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「成院とあの人」7

2014年06月24日 | T.B.1999年

ぐるり、と景色が回る。
投げられたのだと気付き
成院はとっさに受け身を取る。

相手の力を受け流す
東一族では使わない珍しい体術だ。

「な、ん」

今度は成院が言葉を詰まらせる番だった。
西一族の青年は服の汚れを振り払いながら立ち上がる。

「腕はたつようだけど、
 諜報員……では無いのか?」

不思議そうに成院を眺め、首を捻る。

「偶然迷い込んだ訳でもないだろうし。
 まさか本当に、薬を探しに来たのか?」

成院は距離を取り窓辺に近寄る。
今の物音で誰かが来ないとも限らない。

「薬……東一族……あぁ、そういう事か」

先ほどとは随分雰囲気が違う。
その様子に成院は冷や汗をかく。
異様に喉が渇き、緊張しているのが分かる。

もしかして、自分は判断を間違えたかも知れない。

「東一族で流行っている伝染病、かな」

青年の言葉に成院は驚愕する。
そこまで情報が知られているとは。

ただの西一族が、
交流のない東一族の事をそこまで知っているのだろうか。

「おまえ、なん、だ」

あぁ、と青年は成院に向き直る。

「俺は、西一族の諜報員だ」

外見に騙された、と成院は唇を噛む。
先程はあえて、弱いふりでもしていたのだろうか。
確かに成院はそれでとっさに手を抜いている。

「他一族の侵入を簡単に見逃すと思ったか。
 西一族を甘く見すぎだ」

くらり、と目眩がして
成院は膝をつく。

「……え?」

立ち上がろうとするが上手く力が入らない。
こんな時に、なぜ、と成院は混乱する。
先程受け身を取ったときに、どこかぶつけただろうかと。
それとも。
「何か、したのか??」
「………」
西一族の青年はなにも答えず、黙って成院を見ている。

彼は、成院に言った。
自分は諜報員だと。

正体をばらしたのだと言うことは
成院を生かす気は無いのかも知れない。

「俺は、……死ぬのか」
「そうなるだろうな」
成院の問いかけに、彼は答える。

あぁ、どうしよう。

「俺が、薬を持って帰らないと」

戒院は―――弟は命を落とすだろう。
弟の恋人はきっと悲しむ。
2人を助けてあげたかった。

想いが実らなかった自分の代わりに。

もし、成院が死んだことを知ったら、
杏子は
悲しむだろうか。

「……まさか」

西一族の青年はいう。

「気付いていないのか、おまえ、―――」

彼が何か続けて言っていたが、
そこで、成院の意識が途切れる。


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