降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★復刻版・朝日新聞を讀んだのだ❺

2014年09月06日 | 新聞

つい最近(1990年代前半)まで、鉛活字と凸版、インクを使って組んでいた新聞の活版組み版。
僕たち新聞社整理部から見た、活字組み版からCTS(コンピューター組み版・編集)までを後世に書き遺しておこうかな、と。



【9月3日付の続きです】
「激動の昭和史を読む/太平洋戦争の記憶」(創刊特別価格 190円。アシェット・コレクションズ・ジャパン発行)
の毎号コレクションズに付いていた復刻版新聞を、
当時の政治情勢や時勢、記事内容・紙面構成については考慮せず、
ただ単に
「昭和初期の、鉛活字・活版組み版新聞はどういう組み方・紙面構成だったんだろう?」
として眺めた。

❷ 72年前の朝日新聞(1941年12月9日付)編=その五
紙面左カタの、マル切り込み写真には驚いた。
CTSなら簡単だけど、当時は金属=鉛版で、ニュース面でやるとは……(*)

なぜ、大変なのか。
僕は、この切り込みはやったことがない(←すげぇ面倒だから、笑)。
活版時代、整理部先輩が降版間際に糸ノコ出してドタバタ&アタフタしていたのを見て、
「こりゃ、労多くして何とやらだよねぇ」
と痛感した。

以下、当時の作業を推測すると……
①整理部の紙面担当者(=面担)、マル写真にする印画紙プリントを製版部に出稿。
この場合、現在ならマル部分にすべきところをコピー紙に指定するけど、当時はコピーがなかったから、印画紙に薄い紙をかぶせて
「この部分!」
と赤鉛筆で囲んで指定したはず。

②製版部は
「ゲッ、この忙しいのにマル写真かよ」
と言いながらも作業開始。
「降版時間に間に合わないかも知れない旨、一応、整理部に言っとこうか。そうしよう」

③製版部では、通常工程で
写真上(以下、A写真)
写真下(同、C写真)
を腐食開始。

④約30分後、マル写真(同B)の腐食が終わり、できあがった金属板を製作局に回す。

ここから、整理部面担が大変なのだ。
⑤マルBの円に合わせ、まずAに切り込みを入れるため、Aに鉛筆で切り抜くラインを書く。
そして、糸状の歯がついたノコギリをギーコギーコギーコギーコ回す。
当時の鉛板は厚さ1ミリほどあったのではないかしらん、用心しないと手を切ってしまうこともあったはず。

⑥さらに、マルBの円に合わせて、Cにも同様切り込み作業。
(恐らく、このときの製作局風景は………
汗&インクだらけで糸ノコを回す整理部面担、
その作業を近くで固唾をのんでのぞき込む製作局工員と製版部員たち、
だったと思う)

⑦マルBのサイズが、AとCに合うようにヤスリでザラザラ調整する整理部面担。
「あぁ、こんなことやらなきゃ良かった……」
と頭の中で少し後悔中。

⑧AとCの切り込みがマルBに合致し、
「ひゃあ、良かった良かった良かった」
と胸をなでおろす整理部面担。
「おおっ、やったなぁ、お見事」
もしかしたら、この時、製作局で小さな拍手が起きたかもしれない(笑)。

⑨A、B、C鉛板の裏にロウ状の接着剤をつけて、各凸台に貼り付けて完成。

………というぐらい手間がかかったのだ(と思う)。
活版での写真切り込みは、とんでもなく手間がかかったのだった。


(*)ニュース面でやるとは
追い込み面(前もって組んでおく面)では、切り込み・組み込みなど、時間が比較的あるため、わりと凝ったこともできるのだが、
降版時間が厳しく設定されているニュース面では凝った組み方は避けるべき。
ただ、この紙面は作りおきで時間があったのかもしれない。