新・日曜炭焼き人の日記

炭遊舎のホームページで書いていた「日曜炭焼き人の日記」を引きついで書いていきます。

驚くべき精神力

2014年11月09日 | 日記

 いつもならすでに寝入っている時間帯に、たまたま起きてテレビを見ていました。男子フィギュアスケートの羽生結弦選手が、事前練習中に負傷したにもかかわらず、4分半の演技を演じきったのでした。4回転ジャンプには何回か失敗したものの体の線をいかした華麗な動きはいつもと変わりません。演技を終えて倒れこむようにコーチのもとへ、自身の得点を見てからは、そのまま担架に乗せられていました。ふつうに歩くのもままならない状態なのに、スケートリンクに立ったときにはその弱さを微塵も見せない精神力の強さに、私は圧倒されてしまいました。テレビで解説していた松岡修造さんも織田信成さんも適切なことばを探すのに苦労するほどの圧倒的な精神力でした。
 直前の練習時に中国のエンカン(イェンハン)選手とぶつかって転倒したのでした。お互い後ろ向きに滑ってきてリンク中央部で振り向きざま頭部を鉢合わせしたようです。その映像はなんども映し出されていました。エンカン選手は欠場、羽生選手は頭部に包帯を巻き、あごに絆創膏をあてながらも出場するとの報道がなされています。羽生選手の負傷を気づかうアナウンサー、解説者の声がテレビから流れてきます。負傷をおして出場することが羽生選手の選手生命を縮める結果になるのではないか、という心配の声でした。しかし羽生選手は欠場など考えもしなかったようです。けがの程度が軽く見えたエンカン選手も、結局は舞台裏で羽生選手と握手を交わしたのちに出場しました。演技の順番としては羽生選手の直前にはいっていましたから、羽生選手のけがからの回復のためにわずかながらも時間かせぎをするつもりだったのかもしれません。エンカン選手の演技もりっぱなものでした。
 フィギュアスケート史のレジェンドになる一幕でした。



エボラ熱とペスト

2014年11月02日 | 日記

 空気感染しないとされるエボラ出血熱で大騒ぎしている。日本国内にはいるのを水際作戦で防げとか、潜伏期間が21日もあることを考えるとそれは不可能だとか・・。自分が罹患しないためには、また身内が罹らないためには、なんとか日本にウイルスを入れたくない。
 中世ヨーロッパでは多くの都市がペストで人口を半減させている。イギリス、ロンドン中心部では1600年代後半だったか、「サミュエル・ピープスの日記」にそのようすが控えめに書かれている。みなが恐怖を感じながらも平静を装っているさまがうかがえる。さすがに文明化し、成熟した社会をもつ国だ。
 それに比して、1300年代半ばのイタリア、フィレンツェでは悲惨を極めている。身内に罹患者がでるとその人を家においてみな田舎へ移住する。残された患者は3日たてば死ぬ。親であろうと子どもであろうと、妻であろうと夫であろうと救う手段がないのだから捨てて逃げるしかない。私が読んだのはボッカチオ「デカメロン(十日物語)」というフィクションだった。ペスト流行のせいでフィレンツェの郊外へ逃げ集まった20代の男女10人が、退屈しのぎにした話を集めたものだ。その序詞として、どのようないきさつでフィレンツェから逃れてきたかを話す場面の、半分以上をペストの悲惨さを描くことに費やしている。文庫本にして10ページ以上を費やしていることを見ても、フィクションの序詞とはいえ当時の人たちがみたペストの悲惨さがよくわかる。
 人は治療法がない病気に直面すると、どれほど自己中心になるか、どれほど他人に無慈悲になるか、がこの本からわかる。
 空気感染しないエボラ出血熱に関して「歴史は繰り返す」だけは避けたいものだ。