TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「タロウとマジダとジロウ」6

2017年03月21日 | T.B.2001年

マジダの髪が長いのは昔から。

腰の辺りまで伸ばした髪は
いつもそのまま
まとめずに流している。

きっとその髪型が好きなのだろう、と
ジロウは思っていた。

「切るか結ぶかしないの?」

いつだったか、
尋ねた事がある。

何となく。

遊んでいて
髪を引っかけてしまった時だったか。

洗うのだって、
乾かすのだって時間がかかる。

「髪はね、キレイだから
 そのまま伸ばしたら良いよ、て
 褒めてくれたから」

だから、そのままなの、と
マジダが答えた。


「ぜぇえええええったいお前だ!!!」

「うん?」

ジロウはタロウに食ってかかる。

今日はマジダはおらず
タロジロコンビのみ。

ふつふつと思い出した怒りを
ジロウはぶつける。

「何の話?」

「お前、マジダの髪褒めたことあるだろ」
「マジダの……髪?」

んんん?

タロウは首を捻る。

「うん?」
「無いのかよ!!」
「ない、と、思う」
「無意識に、とか!!」
「覚えて無いなぁ」

そもそもだよ、と
タロウは言う。

「褒められて伸ばし始めたのなら
 もっと前の事じゃないか?」
「え?」
「俺はここに来てまだ半年だし、
 マジダの髪の長さなら、
 何年もかからないかな?」

「………」

え?
待って待って、それじゃあ。

「髪褒めたの、別のやつ!!??」

迂闊だった、絶対こいつだと思っていたのに、
別にライバル居たのか!!!

