TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「タイラとアヤコ」5

2017年06月13日 | T.B.1961年

雨の日。

一人、西一族を離族した、と
そんな噂が村に広がる。

「離族かぁ」

詳しい事はタイラ達には分からないが、
一族の皆が名前と顔を知っているくらい
腕の立つ者だった。

どこにも属せず、一人で生き抜かなくてはいけない。
どれだけの苦労が待っているだろう。

「あんなに成功している人でも
 嫌になる事があるのだろうか」

上に立つ者には
また違った悩みもあるのかも知れない。

「才能は無くても困るが
 ありすぎても困るのかな?」

むむむ、と首を捻る。

「………なぁ、アヤコどう思う」

さっきから、この部屋には二人なのに
タイラばかりが話しているので
独り言が大きな人の様になって居る。

「おい、アヤコってば」

アヤコはソファに座り
雨粒が流れる窓を
じっと見つめている。

「……寝てんのか?」

覗き込もうとしたタイラを避けるように
アヤコが顔を逸らす。

「???」

ぐずっと
小さく鼻をすする音が
部屋に響く。

「!!!!??」

「え、おま、アヤコ。
 泣いてんの??」

「うるさい、だまれ」

そのままばっと顔を伏せる。

「タイラ、こっちおいで」

様子に気付いた母親が、台所から
小声でタイラを呼ぶ。

「母さんあいつどうしたの?」
「女には色々あるのよ。
 そっとしておきなさい」

「え?
 今、そういう時期?」

タイラにはアヤコと母親から同時に物が投げられる。
デリカシー大事。

「えぇ、じゃあ
 俺が何かしたっけ?」

あのねぇ、と
母親がそっと教える。

「璃族した人」
「うん」
「好きだったんだって」

「………そっか」

そうか、あの人だったのか。
意外とワイルド系が好みだったのかアヤコ。
そして、ちょっと年上だぞ。

母親は食事の準備をしている。
アヤコの好物だ。

さらに、香草を刻んだ物を
好みで乗せるが
アヤコはこれを多めにかけるのを好む。

「ちょっと、庭で香草とってくる」
「あら、雨降ってるわよ」
「いいよ、兄妹のためだからな」

これで少しは元気になれば良い。

「あの人かぁ」

手の届かない人と言えば、そうかもしれない。
人気のある人だ、恋人だって居たのかも知れない。

あの時アヤコが相手の名前を言わなかったのは
そういう事もあってだろう。

ひとり部屋に残されたアヤコは言う。

「次は、物静かな、
 落ち着きのある人を好きになる」


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「タイラとアヤコ」4

2017年06月06日 | T.B.1961年

タイラは村人数人と、
北一族の村へ繰り出している。

村の特産である干し肉を卸すためだが、
それは早々に済ませて
通りを練り歩く。

北一族の村は市場の街。
各地から色々な品が集まってくる。

屋台を巡り、
めったに口にしない他一族の料理をほおばり、
珍しい特産品を眺めて回る。

「それじゃあ、しばらく散策して
 夕刻に同じ場所で」

まとめ役がそう言うと
じゃあ、あとで、と互いに手を振る。

タイラは、砂一族のスパイスを自宅用に。
今日は村に残った友人には
珍妙な飾りを土産に選ぶ。

後は、アヤコの分。
北一族の村に来るならば、と
タイラは品を決めていた。

「確か、露店街の端の店」

以前の狩りの時に
良いなと欲しがっていた菓子。

「………どんな、だっけ?」

辿り着いてみれば、同じ様な店が並ぶ。

包装紙が可愛いのだと言っていたが
中身が美味しければ外装には興味が無いタイラとしては
なにがなにやら、だ。

あと、女性が多くて
長時間滞在できる気がしない。

「直感で選ぶしかない」

そして、この場を早く立ち去ろう。

「っつと」

考え事をしていたせいで、
人にぶつかりそうになり
慌てて避ける。

「ごめんなさ」

謝りかけて、言葉が裏返る。

「ひがっつ」

黒髪に黒い瞳。
そして、黒い衣装。
タイラ達と正反対のその一族。

東一族。

彼らは湖を挟んで反対の岸部で暮らしている。
生活習慣や考え方の違いから
西一族とは何かと反りが合わない。

忘れていた。

この市場には
各地から人が集まる。

他一族との接触には
細心の注意をはらわなくてはいけなかった。

「あの、えっと」

相手の男と背格好は大きく変わらない。
が、男の方が一回りほど年上。
武術を嗜んでいるのが見て取れる。

「いや、こちらも余所見していた」

男が静かに返すが
睨み付けられているようで
タイラは返事が出来ずに固まってしまう。

あまりにも慌てているその様子に
東一族は呆れたように言う。

「落ち着け、商品を握りつぶして居るぞ」
「……あ」

袋を思いっきり握ってしまっていた。

「すみません、
 これちゃんと買い取りますんで」

振り返って店主に謝るタイラに
東一族は表情を緩める。

「恋人に土産か?」
「姉、あの、双子の片割れで」

ああーっ、
正直に答えずに「はい恋人です」って言っとけば良かった。

混乱しすぎて
タイラはよく分からないことに頭が回る。

「この店の人気はあちらの、桃味だ。
 妻の好物でな」

それだけ言うと、タイラを避けて
店で買い物をして、東一族の男は立ち去る。

「怖がらせて悪かった」

その場に1人残されたタイラは
ゆっくりと息を吐く。

「びっくりしたあ」

東一族をあんな間近で見たのは初めてだ。
魔法を使い、動物を操るという。

もしかして、いつか
西一族と大きな諍いが起きるのでは、と
危惧されている。

でも、悪い人には見えなかった。
狩りを行う西一族とは
反りは合わないかもしれないが。

「付き合い方次第だろうか」

誰かがこの様子を見ていたら
情けないと叱られるかも知れないが
ある意味貴重な体験だった。

「あ、そうそう、お代」

土産と潰してしまった分。
払おうとすると、店主が言う。

「さっきの人が全部払っていったよ」

「………かっこよさすぎるだろ」

これ、どっちか女だったら
恋とか始まってたわ、と
タイラは誰にともなく頷く。

ちなみに、集合時間には遅刻した。




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