すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

大日三山(続き)

2019-09-23 15:00:25 | 山歩き
 13日は週間天気ではずっと雨の予想で、出かける前にはどうしようか、かなり迷ったのだが、当日は快晴だった。真夏ほど暑くはないから歩きやすい。高山植物の盛りはとうに終わって、山は秋の気配だ。ミヤマリンドウが、完全には開ききらない濃い青い花を咲かせている。ミヤマアキノキリンソウ、ウサギギクの黄色の花。奥大日岳の山頂近くには、ベニバナイチゴの実がなっていた。甘くておいしい。クロマメノキ(ブルーベリー)の実もあった。ちょっとだけ味わう。こちらは酸っぱい。
 若い頃、同じ友人と日光白根山から下山の途中に、斜面一面に実をつけたクロマメの大群落を見つけて、夢中でほおばったことがある。下山してきた三人組が「何しているのですか」というから「クロマメです!斜面全部です!美味しいです!」と叫んだが、呆れた顔をして行ってしまった。今では、ひと粒かふた粒で止めておかなければならないだろうな。残念なことだ。
 室堂乗越まで行って、初めて剱岳が姿を現した。ここからは大日岳まで、道が称名川側を捲いているところ以外はずっと、劔と道連れだ。劔というと多くは別山尾根側から見る、平蔵谷や長次郎谷を斜めに走らせた巨大な体躯の写真を見ることが多いが、大日の稜線から見る姿は左に早月尾根を長く長く、右に別山尾根をより急峻に曳いて、気高く厳しく聳えている。格別の姿だ。ぼくは、槍ヶ岳よりも圧倒的に剱岳の姿が好きだなあ。
 歩く道の右側、劔との間はものすごく急峻な谷だ。左側は称名川をはさんで弥陀ヶ原の台地が広がっている。奥大日岳の山腹のガレ場を越え、再び稜線に出て少し戻って今回の最高点2611mで秋の風を楽しむ。戻って奥大日岳の山頂に到着(2606m)。ここからは岩場とガレ場の急降下だ。
 今回は、歳をとると転倒しやすくなるので、ヘルメットを持ってきたのだが、まだあまりバテていないので、慎重に下ればかぶらなくても大丈夫そうだ。行く手に今日泊まる大日山荘が見える。もうあまり遠くないと思ってからが遠い。中大日岳が思ったよりデカいのだ。途中、大きな岩の散乱する七福園という台地を通る。ここはかつて修験道の修行場だったらしい。もう少しすると紅葉が美しそうだ。
 12:00ちょうどに大日小屋に着いた。剱岳を正面に見ながら昼食にする。食べている間に少しガスが上がってきた。今回は荷物をなるべく軽くしようとしたので、ブドウのぎっしり詰まったパンにチーズに玉子スープにココアだ(いつも似たようなものだが)。
 別のベンチに、真っ黒に日焼けした男たちがいる。打ち上げ会みたいな感じで談笑している。ぼくらが昼飯の後で大日岳に登って降りてきたらもういなかった。小屋の人に訊いたら、NHKの「百名山」の撮影チームで、一週間滞在していたのだそうだ。11月の3日だか4日に放送予定だそうだ。ありがたいことにぼくたちが歩いて見たのとまさに同じ映像が見られるわけだ。
 今日は13日の金曜日。素晴らしい展望の山歩き。おまけに中秋の名月。小屋では夕食後ギターの演奏まであって、富山平野の夜景まで見られて、素敵な一日だった。月は奥大日の稜線から上った。月の明かりで星はあまり見えなかったが、夏の大三角形と乙女座のスピカは見えた。ギターはしっとりとやさしく、アンコールで歌った歌も、演奏の間のトークも、やさしい人柄のにじみ出るような心地よいものだった。
 気難しい年寄りよりも、人柄のにじみ出るような優しい若者が良いねえ。

 長くなったので、3日目の下山は簡単に書く。
 大日小屋からは1500mの下り。まず大日平まで700mの急降下。広々とした湿原に出て心も体ものびのびとする。遠くに大日平小屋が見える。振り返ると、いま降りてきた山並みに半円状に取り囲まれている。ここは雪崩の名所なのだそうだ。小屋で最後ののんびり。小屋の裏から称名廊下を見下ろして奥に不動の滝も見える。
 湿原を30分ほど歩くと、再び急降下。さらに750m。両側の切れ落ちた痩せ尾根で、滑りやすい石の窪みと転びやすい木の根の連続で緊張する。緊張している間は大丈夫なのだが、ところどころ傾斜が緩くなるとホッとして危ない。疲れで膝が上がらなくなっているので、何でもないところで足を引っかけてつまずくのだ。ぼくも友人も2回ずつ転倒した。だがやがて、眼下に橋が見えてくる。傾斜がやっと緩くなって、突然登山口に出た。
 バス停でソフトクリームと肉そばを食べて、滝見物に行った。すごい。これは見るべきものだ。最近これをソロでフリー・クライミングで登ったクライマーがいるのだそうだ。すごい。信じられない。
 称名滝は浸食で10万年間に10Kmほど後退しているのだそうだ。一年で10センチ。それがこの急峻な谷をつくっている。自然の力は計り知れない。さらに10万年後には、立山に食い込んでいるだろう。それを目にする人間はいないかもしれないが。

参考所要時間:
第一日:13:00室堂スタート、43雷鳥沢ヒュッテ、14:33スタート、16:03帰宿
第二日:6:40スタート、9:25最高点、42奥大日岳、11:40中大日岳、12:00大日小屋着、昼食、13:00スタート、大日岳山頂でのんびりし、14:57小屋に帰宿
第三日:6:37スタート、7:21水場、8:29大日平小屋、9:41牛首、10:59登山道入り口に下山、昼食後称名滝見物。
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2 コメント

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良いですね! (智子柳田)
2019-09-24 11:26:22
樋口さん、素敵な山旅でしたね。
行けるものなら私も同行したかったです。でも3日目の下山の標高差と急峻さは私には無理ですね~。
歩く技量と体力が無いくせに、山に行きたい!といつも思っています。
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いえいえ (樋口悟)
2019-09-25 21:46:49
去年の当初の目標は剱岳の早月尾根を登る、だったのです。でも、もうとても登れないですね。あの長大な尾根を見たら、やめて良かった、と思いました。
ぼくは話を盛る癖があるだけで、1500mの下りって、柳田さんはぼくよりずっと強いから、何でもないでしょう。
大菩薩でさえ、登山口まで下れば1150mくらいはあるのだから。
ともあれ、大日三山は良い山です。
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