TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「タロウとマジダとジロウ」5

2017年03月14日 | T.B.2001年

「迂闊だったわ、
 私とした事が」

マジダが唸りながら
テーブルを叩く。

「【タロウ】と【ジロウ】の字面が似ていて
 判断しづらい!!」

由々しき問題勃発。

字面?響きじゃなくて?と
思いつつも、
タロウはいつも通り整備の作業を続ける。

「あのな!!えっとな!!そうだな!!」

何か上手い相打ちを打たねば、と
ジロウが頑張るが
いまいち良い返答が出てこない。

むしろマジダは独り言に近いので
返答なんてなくても
思考を続ける。

「タロウが黒髪、
 ジロウが白髪だから
 【クロ】と【シロ】ってのはどうかしら」

「「……いや」」

どっちにしろ、
飼い犬の名前のようだ、と
タロウが思い、
それはそれで字面似てない?と
ジロウが思った。

「いっそ、【タ】と【ジ】って
 呼ぼうかしら」

一文字。

「止めろよ―!!!」

ぎゃあ、と
【ジ】担当のジロウが叫ぶ。

「絶対変な噂立つ。
 あいつ痔とか言われる!!」

「……まぁ、
 似ていて紛らわしいなら
 俺の事は【お兄さん】でも良いんだよ」

タ、で良かった、と
胸をなで下ろしていた
タロウが提案する。

そう、

タロウもこのあだ名は心地よいが
新しく出来た後輩には
道を譲ってあげたい。

「分かってないわねタロウは!!」

マジダ、落胆のため息。

「コンビは響きが似ているのが
 良いんじゃない!!!」

い●よく●よ師匠。
や●しき●し師匠。
等々。

「そう考えると、
 字面が似ているってのは
 紛らわしいけどいいのかもしれないわ」

マジダ一人で問題提起して
一人で解決。

「いや、俺達」
「べつにコンビじゃ」

ないです。



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「涼と誠治」14

2017年03月10日 | T.B.2019年

 扉を叩く音。

「何か、様子がおかしいと思って来た」

 家に入るやいなや、村長は中を確認する。
 隣の部屋も。

 何かを、探している。

 涼は、その様子を見る。

「どう云うことだ?」

 村長が訊く。

「ここの娘はいないのか?」

 涼は答えない。

「涼?」

 涼は、立ち上がる。

「まさか」

 村長の顔色が、変わる。

「逃がしたか」

 村長は、涼を掴む。

「あの娘はどこへ!」

 涼は首を振る。

「云わないで。と、云われた」
「何?」
「云わない約束をした」
「涼!」

「あの子は、出たかったんだと思う」
 涼が云う。
「この、西一族の村から」

 村長は舌打ちをする。

「あの娘を逃がすわけにはいかないんだよ!」

「なぜ?」

 視線の合わない涼の目を見て、村長は答える。

「あの娘は、人質だからだ」
「へえ」
「西一族のための人質だと、お前も判っているはずだ!」

 村長が云う。

「あの娘の父親は諜報員だ」
「知ってる」
「西にあの娘を縛ることで、父親を裏切らせないようにしている!」
 さらに、
「お前に対する人質でもあるんだ!」

 涼は首を振る。

「あの子は人質じゃない」

 涼が云う。

「少なくとも、俺にとっては」
「お前、あの娘を見棄てると?」

 涼は再度、首を振る。

「そう云うことじゃない」
「判ってる。お前はそう云うやつだ」
 村長が云う。
「お前は、あの娘を守り抜くんだろう」

 涼は答えない。

 村長は息を吐く。

「この前も云ったが」

 村長が云う。

「お前が裏切らないと、信じている」

 村長は、扉を開ける。
 家の外に、誰か待機しているのか。

「おい、黒髪を見張れ!」

 村長は声を上げる。

「あの女医者もだ!」

 村長は続ける。

「それから、南に伝令を出せ! 娘の父親に待機命令を!」

 村長は振り返り、涼を見る。

 涼が云う。

「今のが、あの子を縛っている者たちか」
「……涼」
「全部で、3人」

「この話はしまいだ!」

 村長が云う。

「この家から、動くんじゃないぞ」

 そう云うと、村長は外へと出る。

 涼は、扉が閉められたのを見て、椅子に腰掛ける。



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「タロウとマジダとジロウ」4

2017年03月07日 | T.B.2001年

「微笑ましいなぁ」
「何がよ?」

マジダが首を捻るが
なんでもないよ、と
タロウはほっこりする。

マジダが遊びに来る時は
必ずジロウも来るようになった。

でも、相変わらず
タロウには慣れてくれない。

少し離れた所から
マジダとのやりとりを見ていたり
タロウに牽制を飛ばしてきたり。

「ねぇマジダ。
 ジロウとは仲良いの?」

「うーん、よく遊ぶけど
 最近やけに突っかかって来るの。
 意地悪言ったりとか」

「うふふふ」(タロウの笑い声)
「なぜ笑う」

そう、マジダの事が気になるくせに。
上手く出来ない不器用な所。

