夢幻泡影

「ゆめの世にかつもどろみて夢をまたかたるも夢よそれがまにまに」

狸 5

2006年04月30日 19時50分37秒 |  河童、狸、狐
    いやいや僕ちゃんの天才の片鱗を見せればそれで止めようと思ってたんだけど、なにやらこれを入れてくれっていったようなリクエストまで出てきたりして。
    とにかく陽気な狼はおだてられると煙突の上の上まで登っちゃう。
    困った性格はどうしても直らない。後で落っこっても知らないから。

翌朝、狸に起された。
「いつまで寝てるんだ、もうお天道様は上まできてるぞ。テレパシーの訓練をやるんじゃなかったのか」って頭の中でがんがんと声が響いてくる。
眠り足らない目をしょぼしょぼさせながら家をでると、二匹の狸が玄関のところで待っている。
「ごめん、ちょっと寝過ごした。昨日があんまり楽しかったから」
「いや、実を言うと、わしももう少し寝たかったんじゃけど、ワイフがな、そのスーパーというところを見てみたいってせがむモンじゃから」って起したときの声の割には低姿勢。
「お前は俺から物を教わるんじゃから、わしは、お前の師匠じゃな。師匠の言うことはちゃんと聞かなきゃ。それにワイフが言うには何か教わるのにただってことはないだろうとな、まあ、こういうんじゃよ」
「なるほど、どこの世界でもメスは計算高い。そうじゃないと子供を育てられないモンな。しかたない。でもその格好では行けないよ」
「人間に化けりゃいいだろう。こいつにも化けさせるから」
「ふん、それならいいけど」
「じゃ、ちょっと待っててくれ」
「いいよ。こちらも仕度するから」
ということで、顔を洗い、仕度して、出てみて驚いた。

古狸は茶色の紬の着物に黒い帯、ワイフ狸は単衣。あっけに取られて、
「なに。それ」って聞くと、
「ワイフが着物を着てみたいというから、こっちもそれに合わせたんじゃがいかんかなあ」って自信なさそうにいう。
「いや、別にいいけど、その辺のスーパーに買い物に行くのに、ちょっと大げさすぎない。それにこっちはジャージにTシャツだよ」っていうと、
ワイフ狸が、「運転手ならそれでもいいでしょう」ってうそぶきながら嬉しそうに着物の袖を見ている。
狸でいるときにはしょぼしょぼ狸だけど、人間に化けるとこの古狸なんでこんなに腹が出てくるんだろう。どうみても信楽の狸ジャンか、おれ嫌だなこんなのと一緒に出歩くのはと思ったけど、仕方がない。
「まあ、いいや。とにかく乗って」って車に押し込み、下のスーパーまで買い物に出かけた。

スーパーでのワイフ狸のはしゃぎようったらなかった。美登里だってはしゃいだけど、こうまでじゃなかったなと思ったけど、どこかのコギャルに金を持たせてブランドショップに連れて行ったのと同じような効果。
幸いスーパーではいくら買われても、破産するほどのものは置いていないので、助かったけど。メスはメス。世界のどこに行っても、人間でも動物でも変りようがないんだなってしみじみオスの悲哀を感じた。
モーパッサンだったけ、文章作法を覚えようとしたらオス猫をさそうメス猫の動作を観察して文章に書けって言ったのは。それがしみじみと理解できた。
助かったのは古狸も最初は目を輝かせていたけど、しばらくしてワイフ狸のはしゃぎようをみて、しょぼしょぼしだして、もう二度と連れてこないだろうと思われたことくらいだったかな。

まあ、それから車で岬の町のあちこちを案内して、やっと放免されて家にたどり着いたときには古狸も私もグタグタの状態だった。

「今日のレッスンは取りやめ、明日にしような」って古狸からメッセージが頭に届いて、うんうんとうなづいて、そのまま昼寝に直行。ベッドにバタンと倒れこんだ。

しばらくして、古狸の声がした。
「起きてるか」
「疲れすぎて眠れない」
「ありがとうな。いい人間に出会ったって感謝している。
あいつは今度が初産だから怖いんだよ。おれが代わってやることはできないしな。
それにあいつに俺の子を産んで欲しいし。
女にとって、お産って生死をかけたもんだからな。
昨日、今日みたいに、あんなに子供みたいにはしゃぎまわった彼女を見たことがないんだよ。
さっき「これで決心ができた。死んでも満足だわ。
あなたとこんなに楽しい思い出を作れたんだから」
って言いながら眠ったよ」
「そうか、よかったな」
枕から頭を上げて外を見ると、十六夜の月がそらに上がって、虫の声がジーンと胸にまで響いてきた。




