すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

妙(たえ)なる五月

2020-05-05 12:29:57 | 音楽の楽しみー歌
  うるわしくも美しい五月に
  すべてのつぼみがほころびそめると
  ぼくの心のなかにも
  恋が咲き出でた

  うるわしくも美しい五月に
  すべての鳥がうたい出すと
  ぼくもあのひとに打ち明けた
  ぼくの心のひそかな想いを

 この歳になって恋の告白、じゃないですよ。
 家に閉じこもっていて意欲がわかないので、思いついて歌を聴きなおしている。意欲を掻き立てなくても聴くのはできる。バリトンのCDをけっこう持っていて、以前から好きなのも、どんなだったか忘れていたものも、ぼつぼつ聴いている。
 これは、ロベルト・シューマン作曲、歌曲集「詩人の恋」の第一曲「うるわしくも美しい五月に」。詩はハインリッヒ・ハイネ、詩集「歌の本」より。訳詞は音楽評論家の喜多尾道冬。
 この歌は高校の選択音楽で習ったことがある。
 演奏時間1分30秒ぐらいのごく短く、だが、春の陶然とした喜びに共感できる曲だ。
 上行するアルペジオの前奏が4小節。有節形式で一つの節がわずか8小節。ゆったりとおだやかな歌い出しが2小節。その旋律が繰り返されたのち、後半4小節は16分音符と付点4分音符の弾むような音型がクレッシェンドしながら上行して、最後から二つ目の音で頂点に達し、半音下がって広がりを保ったまま収まる。3小節のアルペジオの間奏があって第二節。4小節のアルペジオの後奏。たったこれだけで五月という季節の喜び、詩人のあこがれと胸の思いの高まりを過不足なく表現し得ている。
 シューマンの歌曲集にはシューベルトのようなドラマ性は希薄だが、練達の筆でさっと描いて見せる水彩画のような美しさがある。

 中学三年の時にハイネの詩に夢中になったことがある(同級の女の子に夢中になったせいである)。じつは今読み直すと、「なんじゃ、こりゃあ」なものが多いのだが、中には思い出の中のきれいなリボンのような、なかなか懐かしい良いものもあって、嬉しくなる。
 その頃愛読した岩波文庫版の井上正蔵訳「歌の本」では、こうなっている。

  つぼみひらく
  妙なる五月
  こころにも
  恋ほころびぬ

  鳥うたう
  妙なる五月
  よきひとに
  おもいかたりぬ

 なお、高校の音楽で習った歌詞は、正確ではないかもしれないが、下記のよう。

  うるわし五月の
  花みな咲くとき
  私の胸も
  思いに燃える

  うるわし五月の
  鳥みな歌えば
  愛しい人に
  思いを告げた

 どれもみな良い。最後のは、いまでも歌える。
コメント
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