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「涼と誠治」20

2017年12月08日 | T.B.2019年

 大きく息を吐き、高子は椅子に坐る。
 先ほどまで、涼の担当医がいたところ。

「大丈夫?」

 高子が云う。

 西一族一の医者であり、
 涼の結婚相手の、母親。

「まったく、何を考えているんだか」
「…………」
「稔(みのり)には診察以外で関わらないことね」

 それでも、稔が涼の担当医であることは、変えることが出来ない。
 村長が決めたことだから。

 再度息を吐き、医者は涼を見る。

「大丈夫だったの?」

 同じ言葉に、涼は首を傾げる。

「何が?」
「うちの娘」
「娘?」

「あなたが、うちの娘を助けてくれたんでしょう?」

 そう云って、医者は首を振る。

「いえ……。この云い方は、おかしいわね」
 云う。
「他人行儀だったわ」
「何が?」
「あなたとうちの娘は、結婚しているのだから」

 医者が云う。

「村の外で、ふたりとも危険な目に遭ったんじゃないかと」
「…………」
「お礼を云わなくちゃならない。助けてもらったことに」
「……皆、そう云うけれど」

 涼が云う。

「俺は何もしてない」
「確かに、娘を発見したのは別の人だけれども」
 医者が云う。
「本当は、あなたが……」

 涼は首を振る。

「俺はずっと、あの家にいたから」

「…………」
「…………」
「でも、」

 涼は再度首を振る。

「そう」

 医者が云う。

「話せないことは、絶対に話さないのね」
「うん」
「なら、娘から聞くことにするわ」
「あー……うん。そうか」
 涼が云う。
「話さないと思うよ」
「…………」
「怒られるから」
「……そうね」

 医者は涼を見る。

「ねえ。あなたは、……娘と馴れ合わないようにしている?」
「馴れ合わない?」

 涼は少し考える。

「そうなのかも」
 涼が云う。
「俺は、得体の知れない黒髪だから」
「……そう」
「医師様も父親も、心配するだろう」

 医者は笑う。

「まあ、父親はそうかもしれないわ」
「嫌な顔をすると思う」
 涼が云う。
「それが普通だ」
「ええ」
「でも、」

 涼は首を傾げる。

「医師様は、最初からそうではなかった」
「私?」
「そう」
「……ええ、」

 医者が云う。

「昔、西にいた黒髪の女性を、よく知っているから、かな」
「…………」
「気を悪くしないで」

 医者は話を戻す。

「……ありがとう」

 その言葉に、涼は何も云わない。

「娘を助けてくれて、ありがとう……」



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