ということで、今日はこれまで。

「お疲れねぇ」ってどこかから美登里の声が聞こえてきた。


04/30/2006 21:49:11

狸 4

2006年04月30日 18時30分22秒 |  河童、狸、狐
さて、ご一行様をお連れしての小ドライブ。
雌狸様にはいたくお気に召したご様子。
窓に張り付いて、流れる景色を大喜びで見ていた。
なんか、親父のところにいた柴犬をドライブに連れてきているような懐かしい風景。

古狸はと見ると、なんとか威厳を保っていようと必死に努力している様子だけど、その目線があちこちに飛んでいるのを見るとこれもかなり興奮している様子。

人間仲間の超エリートと同席すればこちらもかなり緊張を強いられるかもしれないけど、同じ超エリートとはいいながらも狸ならなんとなく対等でいられるというのが嬉しい。なんて思ったら、この古狸、こちらを不機嫌そうな顔をしてちらっと見た。
先ほどまでは死にそうに腹ペコなんてくたびれた古狸がエリート意識を取り戻したのかなって思ったけど、彼にはあまりそんな気持ちはないみたいで、周りの景色に気を取られている。

五分ほど走って、家への最後のアプローチにかかる。
「ここからが家の入り口だよ。この狭い道を通っていくと突き当りが家なんだ。
この丘に十軒ほど家がある。このアプローチから先には6軒だな。でも何時も人がいるのは入り口の家だけ。後はもう一軒がたまに来るくらい。他の四軒は何年も人が来たことはない」って説明すると、狸たちは身を乗り出して、周りの様子を見ている。
どうも古狸のテレパシーには信号をスルーさせる機能があるようで、必要なことはそのまま若狸に伝わるようだ。雌狸自体はテレパシーの能力がないのだけど、古狸にはそれを伝える力があるようで、何もいわなくても雌狸も理解している様子だった。

突然、犬はいないのって女の声が聞こえた。吃驚して雌狸を見ると「ミュウ、ミュウ」としゃべっている。多分古狸が雌狸の声をそのままテレバシーで伝えてきたのだろう。
「いない。ここの両側はかなり急な崖だから、そこから何かが上がってくる事もない。もし何かが来るとすればこの道からだけだ」っていうと狸たちは安心したような様子を見せた。

家に着いて車を止めると古狸は、
「いいじゃないか、ここは素晴しい。特にこの家は気に入った。周りが木が切ってあって、草っぱらになっていて、太陽の光も届くし、崖には木がたくさん生えている。ここだと餌にも困らないだろうし、危険な動物もいないようだから安心だ。ここなら安心して子供を育てられる」っていうから、吃驚して、子供がいるのかと聞くと、まもなく産まれるって答える。
「おじいちゃん、やるじゃん」って冷やかすと、照れたような顔をして、その辺の家にもぐりこめるところを探すからって二匹で散策に出かけていった。

家に入るときに、いつものように入り口のドアを閉めたら、彼らが帰ってきても判らないかなって一瞬思ったけど、なにテレパシーがあるんだった。テレパシーならドアを閉めようが関係なく伝わってくるから、用があれば話してくるだろうて思って、なんて便利なんだろうと今更ながら思った。
よし、この力をもっと訓練しよう。

家に入って片づけをしていると、古狸から「ちょうどいい場所が見つかった」って連絡が来た。見に行こうかっていうと、いや巣を作るので忙しいから来ないでもいいとの返事。なら出来上がったら知らせてくれと頼んで、こちらも自分の家の掃除や、洗濯に掛かることにする。

家の中の仕事が一段落ついて、食べ物を買いにでようと車をだすと、雌狸はちょっと車に乗りたそうな素振りを見せたけど、口には巣穴用の材料だろうか、何かを銜えていて、それどころではなく忙しそうだった。いやいや、親になるって大変だねと思いながら、がんばっていい巣穴を作りな、今日からのお前たちのベッドだからって口の中でつぶやいて食料の買出しに出かけた。

