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「海一族と山一族」31

2018年01月23日 | T.B.1998年

「トーマ、右だ!!」

アキラの声にトーマは振り向く。

「っつ!!」

飛んできた矢が
トーマをかすめる。

見ると山一族の格好をした裏一族が
弓を握っている。

「気をつけろよ」

その裏一族が笑いながら忠告する。

「矢に毒を塗っておいたからな」

毒?と
アキラが目を細める。

「まさか、そんな事を」
「本当だ」

裏一族は矢をつがえる。

「砂一族特製の、な」

「砂」
「一族」

薬、とりわけ毒薬の製薬に関しては
右に出る者は居ないと言われる砂漠の一族。

「まぁ正確には
 元砂一族だけど」

声と共に
矢が降り注ぐ。

トーマとアキラは
それをなんとかかいくぐる。

「詳細を知られたんだ」
「生きて帰す訳、無いだろう」

だよなぁ、と
余裕を含ませて話す裏一族達に
トーマ達は息を呑む。

「安心しろ」
「お前達に関しては
 もっともらしい噂を流しておいてやる」

裏一族が
ふたりに近づいてくる。

「神隠しにあった、とか」
「永い旅に出た、とか」

永い旅。

トーマはふと思い出す。

以前、急に姿を消した者が居た。
それでも、誰も気に止めなかったのは、

―――あいつは旅に出たんだよ。
家の事情も色々ある奴だから。
思うところがあったんだろう。

なら、仕方無い。

そう思ったのだ。

込み入った事情なら、自分が口出しは出来ない。
詮索するのも野暮だろう。

自分だけではない。
大半の村人がそう思ったはずだ。

誰がそう言い出したのか
今となっては思い出せない。

が。

その当人は今戻ってきている。
それが
裏一族が儀式を急ぐ理由?

はたまた、
裏一族を仕切る者が
倒れでもしたのだろうか。

「それに、しても」

一族のふりをして
裏一族が見えないところで
事態をかき回していたと思うと
良い気分にはなれない。
戻ったら確認しないといけない事は
たくさんある。

だが

「アキラ」

背中合わせに立っているアキラに
トーマは声を掛ける。

「砂一族の毒は危険だ」
まずはこの状況を切り抜けねば。
「かすめただけでも、命取り、か」

砂一族の毒は
死すら許されない苦しみの毒だと言われている。

「つがえた矢の向きをよく見ろ」

アキラの言葉に
トーマは頷く。

「風は無い。避けられる」


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