音楽は語るなかれ

音楽に関する戯れ言です。

ヨシュア・トゥリー (U2/1987年)

2012-04-19 | ロック (ヨーロッパ・その他)


最初にこの作品を聴いた時の感想を言うと、正直「これがU2か」と思ったものだが、そう考えるとこのバンドには実はこれまでに、少なくとも3回はそういう思いをさせられている。そしてこれがその第一回目だ。だからと言って、それはオオカミ少年のそれとは違うからその度に驚き、そして何度も聴く、そう、何度も何度も聴くのだ。U2ってバンドに関しては初期の頃しか自分で演奏したことがないから、そういう意味では耳コピで何度も聴いた経験というのではない。只管、鑑賞として何度も聴いた、こういうのはクラシック音楽では多いが、ロックバンドでは、ポリスとか、フロイドくらいかなぁ・・・、そんなに多くはない。この作品は所謂、全米上陸第2弾というもの。だが、前作「焔」発表後、U2の主な活動はライヴもさることながら、アフリカ救済、エイズ撲滅などのチャリティーイベントに参加して世界的な知名度を得た3年間であった。それは彼らの場合、作品のプロモーションということではなく、アイルランド出身というバンド出自の性格的な要因が、大きくその活動を左右していたといえる。またアメリカという国はそういう事に関しての他人の関心や評価もアイルランドやイギリスとは全然その度合いが違うのである。だが、そういう理由だかどうだかは分からないが、この作品ではかなりU2の音楽が変わった。簡単にいえば、アメリカナイズされたのだという言い方が出来るのではないかと思う。

評論家の多くはこのU2の作品を「アメリカ文化への傾倒」という表現をした。多分にそれは、アメリカ音楽のルーツである、ブルースやカントリー、ゴスペルなどを積極的に吸収しているところからそう評されているのだと考える。だが、私はそれをそうは思わない。「アメリカナイズ」という表現で前述をしたが、ここの辺りの表現は微妙で、結果と過程の問題である。私はU2の持つとした音楽スタイルがそう簡単に他の音楽に「傾倒」はしないと考えているし実際にそうである。なぜなら彼らは単にミュージシャンという存在なのだけではなく、アイルランドという国民の声を発していることを指名づけされた存在でもある。そんな彼らがアメリカに来て思ったことは、恐らく、なんと見かけより「骨太」な音楽なんだろうということ、またそれは音楽だけではなく、アメリカという国の外からでは分からないイデオロギーという物、或いは成功者だけに与えられる栄誉という特権(所謂、アメリカンドリームという名の数々のメリット)を大いに享受した一方で、それを還元するのに如何に民主的なシステムが構築されているかということ。こういう彼らの求めていたものが見事に実現できた新天地だったのだ。だから、彼らはチャリティーやボランタリーに積極的に参画して、それを重ねる度に「セレブリティ」として世間の評価も上がっていく。これが「自由の大地」のシステムだったのである。そんな中で彼らも、より自分たちの音楽を探求していった結果、アメリカのルーツ・ミュージックは彼らの求めるものに合致したのだという見方をしている。アメリカという大地に「水を得た魚」状態だったのである。例えば"Bullet The Blue Sky"はアメリカ政府の対ニカラグアでのコントラ支援を告発したり、また"Red Hill Mining Town""Mothers Of The Disappeared"など、相変わらず政治的なテーマが多いのは彼らのデビュー以来に特徴であるが、同時にこのあたりのメッセージ発信の度合いも加速していった。なぜなら、アメリカにはアイルランドに比べて、なんと取扱なければならないテーマが多かったことか。これらのテーマに適したオトというのをアメリカで発見できたのも事実である、つまり彼らは、決してアメリカ文化に傾倒したのではなく、彼らの音楽と彼らの姿勢がたまたまアメリカ建国以来の風土と絶妙にマッチングしてこのオトが生まれたのである。そしてこの作品は全米アルバムチャートの第1位を9週間に渡って独占し、”With or Without You”、” I Still Haven't Found What I'm Looking For”という2作連続のシングル第1位を記録、そして全世界で2000万枚にセールスに繋がった。

U2ほど、アメリカで評価され変わったバンドは少ない。そして彼らはここに来て改めて自分たちの使命を知ったのだ。そう、アイルランドでは沢山の事を背負っていたが、この国は彼らを「ミュージシャン」として受け入れたのだから・・・。U2の本当に意味での音楽はここから益々開花していくのである。


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