たびたび神社

ライターあかりの神社ブログ

熊楠の思い

2017-06-24 10:36:00 |  無社殿神社2

<引作の大楠 ひきづくりのおおぐす>

 

およそ15mの幹回りを誇る

「引作の大楠」がそびえ立つ、

南牟婁郡・御浜町の巨樹信仰の聖地には、

かつてそれに匹敵するような大きさの

何本もの大樹が集まっていたそうです。

明治時代の神社合祀令により、

そのほとんどが伐採される中、

この大楠だけが奇跡的に

生き延びることができました。

 

伊勢・式年遷宮に関連する儀式の中で行われた、

ご用材の切り出しの様子を見てもわかるように、

私たち日本人が「木」に抱いてきた畏敬の念は、

神様に対するそれと同等です。

命ある「生き物」として丁寧に扱われ、

特に樹齢の長い木を切り倒す際には、

祝詞を詠みあげたり、お神酒を捧げたりと、

細心の注意を払ってきました。

 

自らの名に「楠」を宿す南方熊楠は、

引作の大楠の中に植物を超越した、

「生き物」としての鼓動を感じ取ったのでしょう。

単なる文化財保護の運動ではなく、

生きている「命」を守ろうとしたのです。

人間が他人の命を見捨てられないのと同様、

仲間たちを失った引作の大楠の無念の叫びを、

心を切り裂かれるような思いで

聞いていたのかもしれません。

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