降版時間だ!原稿を早goo!

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「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★「北海タイムス物語」を読む ㉞

2016年01月17日 | 新聞

( 1月15日付の続きです。写真は、本文と直接関係ありません )

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人がいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目した——の第34回。

( 小説新潮2015年11月号 293ページから )
猪之村さん❶がエプロンをつけながら暗室へ戻っていく。高橋さん❶も真っ赤な顔で暗室に向かいながら、何度も振り返って萬田ささん❶を睨みつけた❷。
暗室に入った直後、中でガンッと大きな音がして
「萬田の野郎、調子に乗りやがって!」
と声が聞こえた。
萬田さんは肩をすくめ、何ごともなかったように机の上にあったプラスチックの束を手にして
「ようし。新人集まれ!」
と声を上げた。
「仮の記者証配るぞ。これないと取材できないし記者クラブの中にも入れないぞ」
みんな急いで立ち上がって机の横に集まっていく。
萬田さんが名前を読み上げては一人ずつ配っていった。
クレジットカード大のプラスチックケースに入った紙には大きく《 記者証 》《 研修中 》と印刷され、個々の名前が書いてある。
一番下に会社名と住所、編集局の代表電話があり、朱肉で大きな社印が押してある。
道警関係には周知してあるのでこれを持っていけばどこでも取材に入れると萬田さんが言った。初めてもらった記者証をみんなで互いに見せ合った。
萬田さんが腕時計に眼を落とした。
「ようし、行ってこい。遅れちまうぞ。佐藤次郎❸には十一時に着くって電話してある。いいか。土地勘つけなきゃいけないから自動車部❹の車はしばらく封印だ。今日は地下鉄も使うな。まずは歩いて行ってこい」
「はい」
みな機敏に立ちあがった。



❶猪之村さん、高橋さん、萬田さん
登場人物をまとめると——
▽猪之村=猪之村悟(いのむら・さとる)。北海タイムス平成2年度新入社員、24歳。
同期の松田駿太(柔道部)とともに北大中退。ラグビー部出身、巨体の体育会系キャラ。
前歯が2本なく髭面で、ヒヒヒッと笑うと「山賊のよう」(小説主人公・野々村くん印象)。
▽高橋(たかはし)=30代、写真部デスク。
沸点が低く、萬田編集局次長を敵視している。
▽萬田=萬田恭介(まんだ・きょうすけ)45歳。編集局次長兼任整理部長。
髪は七三に分け、黄色いレンズのレイバンをかけた「気障男」(同・野々村くん印象)。

❷睨みつけた
毎度おなじみ新聞用字用語集「記者ハンドブック」では、
にらむ(睨△む)→にらむ
にらみ合い、にらみが利く、にらみ付ける、にらめっこ

「△」は漢字表にない字なのでひらがな表記にしましょうね——とあるけど、著作物なのでかまいませんよ(←エラそうだぞ)。

❸佐藤次郎
同姓同名のかたが、小説の作者・増田さん出身の中日新聞(東京新聞)にいらっしゃるけど、たぶんムニャムニャ。

❹自動車部
新聞社で使うハイヤー、タクシーなどを配車する部。「配車課」とも。
小説の当時(1990年)なら自社部署ではなく、多くの新聞社はそろそろ外部委託に切り替えはじめていた時期ではないだろうか。

———というわけで、続く。