ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

WBC世界バンタム級TM 長谷川穂積vsヘナロ・ガルシア

2006年11月13日 | 国内試合(世界タイトル)
ランキング1位の挑戦者から2度のダウンを奪い、3-0で王座防衛。
この結果だけを見れば圧勝であったかのような印象を持たれるかも
しれないが、実際には非常に危なっかしいというか、厳しい試合だった。

最終的にはおおむね5ポイントほどの差がついていたが、これは
2度のダウンと、ガルシアの減点(バッティングによるもの)が
なければチャラだったということになり、競った内容だったことが分かる。


入場時から、長谷川の表情は硬かった。リングイン後に軽くアップを
していたが、その動きにもどこかキレがない。

ゴングが鳴ると早速、ガルシアは得意分野である接近戦を仕掛ける。
長谷川もそれに応じる。それはそれでいいのだが、どうも長谷川には
力みがあり、いつものスピードが出ない。スピードはないと評されていた
ガルシアと、ほぼ同じスピード、危ういタイミングでパンチを振るう。
過剰に期待される「KO防衛」を意識しているのだろうか。

時折、長谷川はペースを変えようと足を使ってガルシアの突進を
かわそうとするが、肝心の手が出ず、クリンチになることも多い。
ガルシアのしつこい前進を持て余している、といった印象だ。

その中で4ラウンドにタイミングよくダウンを奪ったりもしたが、
ガルシアはまるでひるむところがなく、長谷川らしいテンポのいい
ボクシングを展開させてもらえない。前半のポイントはクリーンヒットの
差でほぼ長谷川が取っていたが、ペースを掌握するまでには至らない。

そして後半に入ってもガルシアのスタミナは落ちず、反対にしつこく
打たれたボディブローによって長谷川の動きが鈍くなってきた。
長谷川が不用意に右ストレートを被弾する場面が目立つ。一方、
8ラウンドにもダウンを奪われたガルシアは、逆転KOしか勝つ道が
ないと考えたのか、激しく追い上げる。

その8ラウンドにはバッティングで長谷川が右のまぶたをカット。
見た目にも苦しい展開になってきた。

最終ラウンド。後半追い上げられたものの、ポイントではまず長谷川が
リードしているだろう。このラウンド前半の長谷川はディフェンスに徹し、
ガルシアのパンチをスイスイと避けて観客を湧かせ、また終了間際には
激しく打ち合って再び場内を盛り上げた。別にここで打ち合う必要は
なかったわけだが、スカッとした試合を見せられなかったことに対する
ファンへのお詫びの気持ちもあったのだろうか。


結果は前述の通り、判定で長谷川が3度目の防衛に成功した。

長谷川は、序盤にガルシアの土俵で戦い過ぎて相手を調子に乗せてしまった。
その後はガルシアの泥臭い戦い方に巻き込まれて少しづつ余裕がなくなり、
最後まで見栄えのいい展開にはならなかった。そんな中でも勝利を収めたのは
さすがだが、やはり本来のスピード溢れる攻撃、これを生かしてペースを
握っておけば、もっと明白に勝利できたかもしれない。

ただ、最後までそれをさせなかった挑戦者の粘り強い攻撃も称えられる
べきだろう。試合前は不調を噂されたガルシアだが、リング上での動きを
見る限り、コンディションは全く問題なかったようだ。


KO狙いで力み返るパンチ、そして最終ラウンドの打ち合い。
そこには、ただ勝つだけではなく「いい試合を見せたい」という思いが
あったはずだ。その気持ちが裏目に出てしまったのが今回の試合だったと
思うが、それも日本ボクシング界のエースであることの自覚の現れであると
考えれば、長谷川を責める気にはなれない。

決して楽ではない展開の中で奪った2度のダウンのタイミング。長谷川の
才能はそこに凝縮されていた。僕は長谷川の才能溢れるボクシングを
見たいのであって、必ずしもKOを期待しているわけではない。

奇しくも試合前、ガルシアが「自分は機関車、長谷川はF1」と
例えてお互いの性能の違いを説明していたが、今回のリングはF1が
その性能をフルに発揮できる場にはならなかった。この試合で長谷川は、
決して能力の限界を露呈したわけではない。ただ、自分が走りやすい
場を作ること、つまり試合運びの能力の面では課題が見えた。

気の早い話だが、この試合後に挑戦状を出した徳山昌守と対戦したら
どうなるだろうか。個々の性能では長谷川が上だが、試合運びの能力、
これに非常に長けているのが徳山だ。長谷川が能力を出し切って徳山を
倒すか、あるいは徳山がその能力を封じ込めるのか。興味深いところだ。


2 コメント

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ご無沙汰しております。 (MIYAUCHI)
2006-11-14 21:10:12
こんばんは、ご無沙汰しております。
昨日の試合はなかなか面白かったのですが、ガルシアのスタミナには驚きましたね。
しかし、録画中継とは残念でした。亀田以外の試合は注目度が低いようですね。
そのためにもぜひ世界王者同士のマッチメークが必要で
長谷川-徳山はぜひ実現して欲しいですね。
ミニマム級も人材豊富ですから楽しめそうですね。
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Unknown (たかお)
2006-11-15 22:58:24
MIYAUCHIさん、コメントありがとうございます。
長谷川とイーグル、両者とも厳しい試合になりましたね。
特にイーグルの方は楽勝を予想していたので、
まさか、まさかの展開でした。

徳山とのビッグマッチ、何やら長谷川は乗り気でない
様子ですが、ファンとしては見てみたいですね。

ちなみに録画中継の件ですが、僕は2~3時間程度の
遅れなら別に構わないと思います。ボクシングは1ラウンドで
終わってしまうこともあるし、放送する側としてはリスキーな
ソフトです。リアルタイムでなければ、そのぶん番組としては
きっちりと編集できますから、いいんじゃないでしょうか。

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