夕方客がいるからと、バーベキューのセットを道に持ち出し、買って来た魚を網で焼きながら、ワインをあける。狸たちはその匂いを嗅ぎつけて私の周りにやってきた。鼻をちょっと上げて、くんくんと匂いをかいでいるのは犬とそっくり。
食べるかって焼けたいわしを取り出すと、バケツに入っている生のほうがいいという。
そうだ美登里も都会が好きになってきたけど、食べ物だけは生ものがまだ好きなんだ。
最初に東京に来たときなんか一緒にスーパーに行って買い物したんだけど、目を輝かせて魚を欲しがって、それを買って帰ると丸ごとむしゃむしゃやりだした。
結局、自分の分は自分で三枚に下ろし、刺身醤油と山葵をつけて食べたのを思い出した。
バケツ一杯のいわしが200円だから買ってきたけど、食べきれないから好きなだけ食べなっていうと嬉しそうにメスに食べさせる。いい旦那だと思ってみていると、照れくさそうに「元気ないい子供を産んで欲しいからな」って言い訳をしている。
「別に言い訳なんかする必要はないじゃないか。いい親父だって、感心しているんだから」というとクククって笑う。
「腸が嫌なら、取ってやろうか」っていうと
「とんでもない、そんな贅沢に慣れるとお前がいなくなった時に困るから」って断ってきた。よく判っているじゃない。人間だってすぐに贅沢に慣れてしまうのに。

美登里に感化されて私の味覚は随分と薄味になったけど、これ以上薄味になると人の作った物が食べれなくなる。
生ものを生ものとして美味しいと思えるのは岬の生活の一番の幸福なのかもしれない。
人間は材料の味を生かすって言っても、どうしても人工の味で調理をしてしまうし、ものによっては食材の味もないくらいの別な味にしてしまう。
京都の料理はまだ薄味だけど、フランス料理はソースなんかで味をつけてしまう。それが文化なのかもしれないけど、私にはそんな文化は余計なものとしか思えないときもある。イタリアンやスペインの海岸の方の料理が私の口に合うのもそんなこと。新鮮な野菜や魚がいつでも手に入ると、どんな高級料理屋さんでも行く気がしなくなる。採れた手の、時期時期の旬のものを食べる幸福なんて都会の人間がどんなに高級を気取っていてもわからないだろうと思う。

ところでワインは二匹とも気に入った様子。こいつらは飲まないだろうと思って、ちょっといいワインを買ったのに、ぺろぺろと舐めている。
「こんど猿酒を探してきてやる。山に入ると果物が醗酵して酒になるんだ。人間には探すのが難しいかもしれないけど、こいつはちょっといけるぞ」ということで、今日のワインのお返しは猿酒だな。確かに山に入る人が幻の酒といっているのを聞いたか読んだかしたことがあるから、自然人を気取る前に、一度は試飲しておかなければ。彼らがそのチャンスをくれるというならワインなんか安いものだ。でもどうやって持ってくるんだろう。

なんて考えていると、
「なんなのこれ」って美登里の声が聞こえてきた。
「美登里、どこにいるの」
「今、郡山。猪苗代湖のそば、誰なのそばにいるのは」
「変な狸のカップルが家のそばに住みつくことになったんだ、今日はその引っ越し祝いをしているんだよ」
「だれその狸って」
「美登里か、久しぶりだな」
「甚平おじいさんなの、お久しぶり。最近若い狸と添い遂げたって聞いたけど」
「それがね、もうすぐ子供が産まれるんだって、だから家のそばに巣をつくったんだよ」
「それはそれは、お年を召しても矍鑠として」美登里の声がなんか変。
「ねえ家なんか、子供の兆しもないわよ。ちゃんと教えてやって頂戴」
甚平狸は例の上目使いでこちらを見ながら、えへらえへらと笑って、
「あまり仲がいいと子供ができないっていうよ」って答えている。
「まあ、楽しんで頂戴ね、家の人に虫がつかないように見張ってて」と言いながら美登里の声は聞こえなくなった。

「だろ。テレパシーって、どこにいても繋がるんだ。だからわずらわしいときもあるんだよ。特にお前みたいに年がら年中頭に思っていることを放送していると、お前のことを気にしている相手には全部判ってしまう。だから閉じたり、出力を弱くしたり、人のシグナルを聞かない様にすることも覚えなきゃな」
「そうだね、よく判った。明日から教えてくれよ」


