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今日の筆洗

2018年11月13日 | Weblog

 「政治家に大切なものが二つある」。十九世紀の米政治家マーク・ハナが言っている。マッキンリー大統領の参謀だった人でいわく「ひとつはマネー」。なるほど。「もうひとつは忘れた」。金しかないのか▼お金もそうだが、今の日本の政治家に出世の上で大切なものは人事、特に閣僚ポストだろう。大臣に何回なったか、何大臣に起用されたか、政治家の能力やましてや人間性とは無関係に「実力」と見なされる。したがって皆、必死になる▼衆院当選連続十一回。高い政治手腕、人脈、交渉力を持ちながら、ついに大臣とは縁のなかった実力政治家の死を悼む。自民党の園田博之さん。七十六歳。大臣になれなかったわけではない。ならなかった▼一九九三年、新党さきがけを結成し、自民党政権打倒につないだ。以降も続く目指した政界再編の長い道のり。成功も失敗もあった▼されど、己の欲で政界をさまよう人ではなかった。「政治家にとって大切なもの」。そう聞かれれば、「より良き政治」とちょっと照れながらも本音でそう答えただろう。少しでもより良き政治に向けて知恵をしぼり、説得し、もがいた人である▼父親の園田直さんは外相などを歴任した。大臣経験のない息子を叱るまい。いかに自民党を倒したか。自民党と社会党(当時)にどう政権を組ませたか。奇跡の大仕事を興味津々で聞きたがるだろう。

 
 

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今日の筆洗

2018年11月10日 | Weblog

  冥土に通じる六道の辻(つじ)と考えられた場所が京都にある。あの世とこの世の境目だ。ここの飴(あめ)屋に毎夜、青白い顔の女が訪ねてきた。一文銭を手に「ひとつ売っていただけませんか」。落語にある『幽霊飴である▼「どうもあれはただもんやない」。あちらの方か、こちらの人か。店の者は迷う。三途(さんず)の川の渡しにと棺おけに入れる六文を思い出した。七日目、女は銭を持っていない。すでに亡くなっていて、生き残った子どもの飴がほしくて…▼あちら側とこちら側が接する境界線には、物語が生まれる。六道の辻が登場する作品は多い。戸惑いの物語となるのだろうか。来年秋には、こちらの境界線も、逸話を生むことになりそうだ▼消費税の引き上げを前に、国税庁が先日、課税ルールの手引を改訂した。適用される軽減税率をめぐり、8%なのか、10%なのか。迷うケースがある。境界線の分かりにくさである▼回転ずし店で最初から持ち帰りなら8%で、食べきれず持ち帰ると10%。スーパーで買って、ベンチで食べる。見覚えのある光景だが、場合によって適用外になる。線引きが難しそうな例が実に多い。確かなのは、直感的にすべてを理解するのは、困難だということだ▼店側の準備と客側の理解が進まないと、混乱は起きるだろう。あちらなのか、こちらなのか、辻で戸惑えば、増税への不満までも膨らんでこよう。

まんが日本昔ばなし 幽霊飴

 

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今日の筆洗

2018年11月09日 | Weblog

 中国の五行説は、四季に四色を配している。青春、朱夏、白秋、そして黒い冬、玄冬だ。青春時代があるのなら、他の三つの時代が人生にあってもいいのではないか。宗教評論家のひろさちやさんがかつてそう主張していた▼そのうえで、白秋時代とは暗い冬を控えながら、<世俗を離れて、ゆったりと生きる時期>(『こころの歳時記』)ではないかと書いている。古代インドの人生観にも学んだようだ。働き盛りを過ぎたころからか、あるいは定年後あたりからか。身辺の整理に手を付けながら、心穏やかに過ごす日々。共感する人もいるだろう▼現実の白秋時代は別の方向に向かっている。政府は継続雇用の年齢引き上げの議論を本格化させた。高齢者の雇用拡大も目指している。生涯現役社会である。財政にも、人手不足にもいいそうだ▼元気で意欲がある人には、望ましい社会だろう。先週は、厚生労働省が厚生年金の受給開始を遅らせた場合の試算を公表している。場合によって、大きく増えるようだ▼一方で、人はいつまで現役なのか。どこまで働いて、いつ余生に入るのか。秋から冬にかけての人生観が、これから始まるという社会保障制度の改革のなかで、みえなくなっていないか▼<道にまよっているばかり>とは流行歌の「青春時代」だ。白秋に迷いは似合わない。穏やかな季節にしなければならないだろう。

