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「武樹と父親」10

2020年09月15日 | T.B.2017年


「うーん、それは」

沙樹は唸る。

「かっちゃんも煽ってきたね」
「ん」

ぐずっと、武樹は鼻を啜る。

「でも、手を出したのはダメだな。
 むっくんが一つお兄さんなんだし」
「わかってる」

あれは武樹がいけなかった。
謝らないといけない。

「わかってるなら、いいよ」

こくりと武樹が頷くと
沙樹は静かに笑う。

「ねえ、むっくん。
 きっと色々言う人は居るけれど、
 それでも、むっくんは戦術師になるべきだよ」

「………俺が、砂一族の血を引いてるって?」

「うん。
 でも、そういう前例が無い訳じゃない。
 だって、半分は東一族の血だろ」
「………」
「混血を嫌う人はいるけれど。
 俺や、羽子、かっちゃんだって
 むっくんには村に居て欲しい」

「沙樹くん」

「出て行くなんて行っちゃダメだ」

はは、と思わず武樹は笑う。
沙樹は武樹をなだめようとしてくれている。

でも、だからこそ。

何もかも噛み合わない。

「ねえ、沙樹くん。
 俺の父親、砂一族なんかじゃないんだよ」
「え?」

何も知らない人はそう思っている。
可哀想な、
砂一族との間に産まれた子供。

違う。

母親はまだ、なにも言ってくれない。
武樹に伝えるための言葉を探している。

でも知っている。
いくら隠そうとしても、
そういう物ほど回り回って伝わってくる。

ずっと昔、
武樹が子供だから何も分からないだろうと
もう顔も覚えていない誰かが、言い放ったのを覚えている。

おまえはあの人の子供だ、と。

「俺は父親も東一族。
 純血だよ」
「え?でも、それじゃあ、」

「純血だから、俺は村には居れないんだ。
 だってさあ。
 正式な子供じゃ無いから」

「むっくん」

「沙樹くん、前に言ったよね。
 俺と未央子姉さん、似ているって」

「む」

「そうだよ。
 俺の父親は、医師様だよ」

今よりもまだ幼い頃。
寝物語に
母親はよく他の村の話をしてくれた。

市場が華やかな、北一族の村。
洞窟の中で暮らす、谷一族の生活。
水辺で唯一、
海に面して居る海一族のこと。

敵対しているが、
西一族や砂一族の村の話をしたこともある。

武樹も、母親も
行ったことがない場所。

「いつか一緒に行ってみようか」
「やったあ!!」

砂糖漬け買おうと言うと
それはこの村でも買えるよ、と母親が笑う。

「そのまま
 そこに住んじゃうのもいいねぇ」
「住むの!!」

それって、どんな生活だろう、と
やけにはしゃいだのを覚えている。

遠くの村で暮らす自分を想像して
なかなか寝付く事が出来ず
意識が沈み始めたのはいつもより遅い時間だった。

だから、きっと
普段は聞くことのない母親の呟きを
耳にしてしまったのだと思う。

「似てきたなぁ」

あの人に、と。

「きっと、これからもっと」

ああ、と
どこか諦めるような、
思い詰めたような声で。

「そうしたら、
 もう、この村には居られない」

気がつく。

母親の寝物語は、
いつかこの村を出ることを
自然にするための前振り。

でも、

武樹の母親に
村を出て暮らしていけるあてなど
あるはずもなく。

どうしよう、困った、と
思い悩む日が続くだけ。

分かっている。

原因は自分。
自分さえ居なければ、母親はこの村で暮らしていける。

それなら、そうだな、
いつか村を出て行こう。

だから、
戦術師や、大将になんて
とてもなれるわけが無く。

だから、

北一族の村にでも行って、
商いでもして暮らしていこうか、なんて。

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