降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★「北海タイムス物語」を読む ㉛

2016年01月13日 | 新聞

( 1月10日付の続きです )

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人デスクがいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目した——の第31回。

*増田俊也(ますだ・としなり)さん
1965年=愛知県生まれ。
1989年=北大中退後、北海タイムス入社。
1992年=中日新聞に転社、中日スポーツ記者。
2006年=『シャトゥーン・ヒグマの森』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞受賞。
2012年=『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったか』(新潮文庫)で大宅壮一賞、新潮ドキュメント賞をダブル受賞。
ほかに、自伝的青春小説『七帝柔道記』(角川書店)など。
*北海タイムス(ほっかいタイムス)
1901年=北海タイムス創刊。
1942年=戦時統合で北海道新聞に統合。
1946年=道新僚紙として「夕刊北海タイムス」再刊。
1949年=「北海タイムス」に改題。
1962年=東京の日刊スポーツ新聞社と提携、日刊スポーツ北海道版を発行。
1998年=9月1日自己破産、2日廃刊。


( 小説新潮2015年11月号 292ページから )
河邑太郎が内ポケットから煙草を出しながら溜息をついた。
「なんか寂しい光景だな。地方紙ってこんなもの❶なのか。昨日の金玉コースも安上がりの歓迎会❷だったし」
「おまえは声がでかいんだよ。いい加減にしろ」
武藤達次が小声で強く制した。
「記者たちは取材に出てるんだろ。整理部もこの時間は夕刊を編集する人間だけで、きっと夕方になったら朝刊やる人たちがいっぱい出てくる❸んだよ」
たしかにすべての席が埋まっているのは文化部のプレートが下がっている島のみだった。
経済部、運動部などの島は昨日来ていた部長たちが座っているだけで、平社員は一人もいない。
社会部長の前だけは四十代前半くらいの人がせわしく作業している。おそらく夕刊デスクの人❹なのだろう。
アルバイトらしき女の子もひとりいて、なにやら書類仕事をしていた。
あちこちの壁に〈 団結 〉〈 北海タイムス労組 〉〈 満額回答死守 〉などと書かれた赤いビラが貼ってあるのがやけに目立つ。


❶地方紙ってこんなもの
こんなもんです。
新入社員・河邑くんはテレビドラマで観たような(京都日報とか、笑)記者らが慌ただしくしているシーンを想像していたのだろうけど、
午前9時ごろの「フハァ~、さぁーてやるなかぁ~」な夕刊編集前だから、寂しい光景と感じるだろう。

❷金玉コースも安上がりの歓迎会
「金」は、北海タイムス新入社員歓迎会が行われた居酒屋・金不二、「玉」は、その隣の玉乃屋。たしかに、歓迎会が居酒屋→居酒屋だから安上がりかも。
小説内では、
「金不二で呑んで二次会で玉乃屋に行くのはタイムスのいつもの流れ。このあたりの通り、タイムスの人間は狸小路じゃなくて金玉小路って呼んでいるのよ」
(北海タイムス総務部・辻さくら)
とあった。

❸整理部もこの時間は……朝刊やる人たちがいっぱい出てくる
河邑太郎くんは、ズバズバ言い切る、嫌われキャラ。
武藤達次くんは、冷静な優等生的キャラ——に設定されているようだ。
ということは、さておき。
午前9時過ぎだから(当時の北海タイムス降版スケジュールは不明だけど)次第に出社してくる時間。
1990年のバブル期末期とはいえ、夕刊の建てページは10ページぐらいはあったのでは。
中面は組んであるので、ニュース面担(面担・めんたん=紙面担当編集者)5~6人にデスク2人ぐらいだったのではないだろうか(黄色いレイバンをかけた萬田整理部長は編集局次長兼任なので、すでに出社しているはず)。
午後になれば、整理部・校閲部の朝刊担当者らが続々出てくる。
*中面は組んである=整理部が「降版OK」を出したフューチャー面。

❹四十代前半……夕刊デスクの人
恐らく共同通信端末から吐き出される感熱紙モニターを集めているのだろう。
出稿メニュー、早くつくらないとね!
小説の記述にはないが、編集局内には
「ピーポー、ピーポー、共同通信から差し替えと……」
共同ピーポが流れているはず。

———というわけで、続く。