「俺たちは夜型なんだ」という狸たちにつられて、その日は本当に遅くまで飲んだり食べたり、しゃべったり(?)して過ごした。
おりしもその日はあつらえ向きに満月。もう少しで古狸の腹太鼓が聴けそうだったんだけど、若女将が古狸の腹を噛んで、それは止めさせた。
そしてもう酔っ払いすぎているから失礼しますって古狸のテレパシーを通じてメッセージを送って、古狸を追い立てながら新居に帰っていった。

空には朧の月。
くちくなったお腹を抱えて私もよろよろとベッドまで足を引きずって歩いていったらしいけど、殆ど覚えがない、、、、



04/30/2006 12:22:19

狸 3

2006年04月30日 12時25分52秒 |  河童、狸、狐

    さてさて、風任せ、波任せで船出した狸も三回目を迎えます。
    果たしてどこへ辿りつくのやら、たどり着いたときには船頭の私は生きているのかはたまた白骨死体でサルガッソウの帆船状態になっているのやら、神のみぞ知るでございますけど、、
    まだ書いているということは白骨にはなっていない、あるいはゾンビになっているのかな。それすら定かではなくなってきておりますよ。


メスって馬鹿だからって言葉を聞いて、いくら妖怪狸とはいえ、狸から人間が馬鹿にされたのかなってあまりいい気持ちではないなあと思っていると、狸はボソッと
「まあな、狸のメスだって、力があったり、頭がよかったり、俺のようにエリートだったりするのに魅かれるからな。メスの考え方なんじゃないかな」という。
「そりゃな、人間だって同じだよ。
ただ人間の場合はもっと社会も環境も複雑になっているから、力や金の象徴が車だったりとちょっとストレートにでてこない。
おまけに人間の場合は妊娠して、子供を育て上げるまで他の動物とは比べ物にならないくらいに長くて、一生モンだからメスの生き方はもっと深刻なんだ。
それに人間の場合はメスでも仕事をするのが増えてきているから、仕事のために相手を選んだりするのもいるし。
一緒に寝たからって子供ができないようなやりかたも進歩してきたしな。だから一生をともにする相手でなくても、たまたま好きになったり、力を貸してくれそうだったりしたらその相手と寝る事だってできるようになってきたからな。
メスはそれを自由になったって言っているけど。

でもそれ以上に物事を複雑にしているのが、この頭だな。
今でも金とか、目的や、利益で相手を選ぶってのが、不純だって、どこかで誰かが決めたみたいで、心の底では相手の金や力に魅力を感じても、自分では決してそれに気がつかないし、そうは思わない。あくまで純粋に相手を好きになったからって感じようとするんだよな。

相手の子供を生み、育てるメスとしては、先も見えない相手と、ただただ相手が好きだからで一緒になるのは失格だろうし、
自分の本当の気持ちの奥底が判らなくて、純粋に相手を好きだと思うのはもっとバカだろうな。
でも、今の社会では、自分の気持ちの奥底が判って、相手の金に魅かれたなんてこうげんするのはそれ以上に馬鹿。
本当に頭のいいメスは、自分の気持ちの奥底が判ってもそれを自分の目からは蓋をすることができる子だな」

「若いのに随分と辛らつじゃないか」古狸はにやにや笑いながらいう。
「そりゃ、お前さんみたいな妖怪狸からみれば、私は若造だろうけど、でも人間にして見れば結構歳を食ってるからね。これくらいは判るよ。
それに俺はオスだから、メスのことだけを言っているけど、オスだって同じだよ、ちっとも変らない。だからこそ人間が絶滅しないで生きてこれたんだからね」

それにしてもって古狸に聞いた。
「お前の言葉は俺にも、お前の連れ合いにも判るけど、お前の連れ合いの言葉は俺には判らないし、俺の言葉もお前の連れ合いには判ってないようじゃないか」
「それはお前と俺がテレパシーで話しているからだよ。お前が河童と会ったときにはテレパシーで話しただろう。お前は人間にしては珍しくその才能があるんだよ」

そう言われて、俺は特別な才能があるのかって喜んだら、
「もともと動物にはその才能はあるんだ。人間は理性を発達させていく間に逆にそれを失ってしまったんだ。理性的に理解できないものとしてな。だからお前は人間より動物に近いんだ」って言われてしまった。