と、ジロウはうろたえる。

一方タロウはというと

「やっぱり、女の子の髪を褒めないとか
 俺、失礼だったよね、
 いや、違うんだよ。キレイな髪だと思っているよ
 変な意味じゃなく」

大の大人が慌て始める。

「知るか!!」
「待ってよ、ジロウ。
 ほら、俺ほど年齢が離れていると
 何気ない発言で訴えられるか分からないし」
「お前は何の心配をしているんだ!!」

ううん、と
机の両端で
タロウとジロウはそれぞれに頭を抱える。

「ねぇ、ジロウ。
 今からでも遅くないかな」

「止めとけ、これ以上は
 ややこしい事態になるから!!」

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「タロウとマジダとジロウ」5

2017年03月14日 | T.B.2001年

「迂闊だったわ、
 私とした事が」

マジダが唸りながら
テーブルを叩く。

「【タロウ】と【ジロウ】の字面が似ていて
 判断しづらい!!」

由々しき問題勃発。

字面?響きじゃなくて?と
思いつつも、
タロウはいつも通り整備の作業を続ける。

「あのな!!えっとな!!そうだな!!」

何か上手い相打ちを打たねば、と
ジロウが頑張るが
いまいち良い返答が出てこない。

むしろマジダは独り言に近いので
返答なんてなくても
思考を続ける。

「タロウが黒髪、
 ジロウが白髪だから
 【クロ】と【シロ】ってのはどうかしら」

「「……いや」」

どっちにしろ、
飼い犬の名前のようだ、と
タロウが思い、
それはそれで字面似てない?と
ジロウが思った。

「いっそ、【タ】と【ジ】って
 呼ぼうかしら」

一文字。

「止めろよ―!!!」

ぎゃあ、と
【ジ】担当のジロウが叫ぶ。

「絶対変な噂立つ。
 あいつ痔とか言われる!!」

「……まぁ、
 似ていて紛らわしいなら
 俺の事は【お兄さん】でも良いんだよ」

タ、で良かった、と
胸をなで下ろしていた
タロウが提案する。

そう、

タロウもこのあだ名は心地よいが
新しく出来た後輩には
道を譲ってあげたい。

「分かってないわねタロウは!!」

マジダ、落胆のため息。

「コンビは響きが似ているのが
 良いんじゃない!!!」

い●よく●よ師匠。
や●しき●し師匠。
等々。

「そう考えると、
 字面が似ているってのは
 紛らわしいけどいいのかもしれないわ」

マジダ一人で問題提起して
一人で解決。

「いや、俺達」
「べつにコンビじゃ」

ないです。



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「タロウとマジダとジロウ」4

2017年03月07日 | T.B.2001年

「微笑ましいなぁ」
「何がよ?」

マジダが首を捻るが
なんでもないよ、と
タロウはほっこりする。

マジダが遊びに来る時は
必ずジロウも来るようになった。

でも、相変わらず
タロウには慣れてくれない。

少し離れた所から
マジダとのやりとりを見ていたり
タロウに牽制を飛ばしてきたり。

「ねぇマジダ。
 ジロウとは仲良いの?」

「うーん、よく遊ぶけど
 最近やけに突っかかって来るの。
 意地悪言ったりとか」

「うふふふ」(タロウの笑い声)
「なぜ笑う」

そう、マジダの事が気になるくせに。
上手く出来ない不器用な所。

一回りも歳上のタロウにしてみれば
微笑ましい事この上なし、なのである。

「マジダが
 もう少し大きくなったら分かるかな」

今だって、二人の会話に聞き耳を立てている。

頑張れ、応援しているぜ、と
タロウは親指をぐっと立てるが
これ、逆効果。

「……分かったわ!!」

暫く考え込んでいたマジダが
突然大きな声を出す。

「ジロウもタロウと
 遊びたかったのね!!」

そう来た、か。

「確かに、今まで
 私一人がタロウを占領していたかも」
「ちちちちちちげーよ!!」

ジロウ反論するも、
素直になりきれず上手く伝わらない。

「それで怒って
 意地悪してきた、と」

おまけにそれはそれで
辻褄が合ってしまう事態。

「それなら私、
 今日は帰るわね!!」

思い立ったら行動が早いのがマジダ。
それじゃ、と
タロウ達が止める間もなく帰って行く。

「………」
「………」

作業小屋には二人が残される。
タロウは言う。

「ジロウ、その」

ジロウは半べそかきそうな顔で
タロウを睨み付ける。

「ジロウって呼んで良いのは
 マジダだけだ」

あだ名だけど特別な名前。
タロウもその気持ちはよく分かる。

「明日にまた
 一緒に遊ぼうって声かけてごらん」
「……ん」
「構って欲しくても
 意地悪を言っちゃダメだよ」
「……うん」

消え入りそうな声でジロウが頷く。

「気を取り直して、
 明日は二人でおいで」

な、と
同じ男としてアドバイスをするタロウに
ジロウが強く頷く。

「じゃあ、もう一つ。
 君のことは
 なんて呼んだら良いのかな」

俺からジロウと言われるのは
嫌なんだろう?
さて、どうしようか、と
問いかけるタロウにジロウは向き直る。

まるで
砂浜で殴り合い、
友情が生まれたライバル。

きりっと、胸をはって
ジロウが宣言する

「カイセイ」

「………おぉ?」

「気持ち良く晴れた空って意味の
 【快晴】だ!!」

「カイセイ……」
「そう」

「カイ、セイ」

タロウの顔色がみるみる青くなっていく。

「おい、タロウ??」

その様子に、驚いたのか
ジロウことカイセイが
とっさにタロウの事を呼ぶ。

タロウは小さな声で
ぶつぶつと呟いている。

「前半?前半は可?
 いやいやいや」

「おい」

「いっそ、部分的に抜き取って
 イイって呼んで良いかな!!」
「嫌だよ!!」

大河ドラマか。

「ごめん、無理!!」
「無理って何だ!!?」
「ジロ……カイっ……セイっには
 申し訳ないんだけど」
「はぁ?」

ここ一番のきりっとした顔で
タロウが宣言する。

「やっぱり君のことジロウって呼ぶね!!」

「はぁああああ!!?」

