社保料や税滞納の倒産急増 背景にコロナ禍の納付猶予縮小

産経新聞5/18(土)19:17

社保料や税滞納の倒産急増 背景にコロナ禍の納付猶予縮小

社会保険料や税金の滞納による倒産が増えている

 

税や社会保険料といった「公租公課」を滞納し、資金繰りに窮して倒産する企業が急増している。民間調査会社「帝国データバンク」のまとめでは、こうした倒産が令和5年度に全国で138件確認された。背景として新型コロナウイルス禍によって続いた納付猶予措置が縮小したことが挙げられる。同社は「滞納に苦しむ企業は今も多い」とし、今後も倒産が相次ぐとみている。

帝国データでは、公租公課の滞納が要因となった2年度以降の倒産を集計。コロナ禍の拡大で国税や地方税、厚生年金など社会保険料の納付猶予措置がとられた2年度は46件、社会保険料の猶予措置が一部続いた3年度も53件だった。ところが、年金の猶予措置が縮小し、徴収が本格化した4年度は97件、5年度は138件に増えた。

同社によると、パチンコホール大手のガイア(東京都中央区)は、社会保険料の滞納で差し押さえを受け、昨年10月に民事再生法の適用を申請。韓国食材スーパー経営の永山(東京都台東区)も約7億円の社会保険料を滞納した末、差し押さえ通知を受けて事業継続を断念した。

関西でも今年3月、昭和3年創業のタクシー会社「茨木高槻交通」(大阪府茨木市)とグループ会社が民事再生法適用を申請。滞納した保険料などを完済できず、4月末に大阪地裁から再生手続き廃止決定を受け、破産手続きに移行することになった。「社会保険料が約8億円、消費税は約3億円を滞納していた」と関係者は明かす。

日本年金機構の業務実績報告書によると、社会保険料の滞納事業者は令和4年度で約14万社。納付猶予措置があった2年度より2万社ほど減少したものの、納付できず苦しんでいる企業は多い。帝国データでは、特に社会保険料の猶予措置がコロナ禍中の企業の資金繰りを支えたとする一方、猶予措置が縮小して以降は、多くの企業が月々の支払いに猶予分を加えた「二重の納付」に窮しているとみている。

帝国データ大阪支社の担当者は「社会保険料の納付が猶予された期間に業績を回復できなかった企業が今、苦しんでいると聞く。今後も公租公課の滞納を原因とした倒産が続くのではないか」と分析している。

■資産差し押さえも急増

社会保険料の滞納を巡っては、資産の差し押さえを受ける企業も全国で急増している。日本年金機構によると、厚生年金保険料などの強制徴収は令和5年度、上半期(4〜9月)だけで2万6千社を超え、未集計の下半期を含めれば前年度(2万7784社)を大幅に上回る見通しだ。

年金機構などによると、差し押さえによる強制徴収を受けた事業所は、平成22年度に1万3707社だったが、その後は年々増加。令和元年度には3万3142社に達した。ただ、コロナ禍に伴う社会保険料の納付猶予措置の影響もあり、2年度は3357社、3年度は6781社と縮小。コロナ禍が落ち着き徴収が本格化した4年度には一気に2万7千社を超え、5年度はさらなる増加が見込まれる。

差し押さえが「最後通牒(つうちょう)」となって倒産に追い込まれる企業も出ており、「差し押さえの増加が倒産の拡大を招くのでは」(企業関係者)などと懸念する声も上がる。これに対し、日本年金機構広報室は「事業の継続に支障があるような資産の差し押さえは、できるだけ避けるようにしている」としている。