「そう言えば河童と話をしているときにはテレパシーで話したけど、美登里とは普通に言葉で話しているよな」
「それは美登里って言うお前の河童の彼女が賢いからだよ。
人間の世界に住んで、お前とテレパシーで話していたら変に思われるだろう。
それにそれ以上にお前と彼女がテレパシーで繋がれば、隠し事が難しくなる。岬と東京に離れててもテレパシーは距離には関係がないんだから」
「でもテレパシーって頭で考えることがそのまま相手に伝わるんだろう」私は河童の長老に始めてあったときの失敗を思いだしながら聞いてみた。
「いや、そうじゃない。テレパシーも言葉と同じだよ。頭で考えてそれが口から出て行く。テレバシーも頭で考えることと発信することは別なんだ。ただお前がテレパシーに慣れていないので、その辺の区別がつかないだけだよ」
「へえ、じゃテレパシーってどこから出るんだ」
「額の真ん中にその発信と受信のモジュールがあるんだ」
「ああ、お釈迦様のあれね」
「そうだ、その能力があってちゃんと使いこなせる人にはそれが判るんだ。お前もテレパシーを使いこなせればだんだん判ってくるよ」
「そうか、ならお前たちが家のそばに来れば、俺もお前からテレパシーの使い方を教えてもらえるな」
「まあ、お前と話すときには使わざるを得ないから慣れてくるだろうな。でも慣れと判ることは違うけどな。お前が頭がよければ判るかもな」

狸に馬鹿にされるのはあまり気持ちのいいものではないけど、でも相手は何百年も経た妖怪狸、ここはしょうがないかと諦めながら、
「それならそろそろ家まで出発しようか」と狸を促す。



狸 2

2006年04月30日 11時27分55秒 |  河童、狸、狐
04/30/2006 00:25:03

    狸の続編がでないってお叱りを受けた。
    今までの書き物は、コンセプトがあり、粗筋を作り、それから始まる。今回のは、思いつきの出たとこ勝負で書いているので、気分がのらないとなかなか先へ進まない。
    途中、前の部分を変えたくなって書き換えをするかもしれない。それよりも行き詰る可能性のほうが大きいかもしれない。
    でも、まあ行けるところまで行ってみましょう。
    なんとなく自分の人生みたい。お先真っ暗ですね。


ちゃんと針をつけて釣り糸をたらすなんて私にはとても稀な経験だけど、でも幸運に恵まれたのだろうか、立て続けに二匹の魚が釣れた。それを狸にやると、狸は口に銜えて、さっと後ろの草むらへと駆け込む。
来るときには、今にも死ぬかと思うほどよたよたしていたのに、現金だなと思いながらも、妖怪みたいな狸だけど、流石に野生の魂があるんだ、食べるところは人間には見せないんだなと妙に感心もした。家の猫だって赤ん坊のときから育てないと取ってきた獲物を簡単に渡さなかったから、野生の動物にとって食べ物って言うのは命の糧なんだ、人には渡さないんだなと思いながら見ていたのだけど。

腹が満腹になればもう帰ってこないのかなと思っていたら、草むらから出てきてまた私のそばに座る。
三匹目が釣れる。もう食べないかと思いながら狸にやると、今度は私のそばでがつがつと食べている。
「お前、小さな体で結構大食いなんだな」って聞くと、
「俺にだって、養わなきゃいけない家族がいるんだ」って答える。
「じゃ、今の魚は家族にやったのか」って聞くと、
「あの草むらに女房がいるんだ」ってこたえる。
「だってお前の300歳かなんかの女房は交通事故で死んだんじゃないか」って聞くと、へらへら笑いながら、
「そりゃモトカノジョの話だろう、今は普通の狸だけど、若くて結構可愛いのと一緒にいるんだ。でもさっきの話は今の彼女の前ではするなよ、やきもち焼きだから大変になるからな」って目じりを下げる。
狸すらちゃんと見たことがないのに、狸が目じりを下げるのが判るなんて、おかしいと思うけど、でも何となく判っちゃった。

「お前がどんな人間か判らないから一緒には出て来れなかったんだ。大丈夫だと判ったからもうすぐあいつもここへ来るだろう」
「なんか、自慢しているようだな。それにしても危険は自分で背負う。餌もまず女房に食べさせる。立派じゃないか。狸の中の狸だな」って褒めると、
「そうかな、メスに食べさせるのはオスとして当たり前のことじゃないか。だからこそメスだって俺に就いて来るんだから。メスに食べさせてもらうほど落ちぶれちゃいないよ。そうなったら俺は山の奥に入って一匹で暮らすよ」
「そうとう愛してるんだな」って聞くと、
「まあな、前の奴ほどじゃないけど。前の奴は特別だったんだ。でも特別な奴じゃなくても、オスは何時も誰かがいないと駄目だろう。オスはしょうがないんだよな」