ジロウとタロウの友情は生まれそうで
生まれなかったのでした。


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「タロウとマジダとジロウ」3

2017年02月28日 | T.B.2001年

タロウが村になじんできたのか
はたまた村人が
タロウを受け入れてくれたのか
最近は仕事の依頼以外でも
尋ねてきてくれる人が増えた。

野菜のおすそ分けを貰ったり、
飲み会に誘って貰ったり。

いいのかな、と
思うけれどそれ以上に嬉しかったり。

「タロウ、おやつーーー!!」

大人達もだが
マジダと一緒に
子供達がやって来ることも増えた。

もちろん農具整備の小屋は
色々な道具が置いてあるから危ないので
外に椅子を並べて
みんなでおやつを食べたりする。

「今日は私がおやつを持ってきたのよ」

どうぞ、と
マジダは袋を差し出す。

「ありがとう。
 じゃあ今日はこれを頂こうかな」
「どうぞどうぞ」

ふふふ、と
マジダは慣れた手つきでお茶をつぎ始める。
座るのもいつもと同じ
マジダの指定席だ。

「ああ、ぼたもち」

タロウにとっては
昨日から同じ物が続いてしまったけど
美味しいから、もちろん
毎日続いても大歓迎だ。

一つずつ、小皿に移して
タロウはテーブルに運ぶ。

「はい、どうぞ」

同じ様に席に座る子供達に
一人ずつ渡していく。

「はいど……う」

おや、と
タロウは思わず笑顔になる。

「昨日はありがとう。
 今日も来てくれたんだね」

昨日、タロウにおまけのぼたもちを届けてくれた
和菓子屋の息子だ。

そうか、マジダの友達だったのか。

「……」

ふん、とその子はそっぽを向く。

うーん、何だかやっぱり
まだ慣れてはくれないかな、と
でも今日は帰らずに居てくれるのか、と
タロウはあまり構い過ぎないようにする。

「あら、タロウ。
 ジロウと知り合いだったの?」

お茶を運びながらマジダが言う。

「ウチまでおつかいしてくれたんだ。
 ……ジロウ?」

そうか、この子、ジロウというのか。

タロウとジロウ。
何だか親近感が湧いてきて
仲良くなれそうな予感がする。

「よろしくね、ジロウ」

ぶほっと、さっきよりさらに
ジロウの頬が膨れる。

「俺はお前には負けない」

「????」

小さな声でジロウはタロウを睨み付ける。

「それに、俺の事ジロウって言っていいのは
 マジダだけだからな!!」

ごーん、と
思いっきりすねを蹴り上げられて
タロウはんんんんっと座り込む。

「なによ。
 ジロウがあだ名欲しいって言ったんじゃない」
「だから、それは、
 マジダがタロウタロウばっかりだから」
「だからジロウって呼んでるじゃない」
「そうじゃなくて」
「意味分かんない」

マジダとジロウのやりとりを
すねの痛みで悶絶しながら
タロウは上の空で聞く。

分かった。
これ、ジロウがマジダに惚れている。

つまり、ジロウの誤解だが
タロウはマジダを奪い合うライバル
……と思われているらしい。


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「タロウとマジダとジロウ」2

2017年02月21日 | T.B.2001年

南一族の名産品は豆。
となると、
銘菓だって豆を使った物になる。

豆を砂糖で煮込んで餡にして
その餡で餅米を包む。
お茶に合う、まったりおやつ。

ぼたもち、と言う。

家でも出来るが
村の中心にある和菓子屋さんのぼたもちは
最高に美味しいので
タロウは時々、お店に立ち寄る。

「こんにちは」

少しずつ機械整備の仕事も増えて
忙しいやら、嬉しいやら、
今日は自分へのご褒美のつもりだ。

マジダも遊びに来るだろうから
少し多めに買っていこう。

「10個詰め合わせを一袋ください」

自宅に戻り、袋を広げる。
出来たての柔らかい状態。

お茶セットを準備して
まったりと過ごす。

「………」

1時間ほど、まったりと。

「今日はマジダ来ないのか」

まぁ、良いんですけど。
タロウは結構色々な事に関して
タイミングが悪い。

「ユウジさんにおすそ分けしようかな」

うーん、と
農具整備の師匠?の名を
呟きながら立ち上がったその時。

「……っ!!?」

びくっと、タロウは
思わずぼたもちを落としそうになる。

タロウ宅の農具整備小屋の
開け放った扉。
仁王立ちで、少年が立っている。

「ええ?いつから??」

しかも、めっちゃ睨み付けてくる。

最近だんだん増えてきた
農具整備の仕事を
親に頼まれて伝えに来たのかもしれない。

タロウがまったりし過ぎて
中々声を掛けられなかったのかもしれない。
そりゃあ怒るな、とタロウは近寄る。

「ごめんね、気付くのが遅くて」

「おまけぇ」

「え?おま?」

「おまけだごらぁ」

……南一族の方言だろうか。
一瞬思考停止したタロウは
少年が差し出した袋に気がつく。

「今日は10個以上買ったら
 一つおまけだったのに母ちゃんが渡し忘れて」

あ、と
タロウは気がつく。

この子は、和菓子屋の一人息子だ。

「そうか、わざわざありがとう」

しかも受け取った袋には
おまけの一つと
おまけ付け忘れのお詫びでもう一つ。

「ねぇ、少しお茶していかない。
 食べ慣れているかもしれないけど
 君のお家のぼたもち、
 とてもお茶に合うんだよ」

沢山あるからね。
と、タロウはその子をお茶に誘う。

が。

「敵に情けは受けねぇ」

……敵とは。

何か気に障ること言ったかな、と
不安になりつつあるタロウに背を向け
少年は立ち去りながら言う。

「だけど、
 うちの菓子への褒め言葉は
 ありがたく頂戴するぜ!!」

ざっ、ざっ、と
地面を強く踏みしめながら
少年は去り、
タロウは一人残される。

「……ええええ」

さらに増えたぼたもちは
ユウジさん宅におすそ分けしました。



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