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今日の筆洗

2015年12月27日 | Weblog

 かつての年の瀬の忙しさについて美術家の篠田桃紅(とうこう)さんが、『一〇三歳、ひとりで生きる作法』(幻冬舎)の中に、書いていらっしゃる▼学校が冬休みに入るやいなや、お母上から、年用意のお手伝いを言いつけられる。「部屋を片付けなさい」「ガラス戸を磨きなさい」「お座敷の手あぶりをふき、百人一首を出しておきなさい」。年に一度しか使わぬ酒器やお盆を磨かされ、お節料理づくりを手伝い、お使いにもいかされる▼「どうして、こんなに大騒ぎするの」という少女時代の篠田さんの質問にお母上はこう答えたそうだ。「お芝居で言えばお正月は舞台で、暮れは楽屋だから大騒ぎなのよ」▼百人一首はまだしも、手あぶりなどとはすっかり縁遠くなった世の中にあっては「お正月は舞台」という感覚も失われつつある。大掃除は一日で済ませ、お節料理はもはや、こしらえる物ではなく、注文する物になったか▼目まぐるしい時代にあっては、正月といえど、特別な感覚も抱きにくいのは確かで、十二月と二月の間の他と変わらぬ一カ月。味気ないといえば味気なく、篠田さんの時代に生まれていれば、煩わしく感じたであろう年の瀬の言いつけや「家族の会話」が少々うらやましくもある▼楽にはなったとはいえ、手間のかからない、その晴れ舞台が前衛芝居のようにあまりに「殺風景」になっていくことも寂しい。


今日の筆洗

2015年12月26日 | Weblog

 世界では毎日、およそ一万六千もの小さな命が消えていく。五つにならぬうちに逝ってしまう子が、一年に五百九十万人もいるのだ▼その多くは、救える命だという。母親が安心して出産できる環境と新生児を見守る態勢を整え、感染症の予防策をとる。そうすることで「二〇三〇年までに、新生児と五歳未満児の予防可能な死亡を根絶する」との目標を国連は今年、新たにつくった▼国境なき医師団(MSF)日本の会長・加藤寛幸さん(50)は、そんな小さな命を守る最前線を、アフガニスタンで見てきた。MSFが運営する病院の新生児室で治療にあたったが、日本でならば救える命が失われていく場面に、何度か遭遇したという▼それでもお母さんたちは表情を変えず、感謝の言葉を残し去って行く。お産の時も驚くほどの我慢強さを示す。余りに長い戦乱と貧困。「困難な生活が彼女たちを無表情に、そして我慢強くさせているのだろうか」と加藤さんは語る▼そういうお母さんたちに医療を届けるには、多くの人の寄付が欠かせない。日本のNPOなどが今年から「一年の終わりに、未来を考えて寄付をする習慣を」と、十二月を「寄付月間」にする取り組みを始めたそうだが、なるほど歳末の慌ただしい日々だからこそ、視線を少し先に置いてみたい▼未来のための一足早いお年玉。そんな新しい習慣ができるだろうか。