そんな話をしていると狸がもう一匹草叢からやってきて、この古狸のそばにぴったりとくっつき、こちらを見ている。
「これがお前の女房か」って聞くと、古狸はニヤッて笑って、そうだと答えながら、メスの首を甘噛みする。
メスは目を細めてミュ~ともミョウともつかない甘い泣き声をあげる。
「おいおい、目の毒だよ」って言うと
「お前には人間のメスはいないのか」って聞くから、いないっていうと吃驚したような顔をして、何故って聞く。
「人間の社会って、いろいろ進歩しているから、特にメスがいなくっても困らないんだよ」
「そんな問題じゃないだろう。心の問題だよ」って狸が大真面目で話す。
なんとなく、男女の真理を狸に説教されているようでむずがゆい。

「まあな、あまりそのことを突っ込むなよ。美登里が怖いよ」って答えると、
「河童だって結構雑婚だよ。河童のメスならそんなことは理解するよ」って答えるから、
「いや、美登里は駄目だろう。人間の世界に慣れちゃったから」って答えると、
「不便なもんだな。それともそれがいいのかな」って考え込む。

私のうちはどんなところにあるんだ、って熱心に聞くから、山の端の崖の上にあって、回りには何軒か家があるけど、誰も来ないっていうと、人間の社会を見たいから私のうちに連れて行けという。
一人でいると寂しいから犬とか猫を飼いたいと思っていたけど、留守にすることが多く諦めていたので、その代わりに狸が近くにいればそれもいいかと思い、いいよって答えて、釣道具を片付けたら、車で帰るから、乗っていけばいいと答えるとメス狸は目を輝かせて、車に乗るのは始めてって嬉しそうにはしゃぎだす。
「人間のメスも車でオスをえらんだりするんだよ」って古狸にいうと、馬鹿馬鹿しいって顔をして、メスって言うのは本当に馬鹿なんだなってボソッと答える。


まだ途中ね、、、

「落花随流水」    きちんとしなきゃ

2006年04月28日 12時40分40秒 | 日記
04/28/2006 22:51:56

むかしむかし、ある出版社から本の原稿の監修をして欲しいって頼まれた。
ちょっとだけ見てみると、かなり思い違い、ミスがある。
直せるものには赤を入れていったけど、そこを直すと前後関係が続かなくなったり、話が見えなくなるようなシリアスな間違いも散見された。
これじゃってので編集担当に電話をし、それを見せながらどうしようかと相談した。
彼曰く、「これは講演会の記録で、もう話としてでちゃったものだし。その方も亡くなっているから直せないので、そのまま出すしかありません」とのこと。
作家は歴史の専門家で、歴史小説や、文明論みたいなエッセイもたくさん出している人。大きなシリーズものもでているし、NHKなどでもそれから番組を作ったりしている超超有名人。
彼は三大紙の出版部員なので、会社としても変なものは出せないけど、、、みすみす売れるものを止めるわけにもいかない。
「あの先生は講演の前の下調べをしないんです。だから時々、間違いだって指摘が来たりして」って彼は苦笑していたが、苦渋の選択だったのだろうと思いながら、でもこれじゃ私の事務所の名前も私の名前も出すわけにはいかない。
今後ともこの出版には無関係にしておいて欲しいとお願いし、手を引いた。


今、ふっとこのことを思い出しているのは、最近私がこの先生状態なんだよな~って感じている。

日記を書く、人の日記にコメントをつけたりする。
何となくうろ覚えのまま、原典にあたりもせず、そのまま書いてしまう。

最近も人の日記に「落花随流水」ってあって、ああ「従容録」かって、ろくに確認もしないでコメントをつけちゃった。
で、その人から「落花意有随流水、流水無情送落花」って書いてきた。
私は「落花有意随流水 而流水无心恋落花」を書いていたので、随分と違うものになってしまう。
「従容録」の話はこの人のお仲間たちが、寒時寒殺とか、魚が竜になる話とかに、ハクション大魔王の話と全く同じ感覚で飛んじゃったりして、そのまま皆理解して話が続いているんですよね。
もちろん「従容録」は彼ら、彼女らの単なる知識の一つにしか過ぎない。

ちなみに上で、チェックを入れてきた人は朝の3、4時にワインを一人で一本飲んで朦朧としているっていいながら、「あれっ?」てチェックをかけられる人。

そりゃ、口にするもの、書くもの、そのほか何か自分を表現しようと思えばちゃんと引用などにも心を配り、原典チェックくらいは当たり前。
常識でしょうと言われればそうなんだけど、それができない。できていない。

だから、こんなチェックを入れてくる人がいると、汗~って感じで冷や汗がでる。
大雑把、なおざりはいけない。
きちんとしなきゃ。

とは、何かあるたびに、何時も思うんだけど、
でも気がつくとまた同じことをしているんだ、私は。
また、何か失敗したかな?????


狸 1

2006年04月26日 10時56分26秒 |  河童、狸、狐
岬の河童のことはお話しましたよね。
あぁ、声をださないでください。
美登里が後ろで聞いていますから。

彼女もあの頃はまだ可愛かった。
思い出すと、貴方が今までの男の中では一番素敵なんてうるうるだったし、もう貴方なしでは私が生きている意味もないわなんて言っていたのですよね。
そのころは人間の社会についても、いろんなことに新鮮な驚きを示して、見ているだけで可愛いなって思えたんですけど。
でもやはり人間の社会に毒されたのでしょうかね。

今も新しい着物を買うんだとかで、隣の部屋で家計簿とにらめっこしてます。
貴方が来なきゃ、今頃は稼ぎが悪いってはっぱをかけられているところですよ。

まあ、今日は愚痴をいうのが目的じゃなくって、貴方のお望みの狸の話をいたしましょう。

あの河童たちと会った所から、夷隅川をそう2,3キロ上流に入ったところ。
河童たちのいた所だって川岸は名前もしらないような草や木が生い茂っていたのですから、もうその辺では人の姿を見ることさえできないような緑の、そうアマゾンの川を遡ったりしているような雰囲気がありました。
えっ、アマゾンに行ったことがあるかって、とんでもない、私は蒸し暑いところと、虫と、蛇が大嫌いなんで、あんなところ頼まれてもいきませんよ。
テレビですよテレビ、テレビで見たんです。いや、こんなとこには仕事でも行かないよって思いながら見てました。

まあ、話は戻りますけど、そこにちょっとした釣のスポットがありましてね、よく行ったものです。釣りっていっても、ご存知のように私の釣は魚を釣るためじゃない、ただぼけ~とする時間を持ちたいために行くんですよね。だから小船を出して、船の中で寝そべっていたり、川原で昼寝をする、それにちょうどいい場所ってことなんですけど。
川が曲がっていて、よどみになっていて、片側は高い崖。反対側の岸は低い草が生い茂っていて、崖の上とこちらの岸は木々が生い茂って影を作ってくれる。ちょっと暑い日なんかに船をこの辺に留めて川面の小さな波が船を揺らしているとすごくいい気持ちで眠れるんです。結構風も来ていて涼しいし。船を出さなくても川岸で心の中を真っ白にしてぼけっとしていると本当に幸福な感じになってくる、そんな場所なんです。
釣りをしないんなら釣道具なんか持たなくてもいいと思われるでしょうけど、他に人がいなければいいのですけど、たまたま人がいたりして、何もしないで川面を見ていたりすると、変な人がいるなんて思われて警察に通報されかねませんからね。釣師の格好だけしているのですよ。

それである日のことです、いつものように夷隅川のその川原へ出かけたのです。
太陽も鈍い光を川面に投げかけていて、ちょうど八重の桜も終わり、新緑の匂いが苦しいくらいに満ちてまして、ぼ~とするにはおあつらえ向きの日だったんです。

