- 日本戦車のサスペンションの詳しい構造が判明しましたので捕捉します。
● 日本戦車のサスペンションスプリング
日本式のダブルボギーサスペンションは上図のバネを挟んで二組のボギー転輪
が干渉しあう構造になっていました。
某紙の解説図によると、中央のパーツだけが車体に固定されて、スプリングとガイドは
フローティング構造になっていました。
今、左側のボギーが起伏に差し掛かったとすると、左にガイドロッドが引っ張られ、
最初のうちは右側のバネだけが圧縮されます。それがある長さを超えると図中央の
赤い丸のパーツが左側のバネに達し、左のバネも圧縮するようになります。
このテンションは反対側のボギーに伝達され、右側のボギーが地面を押す動きと
なるのです。
これにより全体としてテコの原理が働き、車体の持ち上がりがいくらか減免されます。
これは非常に巧妙にできた構造で、地上の起伏が小さいうちは二輪ボギーは独立して動き
起伏がある高さより大きくなると、前後のボギーが干渉しあってダブルボギーとして働く
というものです。
これが日本の独創なのか、元となる発想が外国にあるのかは分かりませんが、日本の
戦車は戦中を通してこの機構に依存することになりました。
● 九七式中戦車と五式戦車のサスペンション
九七式中戦車は戦中の日本の主力戦車です。中央のスプリングケースを挟んで
二つのボギー転輪があり、その前後を独立懸架の転輪が挟んだ6輪になっています。
一式、三式戦車もこのレイアウトを踏襲し、四式、五式戦車はその下のように
二組のダブルボギーになりました。(四式戦車は7輪)
アメリカが日本戦車を鹵獲してテストした映像が現在も残っていて、平地での地形追従
は非常に優秀に見えます。
ただし、この四輪ダブルボギーには構造上の欠点があり、日本戦車にもその特質
が受け継がれているようです。
● 登坂中のサスペンションの動き
ダブルボギーサスペンションは前後のボギーが干渉しあう特徴を持っています。
左図の九五式軽戦車のような場合、車体の重量が後ろのボギーにのしかかると、その
動きが前のボギーに伝達され、ますますピッチアップが増加される傾向が生まれます。
履帯にかかる重量が片寄り、スリップが生じやすくなり、エンジンの馬力やギアの
性能に関わらず登坂性能が何割か削がれてしまうのです。
また、大き目の起伏を乗り越える時、車体のピッチアップが大きくなって前後の動揺が
激しくなる傾向もあります。
これを避けるには右図の五式戦車のように二組のダブルボギーを組み合わせること
で解決出来ると思われます。前と後のダブルボギーは各々独立しているので、ピッチ
アップの傾向が生まれにくくなるのです。
あるいは履帯の幅を増してスリップしにくくする方法もありますが、やりすぎると
速度性能が阻害されてしまいます。
こうした傾向を除いても、サスペンションのどこかが被弾や故障で動かなくなると
四輪が影響を受けてしまうという欠点もあります。
巧妙にできてはいますが、軍用らしからぬ脆弱な面も併せ持っているのが日本戦車の
サスペンションの特徴と言えます。
────────────────────────────────────────────────
余談なんですが、ちょっとした発見。
● シャドー・モービル
「謎の円盤UFO」 と言うイギリスのSF特撮番組(1968年製作)があり、そこに登場する
万能戦闘車両です。英語発音ではモーバイルと言うそうで、現代のモバイルと意味が
つながっているようです。
前回紹介したRSOがこれとそっくりで、どうやらデザインの元になったみたいです。
RSOはイラストに描いた曲線型フロントデザインの他に量産性を考えた角型ボディー
のものがあり、面影が似ていたり転輪の数が同じだったりします。またRSOには様々な
派生型があり、75mm砲搭載型や水陸両用型、兵員輸送型、救急型(試作のみ)等が
あり、モービルもそれらに対応したタイプが見られます。
日本ではあまり知られていないRSOですが、欧州ではそれなりに評価されていたみたい
ですね。
「戦車サスペンションの本」の電子書籍販売 「戦車サスペンションの本Ⅲ」のオンライン販売
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます