「旅の坊主」の道中記:常葉大学社会環境学部・小村隆史の防災・危機管理ブログ

日本唯一の防災学部はなくなっても、DIGと防災・危機管理を伝える旅は今日も続いています。

「さぬきメディカルラリー」を終えて:災害情報システムの使い勝手を考える

2015-05-24 18:17:17 | 災害医療・災害看護
5月下旬の恒例行事、「さぬきメディカルラリー」を終えて帰路に就く。

昨晩は例年に比べると比較的おとなしく、午前1時を回ったころから撤収モードとなった。
それでも、19時から飲み始めたのだから6時間余。
医療人、なかでも救急・災害医療に携わる医師・看護師、そして救急救命士のタフさと付き合うのは、
文字通り体力勝負。アルコールにも弱くなったなぁ、というのが偽らざるところ。
ともあれ、こういう場で大いに飲み、大いに語ることが、次のステップにつながる訳で、
その意味で、良い充電となった。参加して下さった皆さんに感謝を!

プログラムは今日の午前中まで。
デジタルペンを用いたトリアージタグのシステム紹介と、無人航空機を用いた情報収集の仕組み、
また衛星経由での通信機能を持ちスポット的にLANや携帯・スマホ環境を作れる仕組みや、
ウェアラブルな情報通信ツールなど、幾つかのデモが行われた。

で、改めて考えさせられたのが、「要件定義」の必要性と重要性。

理学的工学的なセンスの持ち主で研究開発に携わる者が、「何か」を作り、
「これが災害時や救急医療の現場で使えないだろうか?」と考えるのは、当然のこと。
しかし、それが現場で使えるかとどうか、使いやすいものかどうか、システムとして使えるかどうかは、
別の目でしっかりチェックする必要がある。

極端な話に聞こえるかもしれないが、本気でモノを考えたならば、
優秀な人材+「紙とエンピツ」に勝る情報システムは、よほど知恵を絞らないと出てこない。
あるいはアナログのアマチュア無線を超えるものも、なかなか出てこない。
「旅の坊主」の経験が、そのように教えてくれている。
逆に言えば、そのことを理解しない、あるいは理解できない人が多いのはなぜだろう……。
(作ることに関心があり、使われる場面は考えないということ、なのだろうか。)

我々が活動するのは救急現場であり災害現場である。
我々が使う情報システムは、そのような場(環境:有り体に言えば寒暑・荒天・ほこり等)を想定した上で、
かつ、南海トラフ沿いの超広域の災害であっても、特に発電所の被害による長期かつ広域の停電をも織り込んだ上で、
その時に役立ち得るシステムなのかどうか、そこが勝負の分かれ目。

さらに言えば、(情報系のデバイスやシステムは防災の一義的な目標である予防には直接役立たないだろうから)
その分、正しく効果的な災害対応をイメージした上でのものであるかどうかも、評価の基本。

過去に何回か、災害情報システムの要件定義に携わった経験がある。
使えないシステムは山ほど目にしてきた。

という訳で、午前中に目の当りにした幾つかのデバイスなりシステムなりについて、
災害時に使われるイメージを意識した上での使い勝手を提言できるかどうか。
そこに、「旅の坊主」ならではの経験の活かし方があるのだろう、とは思った。

で、そのような目から今回デモされた幾つかのデバイス・システムを評価するならば、こんなところか。

【ウェアラブル・カメラ・ゴーグル】
例えば、「がれきの下の医療」(CSM: Confined Space Medicine)での使用を考えるならば、
記録用として考えるならばともかく、現場で起こっていることを本部に送っても、
恐らくほとんど役に立たない、むしろ、効果的な災害対応の足を引っ張るのみだろうなぁ、と思う。
本部にベテランが居て、現場の隊員へ、経験に裏打ちされたアドバイスが出来るならともかく、
そのようなオペレーションが実行可能な状況にあるとは思えない。
現時点ではゴーグルも大きく重く、装着するだけで疲労感を増すようなもの。
双方向性をカタログ上で謳ったところで、文字通り机上の空論だろうなぁ、と思う。

【現場と本部の情報共有について】
重要なことが見落とされているのではないか、と思った。
というのは、日本の災害対応では、本部が現場の情報を共有することが無条件の善とされているのではないか、ということ。
もちろん、現場に近い本部ではそのような着意着想が必要だ、とは思う。
しかし、国なり都道府県なりの、広域を見なくてはならない本部で、現場本部に近い目線で考えるのは、
戦略的な発想を阻害するという意味において、間違った災害対応と言わざるを得ないのではないか。

現場のことは現場が一番良く知っている。だから、後方から「ああだ、こうだ」と口出しするのではなく、
現場には「何が足りないか?」を察して、可能な限り「言われる前に送り込む」という、
その種の「先を読んだ上での現場支援」こそが本部に求められること。

現場の情報を見てから本部が動くようでは、災害対応は二歩も三歩も遅れてしまう。
現場の情報がなくても、過去の災害対応の教訓と、マクロな被害量の把握に基づいて、
現場の支援に徹せられるような本部運営を。
そういうメッセージの発信を発信し続けなくては、と思った。

災害対応能力の向上には、災害情報システムの研究開発よりも、しっかりした災害対応に従事する職員の能力開発を。

メディカルラリーに参加しなければ得られなかった想か、と問われれば、そうでもないのだろうが、
少しはゆっくりとモノを見ることが出来たがゆえに、言葉になったアイディア、ではあると思う。
ともあれ、1泊2日の非日常が終わり、これから明日以降に向けた仕込みが始まる。


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