あたりが暗くなり、ふたりは火を囲む。
気温も下がる。
夜が明けるまで、待つしかない。
遠くから、何かの鳴き声。
夜の狩り場では、何が起こるか判らない。
が
ふたりは、気にもしない。
「なあ」
火を見たまま、誠治が声をかける。
「お前、狩りに参加する年になるまで、どこで何をしてたんだ?」
云う。
「学校とか、狩りの練習とか、いなかったろ」
涼は、何も云わない。
「黒髪なら目立つだろうに、その頃、お前を見た記憶がない」
誠治は、木の枝を持ち、火を突く。
涼の返事を待つ。
「……やっぱり、云いにくいことなのか?」
涼は首を振る。
火を見つめたまま、答える。
「村長のところにいた」
「……へえ」
誠治が云う。
「じゃあ、村長のところに来る前は?」
「来る前って?」
「幼い頃、だよ」
「その話なら、この前、あの子にした」
「あの子? ……ああ」
補佐役の娘のことだと、誠治は気付く。
「いつだよ?」
「怪我人が出た狩りのあと」
「……あぁ。あいつ、お前のこと待ってるって云ってたな」
誠治は、涼を見る。
「なぜ、あいつにその話を?」
「あの子が気にするから」
「あいつが?」
「そう」
「…………」
「…………」
「……そうか」
「何?」
涼は、誠治を見る。
「いや。別に」
涼の視線に、誠治は目をそらす。
「……お前が東に行ったら、あいつは哀しむんだろうな」
「なぜ?」
「なぜって」
誠治は、どもる。
「と、云うか、その。……いつ東に行くんだ?」
「可能なら、今すぐに行く」
「なら、行けよ」
「そう簡単に、東一族の村には入れない」
「何でだよ」
「準備がいる」
「面倒くさいな」
誠治が云う。
「もう、乗り込めばいいのに」
「東一族は、」
涼が云う。
「魔法を使う」
「知ってる」
「黒髪の俺が、東の衣装を来ても、素性はすぐに判る」
「本当かよ」
「本当だ」
「勉強させられてるな、お前」
誠治は息を吐く。
「……東と争ってたのって三世代前の話だし、」
誠治が呟く。
「大人から話を聞くだけだから、どこまでが本当の話か判らないよな」
火を見つめたまま、誠治は枝をくべる。
云う。
「もし、東に入り込んで素性がばれたら、お前戦う?」
「戦うよ」
「逃げずに?」
「戦う」
「死ぬことになっても?」
「死ぬのなら、東の宗主と刺し違える」
「……お前、結構無茶なこと云ってるし」
涼が云う。
「西一族が、そう望んでる」
「あー、それは……」
誠治が云う。
「お前を厄介者だと思ってるからな」
涼は誠治を見る。
けれども、視線が上手く合わない。
「誠治も?」
「思う思う」
「そうか」
「当たり前だろ!」
誠治は、手をひらひらさせる。
「西一族で黒髪なんだぜ、お前」
涼は何も云わない。
「そのくせ、狩りは上手い」
誠治が云う。
「……やっぱり、腹立つ」
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