名月の光届かぬ埋もれ屋の影黒うして踵返す日
父祖の地は除染進まず潮騒も汚染隠して名月の下
山の幸セシュウムキノコと成り生えて海幸溢れ船船溜まり
規制線立てば我が町秋の日に紅葉燃やして目の前遠く
集落の人は散り散り戻り来ぬ数えてみれば限界集落
名月の光届かぬ埋もれ屋の影黒うして踵返す日
父祖の地は除染進まず潮騒も汚染隠して名月の下
山の幸セシュウムキノコと成り生えて海幸溢れ船船溜まり
規制線立てば我が町秋の日に紅葉燃やして目の前遠く
集落の人は散り散り戻り来ぬ数えてみれば限界集落
地下に壁汚染防げぬバカの壁水位上がりてつぎ液状化 溶労 猛
木も草も七十五年は生えないの被爆地よりも厄災永し 美来栄誤
七重八重防護尽くさぬ嘘吹きは実のひとつだになさず危うし 嫌冥震脳
成る様に成るさと被爆今日の日も昨日と同じ明日も同じ 浸日一炉
取り敢えずやっつけ仕事で蓋をする未必の故意じゃ泥縄式じゃ 跡死末
塵散らす聞かまほしき故郷の今見て帰る人ひとり無理
散り散らす聞かまほしきふるさとの花見て帰る人もあはなむ 伊勢
たづねつる里は葛葉にうづもれて谷田にイノブタ一声ぞする
たづねつる宿は霞にうづもれて谷の鶯一声ぞする 藤原範水
住むことも出来ぬ故郷秋の夜は帰る光のさびしかりけれ
住む人もなき山里の秋の夜は月の光もさびしかりけれ 藤原範水
音もせぬ家を立ち出でながむればいづこも同じ人無き家屋
さびしさに宿を立ち出でながむればいづこも同じ秋の夕暮れ 良暹
ざざ漏れの国の岩屋は心さびて荒れたみちのく見れば悲しも
さざなみの国つ御神の心さびて荒れたる京見れば悲しも 高市古人
ま草生ゆ荒れ野になれど黄葉の過ぎにし家族形見とぞ来し
ま草刈る荒野にはあれど黄葉の過ぎにし君が形見とぞ来し 柿本人麻呂
憂きこと想い辛かり借り金で泣きつつ仮設秋の夜な夜な
憂きことを思ひつらねてかりがねの鳴きこそ渡れ秋のよなよな 凡河内躬恒
未だ帰ぬ人もありけるみちのくは誰も行けずに住めぬ場所あり
まだ知らぬ人もありける東路に我も行きてぞ住むべかりける 藤原実朝
ひんがしに浪起ち襲う知りえてもかほどの事と誰が知るらん
あがらえぬ地の営みに我が日々は波の間に間に没し消え去り
たちまちに浪に呑まれて失えど失い続く民も彼方此方
復旧も出来ず復興いつの日か永田茫々霞むや堰も
嘆きより嘆き道にぞ入り出れぬ君子よ示せ故郷への道
元通り夢想はしないこれからは新たに築く赤子の一歩
戻りたい戻れない地と覚悟して自分で決めたもう戻らない
出口なく地域のすべて仮置き場仮の住まいに身を置く仮世
子のために親のためにと生き別れ生きていてこそまた来る朝
捨て場無く子々孫々に災禍為す十万年も核汚染物
生は危機冥府魔道へひた走る始末もならぬ核生起物
陰陽師呼びたし核の生起物生身焼かれる子孫に巣喰う
一基でも炉心暴露となりうれば避難の連鎖で列島無人
ふたとせを経ても故郷影もなき破壊の跡に芽吹くは野草
入りたき仮設さえすら届かねば今は異郷で山並み眺む
彼岸会に会えたき事もかなわずに越えがたきかなこの規制線
はや二年難民同様仮住まい戻る術なく戻れる地無し
葬列も無く不明者は壇を出で無縁で還る悠久大地
年越しを重ね仮設に留め置かれ更地雪原ビジョンの如し
復興も看板のみで年越せば今や仮設のホームレスなり
慈善慈悲頼りに明けたふたとせは無策無能を思い知る道
半世紀政局騒動一筋のその一手間を欲しき下々
今生は愛別離苦の世と知るも怨憎会苦ぞあの日の被曝
断ち切られ一日千秋めぐり打つ寄るべ無きなり胸のさざなみ
四苦をを受け八苦を知りて仮住まい浮世とはいえうたかたの日々
大震災絶望千里のみちのくも希望は萌えるささやかな春
風花の舞えば去来すあの一夜凍えた我等消えゆく温み
初雪や渚に落ちて波の中波よ届けよ故郷の雪
栗駒の深層崩壊山肌を雪は蔽いて手当てのごとく
岩手山雪の冠陽に映えて印となりて来ぬ人を呼べ
夏草は折れるがままに枯れ立ちぬあの日思わる更地の故郷
仮住い浮世なればと胸に言う孤独の孤立仮設で独り
寄り合いの日々はあの日の彼方なり今はすべなく独りの八十路
爺の身は酒を入れずに何とする終の棲家の仮設で独酒
喰う寝るの独房の日々晩年を仮設におれば茶友夢見る
復興は前人未到の事なれど老いのわが身は彼岸へ野菊
前の浜前途洋洋後ろ盾前途多難もここに幸在る
あの時に絆奪われ抜け殻も絆によりて今ここに起つ
風呂上り仮設を出でて沖見ればさそり座すでに西に傾く
防護服住むは適わぬ故郷のパンドラの箱あの森の先