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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「小夜子と天院」8

2014年10月24日 | T.B.2017年

 幼い彼女は。

 燃え上がる炎を見る。

 彼女は生まれつき、目に病を持っていて
 人と同じように、ものを見ることは出来なかったけれど

 それでも

 今、

 自分の暮らしている家が、燃えていることは判った。

 少しだけ、村の家々から離れていたため、
 火は、
 燃え広がることはなく

 ただ、彼女の家だけを、燃やす。

「いったい、何があったのかしら」

 村人たちが、話し出す。

「流行病、だったんじゃないのか」
「ああ。また出たの」
「それで、家ごと燃やすなんて」
「宗主様の命令だよ」
「そんなに危険な病だったのかしら」

「なら」

「この子は、……」

 村人が、彼女を一瞥する。

 彼女はそれに、気付かない。

「この子は安全だから、殺されなかったんだろう」
「そう、よね……」
「流行病なら、両親と一緒に火の中さ」

 彼女は、ただ、赤い炎を見る。

 立ち代わり、村人たちは火を見に来る。
 村に燃え広がらないよう、見張りのためだ。

「ねえ」

 村人が、彼女に声をかける。

「しばらくは、病院で暮らすといいわ」

 彼女は、話しかけられたと気付き、村人を見る。
「大きくなったら、宗主様の屋敷で働くようにして。ね」
 村人が云う。
「ご両親がいなくても、大丈夫よ」

 彼女は、何も云わない。
 視線も合わない。

 火は、燃え続ける。

 一晩中、

 燃え続けた火は

 次の日の朝

 消え

 村人たちが、焼け跡を片付けはじめる。

 もともと
 ここには、何もなかったかのように、

 すべて、片付けられてしまうのだろう。

 村人が彼女を呼ぶ。

「宗主様が、お墓を建てるよう云ってくださったから」

 彼女は、目の前のものを見る。

 そこに
 布にくるまれたものが、並べられている。

「ご両親に、お別れを」

 そう云うと、
 村人は、彼女の手に何かを握らせる。

 焼け焦げた、装飾品。
 彼女の両親の、装飾品。

 村人は手を合わせると、片付けへと戻っていく。

 ひとり残された彼女は

 布にくるまれた両親に、すがりつく。

 涙を流す。



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