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「規子と希と燕」5

2014年10月28日 | T.B.1961年

西一族には敵対している一族が二つ。
湖を挟んでの東一族。

そして、山を挟んで山一族。

そもそもの性質が合わない東一族とは違い、
山一族は西一族と同じ狩りの一族。
生活や風習も似たところが多い。

似ているからこそ、何かと揉め事が起きるのが山一族だ。
争っているのは、狩り場と獲物。

「これは俺たちの獲物だ」

希が山一族にそう告げる。

「最初の一撃も、ウチの規子が決めた。
 横から入って来やがって」

山一族はしばらく無言だったが
やがて口を開く。

「この牝鹿はウチの領土から追ってきた物だ。
 それに、仕留めたのは俺だ」
「追ってきただと?
 ここら一体はウチの、西一族の敷地だぞ!!」

狩り場に線を引くのは難しいが、それでも
お互い暗黙の領土という物がある。

「やるのか!!」
「あぁ?」

山一族が馬から降りて、希の前に歩み寄る。
降りて、希と並んでみると
思っていたよりは若い。歳も近いであろう青年だ。

「いい加減に」

希が山一族の襟元をつかみかかる。

まずい、と規子は焦る。

「やめて、落ち着いて、希!!
 燕も止めて、助けに行って!!」

規子は燕を揺さぶるが、落ち着いた様子で燕は言う。

「いや、ケンカは一対一じゃないと。
 兄さんがんばれ!!!」
「何言ってるのよ、ばか!!!」
「危なくなったら止めに行くし」
「危なくなる前に止めろって言ってるのよ」

あぁあもう、と騒ぐ規子と燕を横目に
山一族はため息をつき、
絞り出す様に声を出す。

「……分かった。
 それは置いていく、好きにしろ」

急にやる気を無くした山一族に
希ははぁ?と声を荒げる。

「何だ、逃げるのか山一族」
「そうじゃない、バカにするな」

拳を上げかけた山一族だが、
くっと何かをこらえる様に腕を下ろす。

「―――俺一人の行いで、
 西一族との間にもめ事は起こしたくない」

その言葉に希も
バツが悪そうに掴んでいた手を離す。
規子は胸をなで下ろす。

ふと、空気が変わる。

まず、最初に気付いたのは
山一族が連れていた馬だろう。
その様子を感じ取った山一族と燕が息をのむのが分かった。
次いで希と規子が二人の視線を追い、やっと気が付く。

白い熊。


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