TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「タイラとアヤコ」3

2017年05月30日 | T.B.1961年


「俺は」

タイラが出されたお茶には手も出さず、
酷く真剣な顔をして呟く。

「ある一定の年齢になれば、
 自然と恋人が出来ると思っていた」

正面に座っているアヤコは
しばらく沈黙していたものの
視線を泳がせながら頷く。

「私もよ」

アヤコやタイラが遅いというわけではないが
これぐらいの歳になれば
早い者はもう結婚をしている。

「………」
「………」

ばっと、顔を上げてタイラが尋ねる。

「アヤコ、気になる人が出来たって
 云ってたじゃないか」
「気になる人=恋人、じゃないのよ」

狩りの一族、西一族。
狩りの上手い女性はもちろん人気だ。

だが、男性の理想としては
狩りは出来るが、それでも頼られたい。
つまり、自分より上手くなく、
かと言って、あまりヘタクソでもなく。
程よい位置にいるのがベスト。

「ほどよいってどんなよぉおお」

これが、難しい。

もしくは、狩りの腕は無いが
容姿が整っているとか。

「世の中にはかわいい上に、
 狩りの腕も立つという人も居るというのに
 どちらかで良いのよ私は」

「………」
「………」

わかった、と、
タイラが咳払いする。

「よし、それじゃあ。
 アヤコが気になる人って誰?
 俺が協力してやろう」
「やだ、絶対言わない」
「そうだな、
 人気どころのノゾミ?アマネ?」
「ぜったい、言わない!!」
「クセがあるところで、ツバメか、
 年下路線で、ヒサシ?
 よく班を組むのは、タツミ!?」
「い、い、ま、せ、ん」
「減る物じゃないだろ」
「減る!!
 タイラに相談して上手くいった試しが無いもの」

アヤコの反応からして、
今まで挙げた中には居ないようだ。
他には誰だろうか、と
考えるタイラにアヤコが返す。

「タイラこそ、どうなのよ。
 話しやすいってよく言われるわよ」

はぁ、と、タイラは身を乗り出す。

「アヤコこそ何も分かってない!!」

「俺の場合の話しやすい、は
 恋愛対象として見てないから
 あまり気を使わなくていいや、楽~、の
 話しやすい、だ!!!」
「まさか、タイラ、
 それ、言われた事あるの」
「………ある」
「わぁお」