しばらく針のついていない釣棹を川へだしてました。
すると、草の間から、犬のようなのがちょろちょろって出てきて、釣り糸のほうをみ、こちらの顔を見て、私から一間くらい離れて、川原に座り込んでしまったのです。
そして人の顔を盗みみて、なにやら言いたいことがあるみたい。
あんなあって言葉が聞こえそうで、
「どうしたんだ、何か言うことがあるのか」って聞きますと、この犬、驚いたように、「お前の言葉が判る」っていうのです。
苦笑して、「河童とは毎日口喧嘩もしているし、妖怪たちの言葉も考えている事も判るよ」っていいますと、大きくうなずいて、
「お前だな河童の娘を貰った人間って言うのは」って聞きますので、そうだよって答えると、いや最近何も食べてないので、釣りをしているんだったら、何か分け前をもらえるかって思ったんだって答えるのです。
私の釣り糸には針はついてないよって答えると、不思議そうな顔をして、じゃなんで釣をしているんだ、時間がもったいないじゃないかって聞いてくるから、
「いやただぼ~っとしている時間が欲しいんだよ」って答えると
「仕事もしないで、ぶらぶらしてたら、餌がとれないだろう。腹が減るだろう。
俺なんか一生懸命餌をとろうとしても、最近餌が取れなくって、もう死にそうだよ」って目やにの一杯詰まった目をしょぼしょぼさせている。
「見てくれよ、この毛皮。ぼろぼろになっちゃって。これでも若い頃は、女狸が寄ってきて大変もてたんだけどな~」って昔を懐かしむような顔をして、川面を見つめる。
おかしくなってきて、「じゃあそのボックスに針が入っているから、とってくれよ、魚が釣れたらお前にやるから」っていうと、急いでボックスから針を持ち出してきて、私のそばに座る。

さ~っと風が吹いて川原の葦の葉をさざめかす。
鈍い色の空には、空とあまり区別がつかないような雲が西からゆっくりと動いている。
時々川面で魚が跳ねる。

釣り糸を垂れながら、風を楽しんでいると、狸が
「何か考えているのか」って聞いてくる。、
「いや、何も考えていない」って答えると、
「ならなんで仕事をしない、食べなきゃ死んでしまうだろうに」狸はますます不思議そうな顔をして同じことを聞いてくる。

「いや、年金というのがあってね、若い頃に稼ぎの上がりを預けておくと、年とってからそれがもらえるんだ。もっとも若い頃に預けたのはその時代の年寄りのところに行っちゃって、今貰っているのは若い者の稼ぎなんだけど」って狸なんかには多分判らないだろうと思いながら言うと、
奴は大きくうなずいて、「俺たちにもあるよ。若い物が獲物の一部を届けてくれるんだ」って言う。

年金なんて、人間の発明だから、狸たちなんかに判るもんかと思ってたのが、見事に外れておかしくなってきた。
ちょっと笑っていると、狸は、下を向きながら、ぼそりと「でもな~、わしらの若い頃は年寄りの智慧は皆が尊重してくれたもんだけど、今じゃな~」ってこぼす。
私の不思議そうな顔を見て、
「見てみろよ、こんなに人間が俺たちの縄張りに入ってきて、荒らしまわっている。俺たちの生活は成り立たなくなってきているんだ。
昔は何も変らなかったから、俺たちの智慧が若い者にも役に立った。
今じゃ俺たちが何を言っても状況が違いすぎているから彼らの役には立たないんだ。
二言目には時代が違うって言いやがる。でも奴らのいうことも当然なんだよ。
しかも獲物が少ない、若い者の数は減ってくるってことで、俺たちに貢物を出すような余裕がなくなってきているんだよ。
若い者だけを一概には責められないってのもよく判るんだけど、俺たちも食べていかなきゃならないし。俺たちも大変なのよ」

「この川だって昔は国道なんてものや、車もなくて、あのあたりは河童がうようよいたし、もっと上流に行けば、俺たちと住み分けて狐の領分だったんだ」
驚いて、「お前はいったいいくつか」って聞くと、
「ある程度まで生き延びると死ななくなるんだよ。普通の狸だと10年も生きればオンの字なんだけど、おれはもう何歳になったのかな、もう歳を数えるのも面倒なくらい生きてきたよ」って答える。
「俺の連れ添いなんか、還暦過ぎたら若返って、300歳でまだ子狸だって自分でほざきながら、その辺の若いのを悩殺してたんだ。
ちょっと小太りだったけど、可愛かったよ、ほんとに。あそこの国道で車にはねられて死んじゃったけどな~ まあ、今でも時々思い出すよ」

そんな年寄りがぞろぞろいたんじゃ、高齢者の割合が増えて互助システムなんか機能したいだろうと思いながら、そんな「妖怪」狸がたくさんいるのかって聞きましたら、このときばかりは胸を張って、いるもんかね。本当にひとにぎりだけだよ。万の狸がいても100を超えられるのは一匹いるかどうかだねって答える。

じゃ、本当に狸社会のエリート中のエリートなんだって、このしょぼくれ狸を尊敬の目で見直した。



狸の互助システムや世代の格差の問題は、どこかの国の高齢化社会と年金問題の話を聞いているようで、笑ってしまったけど、この話はまだ続きますね。