降版時間だ!原稿を早goo!

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「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★「北海タイムス物語」を読む ㉟

2016年01月19日 | 新聞

( 1月17日付の続きです。写真は本文と関係ありません )

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人がいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目した——の第35回。

*増田俊也(ますだ・としなり)さん
1965年=愛知県生まれ。
1989年=北大中退後、北海タイムス入社。
1992年=中日新聞に転社、中日スポーツ記者。
2006年=『シャトゥーン・ヒグマの森』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞受賞。
2012年=『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったか』(新潮文庫)で大宅壮一賞、新潮ドキュメント賞をダブル受賞。
ほかに、自伝的青春小説『七帝柔道記』(角川書店)など。
*北海タイムス(ほっかいタイムス)
1901年=北海タイムス創刊。
1942年=戦時統合で北海道新聞に統合。
1946年=道新僚紙として「夕刊北海タイムス」再刊。
1949年=「北海タイムス」に改題。
1962年=東京の日刊スポーツ新聞社と提携、日刊スポーツ北海道版を発行。
1998年=9月1日自己破産、2日廃刊。


( 小説新潮2015年11月号 293~296ページから )
「ようし、行ってこい。遅れちまうぞ。佐藤次郎❶には十一時に着くって電話してある。いいか。土地勘つけなきゃいけないから自動車部の車はしばらく封印だ。今日は地下鉄も使うな。まずは歩いて行ってこい」
「はい」
みな機敏に立ちあがった。そして競うようにエレベーターへ急いだ。研修のあいだの仕事ぶりは間違いなくすべて点数化されるはずだ。僕も高揚しながらしかし、胃のあたりに違和感を覚えた。競争、競争か❷——。

( 中略 )
札幌中央署に着いた。
歴史の古い大学のように玄関まわりは石造りで、そのほかの外壁は煉瓦風のタイル張り❸だった。おそらく戦前に建てられたものだろう、いまではなかなか見られない重厚なものだ。
受付で、萬田さんに言われたとおりみんなで手続きを済ませ、場所を聞いて階段を上がった。
記者クラブの中は高さ二メートルほどの衝立❹で仕切られ、各社のブースに細かく分けられていた。
ブースの入り口に〈 NHK 〉〈 北海道新聞 〉〈 朝日新聞 〉などと社名の札がそれぞれ掛けられているが、暖簾❹が下がっているので中は見えなかった。
あちこちのブースから煙草の煙が大量に上がり、壁と天井は黄色く変色している。
「おう。待ってたぞ」
佐藤次郎キャップが気づいて顔を上げた。



❶佐藤次郎
小説内では札幌中央署キャップに設定されているが、小説の作者・増田さんがいらっしゃった中日新聞(東京新聞)にも同姓同名のかたがいる……たぶん偶然。
佐藤キャップは、個性派ぞろいの北海タイムス記者の中でも良識派として描かれている。

❷違和感を覚えた。競争、競争か
小説の主人公・野々村巡洋くん(23)はでしゃばったり、人と争ったり、競ったりすることが嫌いな、非体育会&典型的文学部&草食系キャラに設定されている。
新聞社の新人研修中、
▽オシが強い男→取材
▽オシが弱い人→内勤
に振られることがなきにしもあらずなのだけど、野々村くんはさぁーて……。

❸煉瓦風のタイル張り
「煉瓦」——画数の多い漢字を見ると、新聞社の校閲マンは反応するんですよ、たいがい新聞では使えない字だから、と聞いた。
毎度おなじみ新聞用字用語集「記者ハンドブック」では、
れんが(△煉瓦)→れんが
「△」印は漢字表にない字なので、ひらがな表記にしましょうね、とある。
でも、著作物なのでかまいませんよ(←エラそうだな)。
さらに、
張る[ 一般用語。取り付ける、広がる ]氷が張る、タイル張りの壁、テントを張る……
貼る[ 限定用語。のりなどで付ける、付着 ]切手を貼る、貼り薬……
と明確に分けている。
どっこい「注」として、
「迷う場合は『張』を使う。」
とあるけど、ひらがなに開くのもアリだと思います。

❹衝立、暖簾
再び、毎度おなじみ「記者ハンドブック」では、
ついたて( ● 衝立 )→ついたて
「●」印は漢字表にない音訓。
のれん( ● 暖 △簾 )→のれん
「△」は漢字表にない字。
ひらがな表記が望ましいですねぇコホン、とハンドブックは言っている。
(整理部からすると、文字数が増えると
「1行増えちゃうかも……」
けっこう面倒くさいのだ)

———というわけで、続く。