音楽は語るなかれ

音楽に関する戯れ言です。

焔 (U2/1984年)

2012-03-22 | ロック (ヨーロッパ・その他)


U2の作品を辿ってみると、私的には、かのベートーヴェンがこだわり続けた弦楽四重奏曲の変遷に似ていると思っている。ベートーヴェンは交響曲がよく取りざたされるが、私は寧ろ彼が最終的に拘り、且つたどり着きたかった境地は弦楽四重奏曲だと思っている。その細かい論拠に関しては、彼の作品レビューの色々なところに小出しに書いているので、ここでは省略させて頂く。そして、このU2は、前作(ライヴは含んでも含まなくても良い)までが所謂、初期であり、ここから3作品は、次なる段階に入っている。言うなれば全米制覇期とでもいう言い方がいいかもしれない。それが、この、「焔」、「ヨシュア・トゥリー」、「魂の叫び」の3作品である。いわば、この3作品によって、現在ではポップ音楽ファンなら誰でも知っているU2という大成功したミュージシャンが誕生するのである。

この「全米制覇3部作」のベースは無論「WAR~闘」である。まず大きな変更点といえば、初期3作を担当したスティーヴ・リリーホワイトが降りて、新たに、ブライアン・イーノとダニエル・ラノワという師弟コンビがこの作品のプロデュースを手掛けたことである。これは少々驚いた。果たして、U2の求めている音とイーノの感性が合うのかどうかは正直なところかなり疑問であった。というのも、初期U2の特に「WAR」ではかなり音が整理されてきて、メリハリが利いて来て前作よりもそれぞれの音がはっきりしている。例えば「アイリッシュ・オクトーバー」の"Gloria"と「WAR」の"Sunday Bloody Sunday"の違いはそれぞれのパートの音のメリハリにある。これはスティーヴ・リリーホワイト、プロデュースの特徴ともいえよう。ある種、この曲に象徴される「勢い」が、全米上陸の足がかりを作ったのは事実である。しかし、この時代のイーノの売りは既に「アンビエント」な音楽で、これはサティに通ずるものである。U2はデビュー時より「明」と「暗」が混在している部分が多く、実は「アイリッシュ・オクトーバー」までは、所謂、アイルランドのバンドとしてこの混在した音がどこか掴みきれない部分があって良かったが、やはりそこを整理した明瞭な音が全米を魅了したのだと思ったからだ。だが、実際この作品は、ボノのヴォーカルも、ジ・エッジのギターもそれぞれのパートの切れ味は変わっていない。どころか前作では統一感に欠けていたところもさらに音が整理されたところは驚いた。流石はイーノだといいたい。特に、シングルカットされた”Pride”は、その後も彼らのライヴの定番曲になるがこの時代のU2を象徴している曲となった。そして注目すべきは、この曲加え"4th Of July"と最後の"MLK"は皆マーティン・ルーサー・キング牧師に捧げられた曲である。この2曲には前述したイーノのアンビエントなレシピが十分投入されていると考えられる。そして不思議なことにアルバム全編がとても洗練された作品に聴こえている。この辺りがイーノの感性なのだろうか、クラシックでも現代音楽に疎い私には残念ながら判断が着かない。

御存じのように原題の"The Unforgettable Fire(忘れざる炎)"とは、広島・長崎への原爆投下を生きのびた被爆者達が描いた絵画のタイトルである。彼らはアメリカライブツアーの最中に、シカゴの「ピース・ミュージアム」でこれらを見て大変感銘を受けて、このニューアルバムのタイトルに取り入れたと言われている。キング牧師といい、原爆といい、U2が潜在的に備えている社会風刺という基板の上に、アメリカのファン層をかなり意識した作品となっているのも事実。いよいよ全米制覇の準備が整った。


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