサンダルが好き
 おとなの革靴が好き
 はきものが自分でもあるのに
 さっとおとなの履物をはいて
 田んぼの中をかけまわる
 だからツトムくんが
 戻ってくると
 はきものはどろどろ
 もう使えないくらい

 ツトムくんは
 高いところに登る
 きょうも
 ピアノの上に
 窓の上に
 食卓の上に
 車の屋根に
 ベッドの上に
 片手には
 タオルケットをもって

 ツトムくん
 こっちにおいで
 というと
 ツトムくんは
 どんどん遠くに行ってしまう
 追いかければ
 逃げてゆく
 まるで
 かげふみのよう
 でも視線はこちら

 ツトムくんは
 おかあさんと
 ふたりぐらし
 おかあさんは
 いつも
 いそがしく
 帰りも遅い
 ツトムくんはだから
 お母さんが帰るまで
 お家に帰れない

 ツトムくんは
 学校から帰ると
 かばんを放り投げて
 上着も脱いで
 ズボンも脱いで
 くつしたも脱いで
 あっちこっちに
 ぽいぽいほうる
 まるで束縛から
 自由をもとめるように

 ツトムくんの
 しろいからだは
 赤いかさぶたであちこち傷だらけ
 首筋 背中 肩 もも 上腕
 そしてまぶたの上にも
 あっちこっちから
 血がにじんでる
 ツトムくんは
 アトピー性皮膚炎で
 かゆくてたまらない

 ツトムくんは
 だっこに
 なれていない
 だきしめられると
 にっと笑って
 でもすぐに
 つきとばす
 おまえなんかじゃ
 だめなんだ
 そういっているかのよう

 ツトムくんは
 おうちに帰るときが
 いちばんうれしそう
 かえったら
 おかあさんにあえるから
 お母さんの手料理が
 待っているから
 お風呂に一緒に入れるから
 いっしょの布団に眠れるから
 
 



 
 
 

 

 

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4 コメント

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精一杯の身体での表現 (あらた)
2007-09-27 09:07:52
自分の心の中に溢れかえる想いがなんなのか、
どうしたらいいのか判らないまま、
つき動かされるように感情の中をもがいて
ころがり
浮いて
流れて
自分の気持ちが落ち着ける先を探しているような…。

羽を休める場所がなければ、
鳥はいつか、倒れてしまいます。

ツトムくん
お母さん
見守るなりたさん
…みんな、切ない気持ちなのでしょうね。。。
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あたしが関わったお子さん (ふんわり)
2007-09-27 18:06:38
私が初めて受け持ったお子さんは、情緒障害のお子さんでした。最初はにこにこして「えっ!この子が情緒障がいのお子さん?」と思ったものでした。

しかし、思春期を迎え、イライラ感が募るのでしょ、言葉がうまく出ない分、「わかってくれよ!」という気持ちを、自分の信頼できる人・甘えられる人にぶつけてくるんです。

人が人に噛みついてくる恐怖!でも、本人は真剣に訴えていたんですよね。

この話は、子供たちから学んだ前任校の出来事です。
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あらたさんへ (なりたはるみ)
2007-09-27 21:51:15
 そうですよね!飛びつづけては、疲れますよね。
 せめて少しの間でも、私が羽根を休める場所になりたいです。
 精一杯の行動で、「わかってよ!」と言っている気がしています。お母さんが一番やさしく迎えられる港になれるようにサポートしたいと思っています。
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ふんわりさんへ (なりたはるみ)
2007-09-27 21:55:29
 伝えたくても伝えられない心、その気持ちはいかばかりかと思います。わかって欲しくてもわからない周囲に、どれくらいの悲しみがこもっているのでしょう。
 ぼくもひたすら床に自分の額を打ち付けていた、あのダウン症のA君の悲しみを思い出します。
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