アヤコはこめかみに手を当てる。
確かにタイラは
活発で輪の中心に居る、
というタイプではない。

物静かな人が好きという子も
居るのだろうけれど。

アヤコにとっては、
接しやすい兄弟だと思うが、
家族と他人じゃ見る目も違う。

「はっ!!
 え?まさか???
 それは、ちょっとまずくない?」
「なに、どうしたの」

「アヤコが気になってるのって、
 お、俺か!!?」

アヤコは席を立つ。
後ろでタイラがなにか言っているが
洗濯物を干さなくては。

「分かった。
 多分、そういう所よ。ダメなの」



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「タイラとアヤコ」2

2017年05月23日 | T.B.1961年

「アヤコ、そっちに行った!!」

タイラが追い出したウサギをアヤコは追う。
走りながら矢をつがえる。

一投目は外れる。

命中力がイマイチなのは昔から。
数で稼ぐ。

獲物との距離がこれ以上開かないうちに
二投目。

「当たって!!」

祈りながら放った矢はなんとか獲物に届く。
一撃でとは行かないが
動きが鈍くなったところに班の仲間が近寄り
とどめを刺す。

「今ので、何匹目?」
「2匹、かな」
「なんとか、ノルマ達成って所かな」

彼らは狩りの一族。
今日は定期的に行われる狩りの日。
男女に関わらず、
若者は狩りに参加し、その成果は村中で分配される。

狩りの腕は村での優劣に大きく左右する。

「これで、安心して帰れるわ」

その日の状況にもよるが
せめて、1匹ぐらいは。
口には出さないが、
当然の成果として求められる物。

「少し休憩しましょう」

アヤコはタイラと
もう1人、班を組んでいるヤコに声を掛ける。

「おやつにどうぞ」

ヤコが菓子を配る。
柔らかい、飴玉のような物。
色とりどりの袋で個包装されている。

「何これ、かわいい」
「でしょう。
 北一族のお店で買ったのよ」
「今度行ったときに買おう!!お店の場所教えてよ」
「露店街の割と端のお店なんだけど」

タイラは会話に加わらず、
女の子ってそういうの好きだよね。
味同じじゃん、という目で見ながら
静かにお茶を飲んでいる。

今日の班は
気の置けないメンバーで良かった、と
アヤコは思う。

1人は兄弟で、
もう1人は同じぐらいの実力。
いつもこういう班だと
気を使わなくて済む。

狩りの班は、
その時の指示役が割り振るが
狩りの腕が無い者とある者を組ませる人も居る。

そちらの方が、
全体の成果を上げられる。
どの班もウサギ2匹じゃ成り立たない。

「……」

そんな事は分かっているけれど、と
ぼんやり思う。

アヤコはどちらかというと出来ない方。
そうすると、
役に立てなくて気まずい気持ちになってしまう。

でも、足が速い事と
走りながら矢をつがえる事が出来る。
アヤコが少しだけ周りに自慢できる事。

「狩りが出来なきゃ、
 この村では立場がないもの」

なんとか、せめて
今の立ち位置を維持しなくては。

「いや、すごかった」

狩りを終え、成果を報告に行ったタイラが帰ってくる。

村の広場にはそれぞれが収穫した獲物が集められる。

「ノゾミ達の班はやっぱり凄いな。
 イノシシを仕留めたらしいけど
 大きいから俺も運びの手伝いに行ってくる」

少し興奮気味に話すタイラから
どれほどの物か何となく想像が付く。

「さすが。
 ノゾミ達は違うわね」

ヤコの言葉にうんうんと頷く。

反省。
足が早いと言っても女性では、だし。
矢は当たってなんぼだ。

でも、と
アヤコは1人、言い訳めいて言う。

「ウサギも美味しいもの」

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「タイラとアヤコ」1

2017年05月16日 | T.B.1961年


「ただいま」

帰宅したタイラをアヤコは出迎える。

「おかえり~」
「はい、今日の取り分」
「お疲れ様」

疲れた、と言いながら
タイラは席に着かず、
狩りで使用した道具を持って裏手に回る。

洗って、磨いて、
道具は手入れをしてから仕舞う。

一通りの作業を行う背中に
ふふっと
思わず漏れた笑い声が届く。

「どうした、アヤコ?」

振り返ると窓からアヤコが
こちらを覗いている。

「姉ちゃん、でしょ」
「どっちでも一緒だろ」
「一緒じゃないわよ、ちょっと違う」

それで、と続ける。

「何か良いことあった?」
「……なんで?」
「鼻歌」
「え?マジ!?」

どうやら無意識に歌っていたらしい。

「今日、ニコと同じ班だった」

タイラは若者の間で人気の
彼女の名を挙げる。
狩りの班分けはその時の指示役が決めるので
運任せな所がある。

「そうなの?
 良かったね~」

「なんか、良い香りした」

今日は良いことありそう、と
タイラが言うが、もう昼を回っている。

彼女はとても素敵だが、
タイラは別に恋人になりたいとは思わない。
今日は同じ班になれて良かった。それだけ。

自分に相手がつとまる訳では無い。
相応しい人がいる。

自分たちは、
特別狩りが上手い訳では無く、
かといって、狩りに行けないほど体が弱い訳でも無い。
中途半端。
位置付けると中の下。
頑張って、真ん中に居れられるかどうか。

「俺達みたいな平凡な奴は
 何事も無く一生を終えるんだろうな」
「あら、みんなそうよ。
 飛び抜けた人達が目立っているだけ」

沢山いる。村人その一。

「タイラって名前からして、なぁ」

平凡の平だし。と
皮肉って笑うタイラにアヤコが返す。

「何言ってるの、
 特別な事なんて
 なにもないのがいいの。
 普通が一番じゃない」

なる程ねぇ、とタイラが答える。

「今日はやけに
 姉っぽいことを言うな」
「そりゃそうよ、姉だもの」


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「希と燕」6

2015年03月03日 | T.B.1961年

山一族との不可侵の協定。

村長からその話を聞かされた時、
希は訊ねた。

協定の証として、互いの一族から嫁ぐ花嫁。
山一族の花嫁を迎えるのは弟の燕。

それなら

「こちらからの花嫁は
 誰が選ばれたのですか?」

その言葉に村長はため息を付く。

「そこがな、
 まだ、審議の途中なんだ」

「……決まってないという事ですか?」

花嫁は今まで対立していた他民族の村に
ただ1人で行く事となる。

「二人まで絞られては居るんだが
 どちらにするか、で、悩んでいる」

協定とはいえ、その後の動き次第では
もう、帰ってくることは無いのかもしれない。

「やはり、こちらの代表ともなるからな
 ある程度の者は出したい。
 その基準をこちらで選ぶと、狩りの腕が立つ者、
 となるのだが」

やはりそう言う選定になるのだろう。
そう思っていた希に村長は続けて言う。

「山一族の女性は、こちらほどは狩りに出ないという。
 家庭を支えるという役割の方が大きいらしい。
 そちらの目線で選ぶとまた違った人選になる」

ある程度の家柄の者で、
狩りの腕とはまた別の

例えば、大人しく、家庭的な雰囲気で、
いかにも女性らしい、そんな。

1人、思い当たるのは。

「丹子?」

ぽつりと漏れた希の言葉は
幸い、村長には届かなかった様だ。

丹子が、山一族に嫁ぐ?