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今日の筆洗

2018年11月06日 | Weblog

「あなたの肝臓をいただきます」。日本語だと、身の毛のよだつ怪奇映画の題名みたいに聞こえるが、ペルシャ語でこう言われたのならほほ笑むべきかもしれぬ。このおそろしい言い方で「あなたのためなら何でもする」「心から愛している」の意味になるそうだ▼恋人同士や家族の間で使う愛情の表現で肝臓を食べてしまいたいくらいに好きという意味らしい。肝臓に愛情を重ねた表現は他にもあり、父親が自分の子に「金色の肝臓よ」と呼びかけているのを聞いても、それは「いい子だね」という意味で、心配には及ばぬ▼ペルシャ語が公用語のイランでは昨日、かの国に向けて「あなたの肝臓をいただきます」とまるっきり正反対の言葉が飛び交ったにちがいない。米国がイラン核合意からの離脱を踏まえて、重い経済制裁を再開した▼制裁対象には国家収入の約三割を占める原油取引も含まれる。イラン経済には肝をつぶすどころの話ではなかろう▼日本など一部の国は当面、イランとの取引が認められるそうだが、やがては世界経済全体への打撃にもなりかねない▼粘り強い交渉もなく、ただ気に入らぬと合意を離脱し、制裁という米国の強気一辺倒のやり方は理解されまい。イランを追い詰め、かえって核開発の道を急がせないか。優しい愛の言葉ではなく、本来の「あなたの肝臓をいただきます」を選ばせてはならぬ。

 
 

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今日の筆洗

2018年11月05日 | Weblog

 英国の作家オスカー・ワイルドはこう書いている。<人はそのままなら、自分に正直になれない。仮面を与えよ。そうすれば、真実を語るだろう>▼仮面は人に力を与える。非日常の世界に人を導く。世界共通の力ではないか。一部の行いではあるが、あのハロウィーンの度を越した騒ぎも、仮装で素顔が隠れて、荒っぽい地が出たからと思える▼仮面と仮装の力で、真実ならぬ神の言葉を日常にもたらす。ナマハゲをはじめ各地にあるのはそんな風習だろう。どこからかやってきた神が、多くはおそろしげな仮面の奥から人々を見つめ、怠惰を戒める。もてなす家は豊作を願い、新たな一年に気持ちを向ける行事だ▼国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に、わが国の「来訪神(らいほうしん) 仮面・仮装の神々」が登録される見通しとなった。今月下旬にも正式に決まりそうだ▼「男鹿のナマハゲ」を含め八県の十件である。写真などをみると壮観だ。「宮古島のパーントゥ」の南洋を思わせる異形の神など多彩さに驚く。民俗学者の柳田国男は列島各地の神々について<本来一つの根源に出(い)づることは…疑うことができぬ>(『雪国の春』)と書いた。確かに、同じ心象風景に収まる十件にもみえる▼継承に悩む土地も多いそうで、関係者は登録の正式決定に期待しているようだ。わが国の仮面と仮装も大切にしたいと思わされる。

 
 

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今日の筆洗

2018年11月02日 | Weblog

 「愛犬」「愛馬」という言い方がある。説明するまでもなく自分が愛し大切にしている犬や馬のこと。いずれも生きものだが、物や道具に対しても「愛」の字を使用するまれな例がある。お気づきだろうか「愛車」である▼なるほど自動車は愛情を注ぐ対象か。大切に磨き、傷をつけられようものならば大騒ぎもする。手放さねばならぬときには共に重ねた日々を思い出し、感傷的になったりする。と、ここまで書いたが、どうやら、今の人は車にそこまでの思いを抱かないものらしい。確かに「愛車」という言葉も以前ほどは聞かぬ▼そういう時代の変化なのだろう。トヨタ自動車が好きな車を自由に選び利用できる定額制サービスと一台の車を複数の人が利用するカーシェアリング事業を近く開始すると発表した▼人口減による将来的な新車販売台数の落ち込み。特定の車を所有することへのこだわりが薄れる時代を見すえ、多様な使い方を提供し「まずは乗ってもらおう」という戦略らしい▼一九八〇年代、高級車クラウンの広告にこんなのがあった。「いつかはクラウン」。所有する夢をささやいていた▼定額制やカーシェアリングで「いつでも」「だれでも」のクラウンになるのか。悪い話ではなかろうが、自動運転化を含めて、車が単なる道具、移動手段になっていくご時世が時代遅れの「愛車」の世代には少々寂しい。

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今日の筆洗

2018年11月01日 | Weblog

 「おしん」「渡る世間は鬼ばかり」などの脚本家、橋田寿賀子さん(93)は大学在学中に映画会社の入社試験に合格した。戦後間もない時代。当時、その世界での女性進出はまだ珍しく、入社しただけで雑誌のインタビューなども受けたそうだ▼脚本部に入ったが、男社会に泣かされる。同期の男性社員は脚本の下書きを任されるのに自分には回ってこない▼ついにある日の宴会で怒りが爆発する。上司に酌をしろと言われ、「同じ(脚本)ライターの男がしていないお酌を、なぜ私がしなければならないの」。そのせいで「橋田は使えない」と悪評を立てられたそうだ。「屈辱的な時代だった」と振り返っている▼橋田さんが聞けば、こんなことをまだ…とため息をつくだろう。百十四銀行(高松市)前会長のセクハラがらみの処分である。会食中、取引先の人間が女性行員に働いた不適切な行為をとめず、守らなかったことが社内調査で問題になった▼昭和のドラマでもあるまいにお得意さんのご機嫌とりでそれを目撃しても、もみ手でもしていたか。女性行員にしてみれば取引先から不快な思いをさせられた上、味方のはずの上司は見て見ぬふりとあっては本当に「渡る世間は鬼ばかり」と思えただろう▼商いがだめになろうと部下を泣かせる品のない取引先を一喝する熱血上司。同じ昭和調のドラマならこっちの方が見たかった。

 
 

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