TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「涼と誠治」2

2016年05月27日 | T.B.2019年

 あたりが暗くなり、ふたりは火を囲む。

 気温も下がる。
 夜が明けるまで、待つしかない。

 遠くから、何かの鳴き声。
 夜の狩り場では、何が起こるか判らない。
 が
 ふたりは、気にもしない。

「なあ」

 火を見たまま、誠治が声をかける。

「お前、狩りに参加する年になるまで、どこで何をしてたんだ?」
 云う。
「学校とか、狩りの練習とか、いなかったろ」

 涼は、何も云わない。

「黒髪なら目立つだろうに、その頃、お前を見た記憶がない」

 誠治は、木の枝を持ち、火を突く。
 涼の返事を待つ。

「……やっぱり、云いにくいことなのか?」

 涼は首を振る。
 火を見つめたまま、答える。

「村長のところにいた」
「……へえ」
 誠治が云う。
「じゃあ、村長のところに来る前は?」
「来る前って?」
「幼い頃、だよ」
「その話なら、この前、あの子にした」
「あの子? ……ああ」
 補佐役の娘のことだと、誠治は気付く。
「いつだよ?」
「怪我人が出た狩りのあと」
「……あぁ。あいつ、お前のこと待ってるって云ってたな」

 誠治は、涼を見る。

「なぜ、あいつにその話を?」
「あの子が気にするから」
「あいつが?」
「そう」
「…………」
「…………」
「……そうか」

「何?」

 涼は、誠治を見る。

「いや。別に」

 涼の視線に、誠治は目をそらす。

「……お前が東に行ったら、あいつは哀しむんだろうな」
「なぜ?」
「なぜって」
 誠治は、どもる。
「と、云うか、その。……いつ東に行くんだ?」

「可能なら、今すぐに行く」

「なら、行けよ」

「そう簡単に、東一族の村には入れない」

「何でだよ」
「準備がいる」
「面倒くさいな」
 誠治が云う。
「もう、乗り込めばいいのに」

「東一族は、」

 涼が云う。

「魔法を使う」
「知ってる」
「黒髪の俺が、東の衣装を来ても、素性はすぐに判る」

「本当かよ」

「本当だ」

「勉強させられてるな、お前」

 誠治は息を吐く。

「……東と争ってたのって三世代前の話だし、」
 誠治が呟く。
「大人から話を聞くだけだから、どこまでが本当の話か判らないよな」

 火を見つめたまま、誠治は枝をくべる。

 云う。
「もし、東に入り込んで素性がばれたら、お前戦う?」
「戦うよ」
「逃げずに?」
「戦う」
「死ぬことになっても?」
「死ぬのなら、東の宗主と刺し違える」
「……お前、結構無茶なこと云ってるし」

 涼が云う。

「西一族が、そう望んでる」
「あー、それは……」
 誠治が云う。
「お前を厄介者だと思ってるからな」

 涼は誠治を見る。
 けれども、視線が上手く合わない。

「誠治も?」
「思う思う」
「そうか」
「当たり前だろ!」
 誠治は、手をひらひらさせる。
「西一族で黒髪なんだぜ、お前」

 涼は何も云わない。

「そのくせ、狩りは上手い」

 誠治が云う。

「……やっぱり、腹立つ」


NEXT