しばらくして。
彼の住む家に、村長がやって来る。
「謹慎は終わりだ」
「…………」
「この家の娘が見つかった」
「そうか」
「近くの山の麓で、倒れていたらしい」
「…………」
「あの足でよく歩き回るもんだ」
村長は、生まれつきの足の悪さのことを云っている。
家の中を見回し、村長は涼の向かいに坐る。
「あの娘が北に向かったとか、余計な情報が出た」
いや、
「それも事実かもしれないが」
村長は、涼を見る。
けれども、視線は合わない。
「あの娘の話だと、父親のところへ行こうと村を出ようとした」
しかし、
「西を出る前に転んで怪我をし、そのまま何日もあの場所にいたと」
「へえ」
「そう云う、筋書きなんだな」
「さあ?」
「本当のことを話せ」
「何を?」
「お前、北に行ったのか」
涼は答えない。
「答えろ」
村長が云う。
「お前が北に行って、あの娘を連れてきたんだろう」
涼は首を振る。
「俺はずっと、ここにいた」
云う。
「この家には、見張りがいたんじゃないのか」
村長は目を細める。
「覚えておけ。あの娘は村の外へ出ることは出来ない」
そして、
「お前も、な」
涼が云う。
「外に行くのは、あの子の自由だ」
「あの娘は自由ではない」
「なぜ」
「何度も云わせるな。あの娘は人質だからだ」
「本人はそう思っていないみたいだけど」
「人質であることを伝えていない。両親がそう望んだ」
村長が云う。
「足が悪くて、そもそも、ひとりでは遠くに行けないからな」
けれども、
「これが続くようなら、本人に人質の自覚を持ってもらうまでだ」
涼が云う。
「父親に会いたいと思うのは、本人の自由だ」
「ばかなやつだ」
村長が云う。
「淋しいと感じたんだ」
「淋しい?」
「そう思わなければ、外へ行くこともなくなる」
涼は首を傾げる。
村長は立ち上がる。
「難しいことじゃない」
云う。
「例えば、子どもを持つ、とかな」
「…………」
「お前ぐらいの年は、どの一族でも子どもがいてもおかしくはない」
涼は首を振る。
結婚だけならまだしも、
「そんなこと、出来るわけない」
「一度、考えてみろ」
村長は再度、涼を見る。
「ほら。外へ出ていいぞ」
村長が云う。
「病院に見舞いに行ってやれ」
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