興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

リーダーシップ理論

2011-11-11 | プチI/O心理学
 数年前にこのブログを立ち上げたときに、その思いつきで、書く気もないのにいろいろなカテゴリーを作って、それらの多くは結局今日まで放置されているわけで、そのカテゴリーのひとつにこの『プチI/O心理学』というものがあり、唐突ですが今日はその第一弾です。このブログはもともと心理学一般を幅広く扱うつもりで作ったのですが、気付いたら精神分析と臨床心理学に思いっきり偏っています。それどころか最近は『たわ言』のカテゴリーばかり伸びている有り様です。そういうわけで、少し原点に戻ってみようと思い至り、唐突に、大して知りもしないI/O心理学について語ろうとする有り様ですが、お時間のある方、せっかくですのでお付き合いください。

 さて、I/O心理学とは何かと言えば、Industrial/Organizational Psychologyのことで、英語では実際I/O psychology(アイオーサイコロジー)と発音されますが、これは日本ではしばしば「産業心理学」と呼ばれるものです。I/O心理学は大きく分けて、1)Personnel psychology(人事心理学), 2)Organizational Psychology(組織心理学), 3)Engineering psychology(人間工学、Ergonomics)の3つの分野に分かれます。ここまで書いて早くも面倒臭くなってきたので、これらの説明は次回に回して、今回は、2)組織心理学、の分野、リーダーシップについてそのいくつかの基本理論を紹介してみたいと思います。

 まずは、『Theory X vs. Theory Y Leaders』(理論X 対 理論Y リーダー)というリーダーシップ理論について触れてみたいと思います。これはMcGregorという心理学者によって提唱されたもので、1960年のものですが、現在でも大きな影響力をもつ理論です。

 McGregorによると、組織(会社など)のリーダーは、その仕事と労働者に対する基本的な信念の種類によって分類されます。まず、「理論X」のリーダー(上司など)の信念は、「仕事とは根本的に不快なもので、ほとんどの労働者は野心に欠いていて、つまり指示されないと動かない。彼らは賃金や報酬などの基本的なものによって動いているのだ」と言ったもので、ある意味、科学的、合理的なアプローチでもあります。

 一方、「理論Y」のリーダーの信念は、人間関係的なアプローチで、「きちんとした労働条件において、仕事とは遊びと同じように、人間にとって自然なもので、多くの労働者は、自主的で、責任感があり、野心を持っている。そして、労働者は自由と自主性を必要としている」というものです。

 これらはどこか、「もしあなたが億万長者で生涯贅沢に暮らせる財産があったらどうする?それでも働く?」といういつかの質問に似ているように思えます。世の中には、それでも働く、働くことが好きだから、という人間と、いや、そんなお金があったら働かないよ、という2種類の人間がこの世の中には存在する、という巷の心理学ですが、これは実際大きな真実を含んでいると思います。別にどちらの人間が優れている、という問題でもなく、その人の人生や世界に対する姿勢、価値観の問題だと思います。ところでその人の人生観、世界観、というのは当然その人の生い立ちやそれまでの人生経験、さらには現在の状況にもよるもので、実際、理論Xと理論Yは、その仕事の内容によるところもあるように思います。実際に高い内なるモチベーションを持った部下は理論Xの上司の下では力を発揮できなかったり慢性的な不満を経験してよくありませんが、実際に意欲なしなしの部下に囲まれた上司が理論Yを掲げていても、それはあまりうまく機能しないでしょう。

 しかし、そういう仕事内容や労働環境などのばらつきを度外視したところでも、この理論のもつ意味は大きいと思います。部下を信じる気持ち、ポジティブな人間観、世界観を持って、人間関係を大切にする上司と、ハナから部下を「金と指示がないと動かない」と決めつけて、部下の内在的な良い性質を見ようとしない、信じない上司がいたら、同じようなモラルと意欲を持った部下がどちらの上司の元でその組織にその人のベストを以って貢献できるか、といえば、その答えは言わずもがななものだと思います。実際McGregorは、理論Yのアプローチのほうが、高機能な組織へと結びつくと結論付けています。あなたの上司は、どちらのアプローチに近いですか?また、あなた自身の信念は、どちらのアプローチに近いですか?

 さて、冒頭で「いくつかの基本理論を紹介したい」と書きましたが、疲れてきたので今回はこの辺にします。次回にご期待ください。もしかしたら続けるかもしれません。

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2 コメント

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ぶるぶる、、 (Nancy)
2011-12-10 03:54:12
有り余る財産があっても働くか否か、、、
いづれにせよ、人はなんらかの社会とのつながりを持ち続けたいと思っているものですよね。

会社員生活日米合わせてウン十年。
いろんな上司の下で働いてきて、そりゃいろんな人がいらっしゃいましたが、
言葉や態度とは関係なくその人の存在自体が部下にエネルギーを与えるタイプの人と、
逆に部下のエネルギーを吸い取っていくタイプの人がいるような気がします。

よだかさん、ブログ内容とは関係なくて恐縮です。
このところのLAは寒いとお思いになりませんか。
寒すぎて思考が回りません(笑)
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Unknown (よだか)
2011-12-18 15:07:10
NANCYさん、

お久しぶりです。まったくですね、最近のLAは異様に寒いですよね・・・ある人が、「毎年冬になると、『今年のLAの寒さはおかしい』ってみんな言ってるけど、そうやってみんな毎年言ってるだけで、実は変わってないわよ」、と言っていましたが、彼女はNew York出身で、彼女自身不思議な体感気温の持ち主であまりあてになりません、実際、近年異様な寒さだと思います。Lancasterなど夜は氷点下です、ありえません。

部下にエネルギーを与える上司と、部下からエネルギーを吸い取る上司、非常に興味深い分類法ですね。これって、「上司」、「部下」を、たとえば「教師、生徒」、「先輩、後輩」、などに変えてもいえることですよね。さらには、「親と子」においても。。。よく家族療法、Family therapyにおいて、Parentified childという言葉が使われ、これは、本来子供の面倒をみるべき親が、何らかの理由でその役割を持てずに、その代わりに子供に自分の精神的な面倒を見てもらってしまっている、という家庭における、「親化された子供」のことをいいますが、このようにみると、子にたっぷりと精神的なエネルギーを与える親と、子を無意識的に、或いは意識的に利用してエネルギーを吸い取る親がいるといえます。話がやや逸れましたが、つまるところ、これは、与える側、指導や導きを与える側に自己愛の問題があると、それがうまくいかずに、役割が逆転してしまったり混乱してしまったりする現実を物語っているように思いました。
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