そろそろ寒くなってきた。昭和の名人、古今亭志ん生の「厩(うまや)火事」のおなじみのマクラが浮かぶ。「おまえさん、なんか見込みがあってあの人と一緒になってんのかい」。どうやら亭主は遊び人らしい▼そう聞かれ、おかみさん、「見込みなんかありゃしないよ、あんなやつ」ときっぱり。「じゃあ、なんで一緒になってんのさ」の答えがふるっている。「だって寒いんだもの」。どんな人でもそばにいてくれたら温かい。口の悪さの向こうに仲の良い生活がうかがえる▼首都キーウの最低気温は既に二度というから寒さの訪れは日本よりも駆け足だ。今年二月のロシアの侵攻から二度目の冬が近づくウクライナである▼ウクライナ国営の配電会社が国民にこんなものを用意してと呼びかけているそうだ。「靴下、毛布、友人や家族のハグ」。ロシアの攻撃によって発電能力の約四割が失われ、深刻な電力不足に陥っている▼志ん生のかつての住まいは本当に寒かったらしい。家族で「体をくっつけあって」寝ていたと娘さんの美濃部美津子さんが書いていたが、まさか、この時代に寒さしのぎの「ハグ」が必要とは心もとない▼電力インフラを狙ったロシアの攻撃は寒さによってウクライナ国民の戦意を衰えさせる戦術と伝わる。「寒いんだもん」と凍える人に国際社会は支援という温かいハグを用意したい。本格的な冬が来る前に。
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