マンチェスター・アート・ギャラリー Manchester Art Gallery に久しぶりに行きました。
今回の記事は美術館へのお誘いでも鑑賞の手引きでもストックポート日報こだわりの建築物の見どころ紹介...などではなく、「なんだかなぁ?」と思わせられた斬新な展示方法についてです。
貴重なルネッサンス以前の聖画が3点 簡素に展示されていました。
稚拙な手法で描かれた細かい描写と金ぴか背景が特徴の、中世の聖画は私の好きな分野のひとつです。
写真右側の壁に金ぴか聖画が3枚展示されています。
左側の壁に、肖像画を一面黒く塗りつぶしたような凹凸のある真っ黒の板が物々しくかけられています。
その左の戸口を通って小さな展示室に入ると、ルネッサンス彫刻の部分を描いたらしいパステル調絵画がばらばらと壁のスペースを大きく開けて展示されていました。
奥に立って戸口を見返すと向こうの壁に金ぴかキリスト磔刑の聖画が見えています。
なんとなーくぼんやりと理解しました。
金ぴか聖画と現代アートのコラボ展示のつもりらしいのです。(ですよね?)
中世の名もない画僧が残した金ぴか聖画は現代アートを盛り上げるための小道具、というか「前座」に使われたのでしょうか。
(で、あの黒い絵はなんだったのか!?)
以下、私の推測と感想で書き進めます。
アートの解釈がアーティストやこの記事を読んだ方と違っていたらごめんなさい。
オランダ17世紀の絵画(オランダ派)を集めた楽しい展示室があります。
緻密な静物画とともに、有名なフェルメールも好んで描いた、透視図がキマった室内で繰り広げられる市民の生活の一コマをのぞき見しているようなテーマの小品がたくさん展示されています。
知られていない作家の作品ばかりで技法はフェルメールに比べるとかなりショボいのですが...
ついでですが、オランダ語(らしい)「フェルメール」はイギリスでは絶対通じません! Vermeer は英語ではヴァーミエーㇽと読みます。
オランダ派の展示室にわざわざ「窓の外からのぞき見視点」の現代絵画を展示する意図が(関連性は理解できるのですが)まったくわかりません。
第一、この「のぞき見/デバガメ」アートに、世界的に有名なマンチェスター・アートギャラリーに展示するだけの価値があるのでしょうか。
(ごめんなさい、あるんでしょうね)
本館の鑑賞コースの出発点となる、入り口ホール上の回廊の展示です。
イギリス19世紀の 華やかな社交シーンや牧歌的な田舎の生活描写、物語の一場面や美しい女性の肖像など女性の肖像を主に描いたイギリスらしい、心和む油絵小品がぐるっと壁を飾ります。
展示室に通じる戸口脇の2点の現代アート。
肌を強烈な色に塗りたくった女性の、カラー写真(大判額、反射して見えにくいですね)と映像作品です。
これもまた、雰囲気ぶち壊しの好例でした。
小さな展示室の壁にかかった作品の前にはソファーや肘掛け椅子が配置してありました。
床の片隅にはデニムのビーンバックも積み重ねられていました。
座ってくつろいで鑑賞してほしいという、アートを身近に感じて親しみを持ってほしいという企画でしょうか。
あいているソファーと肘掛椅子がなかったので、席があくまで美術鑑賞できませんっ!
座っている人の前に立つわけにはいきませんから。
...とは言え、上の写真に写っている、ソファーで寝込んだ若者(その寝姿を年配の男性がスケッチしていました)以外すべての人がゆったりと絵の前に座ってスマートフォンをながめていました。
古典的主題の、近代絵画(19世紀)の展示室です。
マンチェスター・アートギャラリーの得意分野です。
有名な大作、「セイレーンとユリシーズ」の横に美術鑑賞者へのいやがらせとしか思えない古いかけ布団カバーに スプレーペイントでHOMESiCK と書きなぐった現代アートがどどーんとかかっていました。
こちらもドラマチックな大作「ナポレオンのロシア遠征」の横に、バンクシー Banksy のストリート・アートを壁から切り取った小品の展示....
私は、イギリス各地の外壁に気のきいた白黒ステンシル作品を誰にも見られないうちに素早く残す神出鬼没、正体不明のストリート・アーティスト、バンクシーが大好きです。
でも、なぜ19世紀の古典絵画の部屋に展示する?
HOMESiCK ほど不快ではないものの、私の理解をすっかり超えています。
これは、学芸員「楽屋オチ」のつもりでしょうか。
展示室に、立体作品の保管室を再現したディスプレイがありました。
半分梱包を解いた収蔵品、木箱に入ってどこかへ搬送する過程の美術品なども無造作に置いてありました。
あ~、これもインスタレーション・アートか何かなのでしょうか。
他の収蔵品とともに棚におさまっている様子が再現(?)されていた子ブタの石像。好きっ
作家のクレジットも掲げ、ちゃんと展示して見せてくれたらいいのに!
意味不明の極みは、マンチェスター・アートギャラリーの最大の呼び物、19世紀半ばの革新的芸術運動、ラファエロ前派の世界に誇るコレクションの展示室の...
映像アート。
座ってじっくり鑑賞している人がいました。
じっくり見もしないで「意味不明!」と決めつけてはいけないのはわかっています。
現代映像/パフォーマンス・アートそのものをけなすつもりは ありません。
ただ、ラファエロ前派の絵画を鑑賞しに来た人々にこれを一緒に見せるいわれが全く理解できない!ということなのです。
テーマごとに集めた作品をじっくり見せるという伝統的な展示方法では鑑賞者に飽きられる!あるいは「リピーター」を呼べない!「古典技法」のアートと現代アートをどうしても融合させなければダメだ!という危機感でもあるのでしょうか。
単に「気分を変えてこんなのもいかがですか?」と古典技法アートの愛好者に気楽に現代アートもおススメしているつもりなのでしょうか。
斬新な展示方法は逆効果だと思うのですが。
私は現代アートと美術史に残る名作古典技法アートは別々にじっくり鑑賞したいと思っているものですから。
疑問の残る美術鑑賞でした。
さて、ストックポート日報にはマンチェスター・アート・ギャラリーについて書いた過去の記事が実に12本もあるのでした。
建物や、展示、活動内容について書かれたものを選んでリンクを下に貼りました。
マンチェスター・アートギャラリー
昨日にひき続き、マンチェスターの美術館、マンチェスタ一・アートギャラリー
マンチェスター自慢の美術館、マンチェスター・アートギャラリー再び 今度は外観!
マンチェスター・アートギャラリー内観再び、今度は本館、昔ながらのインテリア
マンチェスターアートギャラリーの所蔵品、ラファエロ前派とその後継者 、他
マンチェスターアートギャラリーの第一次世界大戦100周年記念、スノードロッププロジェクト
マンチェスターアートギャラリーの、入館者の参加を呼びかけるちょっと変わった展示法
何かすごいチャレンジングな企画なんでしょうが、
たしかに…見にくいですねぇ…
そんな中、子ブタの石像、
いいですね〜
常設展なんですよ。
homesickは覚えていませんが、バンクシーのステンシル壁画は3年前からあの部屋にありました。
ヘンテコビデオは今回初めてラファエロ前派の部屋に導入されてるのを見た。
企画じゃなくて永久展示らしい?のが不安。