うるわしくも美しい五月に
すべてのつぼみがほころびそめると
ぼくの心のなかにも
恋が咲き出でた
うるわしくも美しい五月に
すべての鳥がうたい出すと
ぼくもあのひとに打ち明けた
ぼくの心のひそかな想いを
この歳になって恋の告白、じゃないですよ。
家に閉じこもっていて意欲がわかないので、思いついて歌を聴きなおしている。意欲を掻き立てなくても聴くのはできる。バリトンのCDをけっこう持っていて、以前から好きなのも、どんなだったか忘れていたものも、ぼつぼつ聴いている。
これは、ロベルト・シューマン作曲、歌曲集「詩人の恋」の第一曲「うるわしくも美しい五月に」。詩はハインリッヒ・ハイネ、詩集「歌の本」より。訳詞は音楽評論家の喜多尾道冬。
この歌は高校の選択音楽で習ったことがある。
演奏時間1分30秒ぐらいのごく短く、だが、春の陶然とした喜びに共感できる曲だ。
上行するアルペジオの前奏が4小節。有節形式で一つの節がわずか8小節。ゆったりとおだやかな歌い出しが2小節。その旋律が繰り返されたのち、後半4小節は16分音符と付点4分音符の弾むような音型がクレッシェンドしながら上行して、最後から二つ目の音で頂点に達し、半音下がって広がりを保ったまま収まる。3小節のアルペジオの間奏があって第二節。4小節のアルペジオの後奏。たったこれだけで五月という季節の喜び、詩人のあこがれと胸の思いの高まりを過不足なく表現し得ている。
シューマンの歌曲集にはシューベルトのようなドラマ性は希薄だが、練達の筆でさっと描いて見せる水彩画のような美しさがある。
中学三年の時にハイネの詩に夢中になったことがある(同級の女の子に夢中になったせいである)。じつは今読み直すと、「なんじゃ、こりゃあ」なものが多いのだが、中には思い出の中のきれいなリボンのような、なかなか懐かしい良いものもあって、嬉しくなる。
その頃愛読した岩波文庫版の井上正蔵訳「歌の本」では、こうなっている。
つぼみひらく
妙なる五月
こころにも
恋ほころびぬ
鳥うたう
妙なる五月
よきひとに
おもいかたりぬ
なお、高校の音楽で習った歌詞は、正確ではないかもしれないが、下記のよう。
うるわし五月の
花みな咲くとき
私の胸も
思いに燃える
うるわし五月の
鳥みな歌えば
愛しい人に
思いを告げた
どれもみな良い。最後のは、いまでも歌える。
すべてのつぼみがほころびそめると
ぼくの心のなかにも
恋が咲き出でた
うるわしくも美しい五月に
すべての鳥がうたい出すと
ぼくもあのひとに打ち明けた
ぼくの心のひそかな想いを
この歳になって恋の告白、じゃないですよ。
家に閉じこもっていて意欲がわかないので、思いついて歌を聴きなおしている。意欲を掻き立てなくても聴くのはできる。バリトンのCDをけっこう持っていて、以前から好きなのも、どんなだったか忘れていたものも、ぼつぼつ聴いている。
これは、ロベルト・シューマン作曲、歌曲集「詩人の恋」の第一曲「うるわしくも美しい五月に」。詩はハインリッヒ・ハイネ、詩集「歌の本」より。訳詞は音楽評論家の喜多尾道冬。
この歌は高校の選択音楽で習ったことがある。
演奏時間1分30秒ぐらいのごく短く、だが、春の陶然とした喜びに共感できる曲だ。
上行するアルペジオの前奏が4小節。有節形式で一つの節がわずか8小節。ゆったりとおだやかな歌い出しが2小節。その旋律が繰り返されたのち、後半4小節は16分音符と付点4分音符の弾むような音型がクレッシェンドしながら上行して、最後から二つ目の音で頂点に達し、半音下がって広がりを保ったまま収まる。3小節のアルペジオの間奏があって第二節。4小節のアルペジオの後奏。たったこれだけで五月という季節の喜び、詩人のあこがれと胸の思いの高まりを過不足なく表現し得ている。
シューマンの歌曲集にはシューベルトのようなドラマ性は希薄だが、練達の筆でさっと描いて見せる水彩画のような美しさがある。
中学三年の時にハイネの詩に夢中になったことがある(同級の女の子に夢中になったせいである)。じつは今読み直すと、「なんじゃ、こりゃあ」なものが多いのだが、中には思い出の中のきれいなリボンのような、なかなか懐かしい良いものもあって、嬉しくなる。
その頃愛読した岩波文庫版の井上正蔵訳「歌の本」では、こうなっている。
つぼみひらく
妙なる五月
こころにも
恋ほころびぬ
鳥うたう
妙なる五月
よきひとに
おもいかたりぬ
なお、高校の音楽で習った歌詞は、正確ではないかもしれないが、下記のよう。
うるわし五月の
花みな咲くとき
私の胸も
思いに燃える
うるわし五月の
鳥みな歌えば
愛しい人に
思いを告げた
どれもみな良い。最後のは、いまでも歌える。