一回りも歳上のタロウにしてみれば
微笑ましい事この上なし、なのである。

「マジダが
 もう少し大きくなったら分かるかな」

今だって、二人の会話に聞き耳を立てている。

頑張れ、応援しているぜ、と
タロウは親指をぐっと立てるが
これ、逆効果。

「……分かったわ!!」

暫く考え込んでいたマジダが
突然大きな声を出す。

「ジロウもタロウと
 遊びたかったのね!!」

そう来た、か。

「確かに、今まで
 私一人がタロウを占領していたかも」
「ちちちちちちげーよ!!」

ジロウ反論するも、
素直になりきれず上手く伝わらない。

「それで怒って
 意地悪してきた、と」

おまけにそれはそれで
辻褄が合ってしまう事態。

「それなら私、
 今日は帰るわね!!」

思い立ったら行動が早いのがマジダ。
それじゃ、と
タロウ達が止める間もなく帰って行く。

「………」
「………」

作業小屋には二人が残される。
タロウは言う。

「ジロウ、その」

ジロウは半べそかきそうな顔で
タロウを睨み付ける。

「ジロウって呼んで良いのは
 マジダだけだ」

あだ名だけど特別な名前。
タロウもその気持ちはよく分かる。

「明日にまた
 一緒に遊ぼうって声かけてごらん」
「……ん」
「構って欲しくても
 意地悪を言っちゃダメだよ」
「……うん」

消え入りそうな声でジロウが頷く。

「気を取り直して、
 明日は二人でおいで」

な、と
同じ男としてアドバイスをするタロウに
ジロウが強く頷く。

「じゃあ、もう一つ。
 君のことは
 なんて呼んだら良いのかな」

俺からジロウと言われるのは
嫌なんだろう?
さて、どうしようか、と
問いかけるタロウにジロウは向き直る。

まるで
砂浜で殴り合い、
友情が生まれたライバル。

きりっと、胸をはって
ジロウが宣言する

「カイセイ」

「………おぉ?」

「気持ち良く晴れた空って意味の
 【快晴】だ!!」

「カイセイ……」
「そう」

「カイ、セイ」

タロウの顔色がみるみる青くなっていく。

「おい、タロウ??」

その様子に、驚いたのか
ジロウことカイセイが
とっさにタロウの事を呼ぶ。

タロウは小さな声で
ぶつぶつと呟いている。

「前半?前半は可?
 いやいやいや」

「おい」

「いっそ、部分的に抜き取って
 イイって呼んで良いかな!!」
「嫌だよ!!」

大河ドラマか。

「ごめん、無理!!」
「無理って何だ!!?」
「ジロ……カイっ……セイっには
 申し訳ないんだけど」
「はぁ?」

ここ一番のきりっとした顔で
タロウが宣言する。

「やっぱり君のことジロウって呼ぶね!!」

「はぁああああ!!?」

ジロウとタロウの友情は生まれそうで
生まれなかったのでした。


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「涼と誠治」13

2017年03月03日 | T.B.2019年

 家に戻ると、彼は、中を見渡す。

 以前まで暮らしていた村長の家ではない。
 ここ最近、暮らしはじめた、別の家。

 中には、誰もいない。

 彼は、持っていた弓と刀を置く。
 近くの椅子に、腰掛ける。

 部屋の中を見る。

 壁には肖像画。

 この家には、もともと4人家族が暮らしていたらしい。

 けれども、

 ひとりは、病院で寝泊まりし、
 ふたりは、西を出て、南で暮らしている。

 そして、

 残されたひとり。

 も、今は見当たらない。
 もしかしたら、
 そのひとりも、ついに、家を出て行ったのかもしれない。

 そう。

 彼の結婚相手。

 部屋の隅の棚には、見慣れないものが並ぶ。

 谷一族の鉱石。
 南一族の工芸品。
 東一族の刺繍布。

 どれも、西一族では見られないもの。

 と、

 彼は、背中を押さえる。

 背中が痛む。
 腕も痛む。

 昔、誰にだったか。背中に刀を差されたのが原因だった。
 神経が効かなくなる位置に、その傷は残っている。

 彼は、腕に巻かれた包帯を見る。

 怪我の治療用ではない。
 完治はしているが、傷痕を隠すために、包帯を巻いている。

 その包帯を取り、自身の腕を見る。

 そこに、規則的な模様が描かれている。

 彼の実の父親が、この模様を描いた。
 最初の頃より、ずいぶんと模様は広がっている。

 痛みが治まると、彼は再度包帯を巻く。

 椅子に坐ったまま、目を閉じる。

 しばらく、そうしている。

 夜が明け、

 彼は、立ち上がり、外の様子を見る。
 村は静かだ。

 家の扉を見る。

 誰もやって来ない。
 帰って来ない。

 彼は、家の中で待つ。

 しばらく食べなくても、何てことはない。
 そんな日々を送っていたことがあるから。

 彼は、ただ待つ。

 日が落ち
 また、昇る。

 たぶん、何日か経ったのだ。

 村が騒がしい。

 彼は、相変わらず、椅子に坐ったまま。
 家の扉を見る。

 そろそろ来る頃だ。

 涼は、そう思う。



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