TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「涼と誠治」1

2016年05月20日 | T.B.2019年

 涼(りょう)と誠治(せいじ)は山を登る。

 道なのか、よく判らない場所を、ふたりは進む。
 誠治が先を歩き、涼が後に続く。

「雨の時期は、これだから嫌だ」

 誠治が呟く。

 雨が続く時期は、狩りを行いにくい。
 晴れ間に狩りに出ても、獲物が捕れないことが多い。

 故に、

 西一族は、この時期になると、蓄えが減る。

 それを補うために、
 狩りの腕がある者は、少人数で頻繁に駆り出される。

「……これだから、嫌だ!」

 再度、誠治が云う。
 先ほどより、大きな声で。

「お前と一緒なのが、特に!」

「それは、悪い」

 涼が、後ろで云う。

 誠治は大きく息を吐き、続ける。

「お前、そもそも、先の一件で謹慎じゃなかったのかよ」
「謹慎にはなっていない」
「はっ! さすが村長びいきだな」

 誠治は振り返り、涼を見る。

 先日の狩りで、怪我人が出た。
 涼は、その責任を問われている。

 涼は立ち止まる。

「村長びいきだから、罰なし、てか」
「罰なら、別の形になった」
「ああ。東に諜報員として行くって話?」

 云いながら、誠治は、自身の髪を触る。
 その髪色は、白色系だ。

 西一族なら、それが当たり前。

 けれども

 誠治の目の前にいる涼は、そうではなかった。

 ここでは、ありえない、黒髪。
 黒髪を有する東一族に入り込むには、格好の標的なのだ。

「東に行くなら、早く行けよ」
「今は、狩りが優先だと、」
「あー、そうかよ!」

 誠治は、再度歩き出す。

 雨が続き、ぬかるんでいる道。

 涼も続く。

「獲物が出るかも判らないのに、狩りに出すなんて、どうかしてる」
「誠治」
 涼が云う。
「獲るまで、帰らないんだろう?」
「当たり前だ!」

「誠治」

「何だよ!」

「あまり声が大きいと、」

「獲物が逃げるんだろ! 判ってるよ!」

 開けた場所に出て、ふたりは、野宿が出来るよう準備をする。
 この場所も、足下が悪い。

「日の暮れが、思ったより早いな」

 誠治は空を見上げる。
 涼は、枯れ葉と枝を集める。

「火をおこすのか?」
 誠治の問いに涼が頷き、答える。
「早いうちに火をおこしたがいい」
「こんなに湿気てるのに、火がおこせるかよ」

 誠治は、荷物を置き、袋だけを持つ。

「俺は、水を探してくる」
「ああ」
「せいぜい、頑張るんだな」

 しばらくして、飲み水を見つけた誠治が戻ってくる。

 誠治は涼を見る。
 涼の前で、火が燃えている。

「……お前のこと嫌いだけど」

 誠治が云う。

「やることは、ちゃんとやるやつだよな」
「褒めてる?」
「本当に、腹立つ」
「ありがとう」



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