もしかしたら、それっきり
ずっと山一族で過ごしていく。
自分ではない―――誰かの嫁として。

それは、嫌だ。

「それは、どうでしょうか」

「ん?」

「他民族の村に行けば、
 何もかも、一から覚え直さないといけない。
 風習が違うから」

必死だ。ちぐはぐの言い分だ。
そう思いながらも、希は続ける。

「家事もそうでしょう。
 でも、狩りの腕は、こればかりは才能だから」

それが、もう1人の候補の後押しをすることも
希は分かっていた。

「そうだな、―――まぁ、そういう考えもあるな」

村長は言う。

その話はそれっきり。
気がつけば希は家路についていた。

もしかしたら、もう決まっていた事を
単にはぐらかして言っただけのことかも知れない。

希程度の者の意見が通るはずはない。

そう自分に言い聞かせた。

ただ、選ばれるのが彼女でないことを祈り。
そして、自分が後押しをしてしまったかもしれない誰かの事を
深く考えない様にした。

考えれば分かったはずだ。

嫁に出しても恥ずかしくないほどの
狩りの腕を持つ、
誰か―――の事を。


「……俺、は」

やがて、山一族との協定の話は
村の皆に公表された。

広場に張り出されたその名前を
選ればれた彼女は静かに見つめていた。

「なんだよ、それ」

いつかの自分と同じ様に呆然と呟く燕の横で
希はただ、黙って眼を閉じた。



T.B.1961年
西一族の村で
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「希と燕」5

2015年02月24日 | T.B.1961年

希が山一族との協定の話を聞いてから
ひと月が過ぎた。
恐らく、村人への通達はもうそろそろ。

不可侵の協定を揺るぎない物にするため
花嫁が交換される。

「また、考え込んでる」

悩む希をよそに、
花嫁を迎える当事者の燕は飄々としたものだ。

「だって、お前な」

変更が利くのならば
きっとその通達の前までだろう。

どうにかならないのか、と
燕自身は思わないのだろうか。

「あのさ、
 そんなに悪い事?
 山一族の嫁を貰うことが」
「え?」
「俺みたいなやつは、きっといつまでも余ってるからさ
 こんな事でも無いと嫁さんなんて来てくれないよ」

燕は自分の黒眼の事を言う。

「だから、ちょうどよかったんじゃないかな」

黒眼は敵対する東一族の色。
だから西一族では嫌われる。

燕の狩りの腕は飛びぬけている。
さすがと称賛されることも多いが
それでも燕を、という声は無い。
山一族の嫁の話も、いい機会なのかもしれないと希も思った。

でもそれは、
燕に気になる人がいないというのならばの話だ。

「お前、規子の事」

「あー、うんそれか。
 良いんだよそれは、もう、
 仕方ないっていうか」

規子とは家も歳も近いので
幼い頃から知っている。
3人で過ごすことも多かった。
だから、燕の想いも、
一歩引いて見てみればすぐに分かった。

「でも、規子にお前の事どうだって聞いたら
 悪い反応じゃなかったぞ」

「……なにそれ」

「お前が気にしているとは言ってない。
 ただ、兄として弟はどうだと進めただけだ」

規子は燕を瞳の事を気にかけない。
それに、もし、二人がそうなれば希としては嬉しい。

「余計なお世話だとは思うけど」

「そうじゃなくてさ!!」

燕の語尾が強くなる。

「兄さんの口から、
 規子に俺の事どうだって聞いたのかって
 言ってるんだよ」

「そうだよ」

相手がいるのだと分かれば
村長も少し考え直すのかもしれないと
そう、思っただけだ。

「だって、規子は!!」

「……規子は……なんだよ?」

「いいよ、もう!!」

燕は呆れたようにその場を立ち去る。

「なんだよ、は、
 こっちのセリフだ」

だって、それじゃあ、まるで。

「規子は」

弟の事は分かっていても、
幼なじみとして過ごしてきた規子の事は
何一つ分かっていなかったのだろうか。

もし、本当にそうなのだとしたら

「……」

燕はどうだと進めたあの時

規子が浮かべていた表情は、
もしかしたら泣き顔だったのかもしれない。


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