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今日の筆洗

2020年10月28日 | Weblog

 作家、安岡章太郎さんが飼っていた犬のコンタはよく逃げたそうだ。「何となくこちらが犬のことを忘れていると、いつの間にかスーッといなくなってしまう」。飼い主に手間をかけさせてやろうという魂胆らしい▼ある晩、コンタを捜していると工事現場の陰で五、六匹、よその迷い犬らしいのを後ろに従え、歩いていた。コンタと大声で呼ぶと「はっとこちらを向いて、しまったという顔になって立ちすくんだ」。その姿に安岡さんは不良少年だったころ、仲間といるところを母親に呼び止められたことを思い出したと書いていた▼兵庫県警の警察犬が行方不明者を捜索中、逃げたというニュースが心にひっかかっていた▼訓練された優秀な警察犬とはいえ、大型犬である。事故など起こさねばよいがと心配していたが、その半面で、職場を放棄し、そのまま逐電した犬に少々胸が高鳴ったと書けば、叱られるか。なにかを求めて黒いシェパードがひた走る▼二晩が過ぎ、保護された。リードが木に絡まって動けなくなっていたところを発見されたそうだ。見つかったときは、やっぱり「しまった」という顔をしたのだろうか。おまえは何を探していたのかと聞きたくもなる▼「クレバ」という名前だそうだ。職場に不満でもあったか。クレバよ、それでもまじめに勤めるしかないではないか。いいことも必ずある。無事で何より。