興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

未来記憶 (Future Memory)

2006-09-09 | プチ健康心理学
 我々の、自己同一性(アイデンティティ、Identity)、つまり、自分が誰であるか、 自分とは何かなど、「自分と言う存在における自分なりの 概念」には、「記憶」という要素が重要な役割をもって いる。 


記憶とは、通常、「過去に起こったもの」という 前提があるけれど、記憶という感覚を、「自分の人生で 起こるあらゆる事象においての具現化と連続性」と捉える時、これから我々が体験するであろうこと、そうなって 欲しいこと、また、そうなると予測されるものとして、「未来の記憶」という概念が、重要性を帯びてくる。

未来記憶とは、通常、我々が、「今現在より先の ある時点(明日かもしれないし、大晦日かも知れないし、 来年の今日かもしれない)で、何らかの行動に出たり、 予定を実行することを『覚えている』という記憶」を指すのだけれど(なんだか分かりにくい説明だ。 書いている自分もよく分からない)、基本的に、我々人間は、明日も明後日も、一週間後も一年後も「自分が生きていること」を前提として、今を生きている。

今日の行動のすべてがそうではないだろうけれど、 そのうちのいくつかの行動は、自分の近未来のために行ったことだったりする。誰でも、「来年の今頃自分は」という、自己イメージは、多かれ少なかれあると 思う。ここで大事なのは、この「未来のイメージ」は、現在の自分自身の自己同一性と密接に結びついていて、現在と未来は「連続」している。

ところが、癌や、自然災害や、性犯罪や、事故など、自分にとって、あまりにも脅威で衝撃的なことを経験したとき、人は時に、「未来における自己イメージ」を失い、そこには「不連続性」が生じてくる。
連続性の断絶と言ったほうがいいかもしれない。

これは、言うまでもなく、自分とは何かと言う、 Identityにおける脅威であり、未来が分らないゆえの、絶望感に見舞われたりする。

癌の生存者においてもこれが言える訳で、死の恐怖を長期に渡って体験したり、手術による身体部位の切断によって、以前とは違う形の身体となり、それは、今までの、
自分のボディ・イメージがある日突然、永久に変わってしまうわけで、そこには明らかな自己同一性の断絶があり、未来像も大きく変わってしまう。

「今年のクリスマスは何をしようか」

このような、普段我々が、全く当然のことのように考えて、計画している未来は、今の精神・身体機能を持った自分がその時点でも変わらずにいることが、実は大前提になっている。

未来の記憶について考えるとき、今自分が当たり前だと思っていたことが、掛け替えのないものなのだと思いがけず気付かされたりして、それはなんだか未来からの警告のような気がする、今日この頃だ。


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この記事は、2005年の12月上旬に書かれたものです。
当時私は癌の生存者の心理について研究していて、その時に
未来記憶について学びのときを持ちました。


Future Memoryは、 Prospective Momory(展望記憶)
とも呼ばれます。



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5 コメント

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未来記憶は今は昔の過去のもの? (シオピー)
2006-09-11 14:29:45
 全く違う話なのかも知れないですが、未来記憶というものを、自分の個としてのアイデンティティに於ける連続性のみならず、自分の周りの生活関係に於ける信頼関係の連続性という見方でみるとすると、例えば難しいベンチャー事業に取り組み、多大な経済的支出を前に、様々に協力支援してくれた人たちも、長年の鬱積と不安から、当初の暖かい信頼は失せ、人間の欲得や不信感の増長を招く事態に、人間そのものから、それまでとは異質な防衛機能、つまり、純粋さを捨て、世故に長けた術策でもって、それまでの周りの人たちとの付き合いと質的に異なる不連続な虚飾にまみれた関係を形成しなおす自分がいる。長年の労苦に耐え、社会との軋轢を回避する、ちょっとした、経験的な知恵のようなものを持ってしまい、結局は以前なら素直に信じたものも、人の根を疑い、表面的な装いだけの陳腐で皮相な見方しかできなくなりつつある自分への落胆と嫌悪が渦巻く日々です。



 人間は弱いからこそ、それを防御する為新たな自分を生み出し、未来の記憶も変えてしまうものなんでしょうかね。
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Unknown (よだか)
2006-09-12 18:25:20
シオピーさん、



有意義なコメント、ありがとうございます。

とても関連性の深いお話だと思います。我々の

Identityは-とりわけ集団主義的な

文化的特色の強い日本人においては-周りの人間との

関係性が密接に関係しているもので、未来記憶に

おいても、その、現在の(信頼)関係が前提に

ある上で形成されますね。



ところが、様々な状況から、当初は信頼していた

人たちが信頼できない人たちに変わってしまった。

こういう状況下で、人は「裏切り」を体験する

ものだけれど、その体験は時にあまりにも

ショックで、Traumaticであり、そこに

一種のIdentityの不連続性が生じる

可能性が考えられます。



そこで、今まで存在していた未来記憶には

大幅な修正が要求されるわけだけれど、そうした

Damagingな人間関係の傷を消化して

新たな防衛機能を身につける過程で、その人の

Identityは更新され、その結果未来記憶も

変わっていくのだと思います。



やはり、我々のIdentityと、記憶と

いうものは、未来記憶を含め、相互に影響し

合っているようですね。



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Unknown (シオピー)
2006-09-12 21:15:01
貴重なご意見を頂きありがとうございます。

色々困難も多く、しかし、やり遂げなければという自負心もあり、心を開放する術がない状態でした。

 然しながら、よだかさんのこのブログを拝見していると、人間の様々な側面に分析的に触れる事ができ、なぜか癒されます。

 きっと、ある種の人間の弱さというものを知り、自らの非力さの慰みになっているのかも知れません。

 

 今後もぜひ拝見させて頂きますので、いろいろ教えて下さい。
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Unknown (yodaka)
2006-09-13 15:41:10
シオピーさん、



嬉しいコメントをどうもありがとうございます。

これからも気軽にどんどん来てくださいね。

至らないものですが、今後ともよろしく

お願いします。
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Unknown (Pandora)
2015-11-28 12:31:51
私は、事故に依り脳損傷を負っており、drが仰せの未来記憶というものがありません。ですので、自分の行動には常に一貫性を伴っておりません。以前、前世療法を受けた時に見た 予知夢は大切な人のお墓の前で大泣きしている自身の姿です。実際に、私の人生に於いてはそうした事の繰り返しが多く、常に自罰的な感覚に囚われております。
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