先日、姫路駅で停まっていた新幹線に飛び乗った。下車する新横浜駅に着くのは昼過ぎになる。乗車した姫路駅で弁当を調達する暇がなかったため、車内販売を利用した。「弁当ありますか」「2種類あります」とカードを手渡される。折り詰め弁当の写真が2種類載っており、値段はいずれも1280円。選択肢が少ない、駅売りより割高、通路側に座っていないと車内販売に声をかけにくいことなどがあり、たいていの人は乗車駅で駅弁を買って乗るのが常識になっている。車内販売は消えゆく運命にある。
むかしの駅弁販売はこうだった。汽車のボックス席には乗客が自由に開閉できる窓があり、汽車が駅に停車するたびに駅弁売りがプラットフォームを「弁当いかがですか」といいながら歩きまわる。弁当を買いたい人が「ひとつください」などという。フォーム側の駅弁売りは弁当をたくさん積み上げた入れ物を肩から紐でさげ、両手が空くようにしてある。客に弁当をわたし、お金を受け取り、釣り銭が必要な客には釣り銭を渡す。それを何件かくり返すうちに発車ベルが鳴り、汽車が動き始める。釣り銭を渡すのと汽車がプラットフォームを離れるのとどちらが速いか、やきもきしたものだが、不思議に駅弁売りが釣り銭を渡しそこねるところを見たことがない。プロのなせる技だった。いまの電車車両のような自動開閉ドアがなかったので、汽車が発車しはじめてからでも飛び乗ることができた時代のことだった。
これらプラットフォームの駅弁売りがいたうえに、車内販売もいたように記憶する。古きよき時代のことを、ポール・セルー著「鉄道大バザール」でいま読んでいる。