降版時間だ!原稿を早goo!

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「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★「北海タイムス物語」を読む ㊲

2016年01月22日 | 新聞

( 1月20日付の続きです。写真は本文と関係ありません )

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人がいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目した——の第37回。

*増田俊也(ますだ・としなり)さん
1965年=愛知県生まれ。
1989年=北大中退後、北海タイムス入社。
1992年=中日新聞に転社、中日スポーツ記者。
2006年=『シャトゥーン・ヒグマの森』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞受賞。
2012年=『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったか』(新潮文庫)で大宅壮一賞、新潮ドキュメント賞をダブル受賞。
ほかに、自伝的青春小説『七帝柔道記』(角川書店)など。
*北海タイムス(ほっかいタイムス)
1901年=北海タイムス創刊。
1942年=戦時統合で北海道新聞に統合。
1946年=道新僚紙として「夕刊北海タイムス」再刊。
1949年=「北海タイムス」に改題。
1962年=東京の日刊スポーツ新聞社と提携、日刊スポーツ北海道版を発行。
1998年=9月1日自己破産、2日廃刊。


( 小説新潮2015年11月号 296~297ページから )
一階にある道警記者クラブは、部屋自体が中央署のそれよりかなり広く、他社の記者もたくさんいてざわついている。
佐藤キャップが暖簾を分けて僕たちをブース内に入れてくれた。原稿を書いている記者が一人いて僕たちに黙礼した。
佐藤キャップが紹介した。
「時事通信の吉岡さんだ。うちの部屋は時事と一緒になってる❶から夕刊終わったらきちんと挨拶しとけ。
うちも時事も、若いやつはいまみんな所轄廻ってる❷からいないけど、さっきの中央署にはうちは一人詰めてる❷だけで、サツはここが中心になる。
俺、まだいまから若いやつらから電話入るし、本社の直しもある❸んで夕刊が降りるまで電話の前で待機してなきゃいけないから、そのあたり見てまわっててくれ」
僕らは言われるまま、また共用スペースの空いているソファに座った。

( 中略 )
同期たちはみな顔を火照らせていた。
他社も含め、忙しく働く先輩記者たちの所作は華やかで魅力にあふれていた。明らかに他社の新人だとわかる男女数人組があちこちにいて、それぞれ先輩記者について施設の説明を受けたり、与えられた作業にあたっていた。
研修は興奮の連続だった。七人を二班に分け、道警本部や道庁、札幌市役所などを数日ずつまわり、あるいは会社のハイヤーで道警クラブの先輩について所轄署を廻ったりした。

( 中略 )
しかし、研修三日目にして松田さんに大変なことが起きた。


❶時事と一緒になってる
あれ?と思ったところ。
同じブース内にいるので、僕たちなら
「時事さんと一緒になってる」
と言うのだけど。
新人くんたちの今後のためにも、軽い敬称ぐらいはつけたいな、と。

❷所轄廻ってる/詰めてる
作者・増田さんは、地の文と、会話体の文をきちんと分けて書いているようだ。
▽地の文=原稿を書いている
▽会話の文=詰めてる(→地の文なら「詰めている」)
以前、大野晋さんの文庫を読んでいたら、
「会話の場合、母音が連続するとき、あとの母音は消滅しやすい」
kaite Iru→kaite Ru
tsumete Iru→tsumete Ru
mawatte Iru→mawatte Ru
増田さん、意外と几帳面だな、と(←失礼だな)。

「廻ってる」。
おなじみ新聞用字用語集「記者ハンドブック」では、
まわる(● 周る、△廻る)→回る
統一しましょうね——とあるけど、著作物なのでかまいません(←今度はエラそうだな)。

❸本社の直しもある
出稿・送稿後、本社のデスクからデータ確認や
「こう直したけど、どうだぁ?」
ということがあるので、夕刊降版まで待機しなきゃいけない、の意味。
docomoが誕生したのは1992年だから、小説の当時(1990年)は、まだ携帯電話がなかったのだ。

———というわけで、続く。