興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

苦手意識の克服法

2013-10-08 | プチ認知行動心理学

 何かのきっかけで、あることに対して強い苦手意識や抵抗感ができてしまい、それが自分にとって大切であることは分かっているけれど、ついつい避けてしまっている、ということで困っている方はたくさんいます。こうした抵抗感は、何かひとつの大きなできごとによってできる場合もあれば、知らずのうちに徐々にできていく場合もあります。この抵抗感の厄介なところは、その恐怖の対象に接近すると、ほとんど自動的に強い不安がでてくるので、その不安感という不快な感情から開放される回避行動は無意識に繰り返され、強化され、やがてはその不安が意識される前にその回避行動が取られるようになり、それがとても自然なことになり、避けている本人がその回避行為に無自覚になってしまう、というところにあると思います。

 たとえば、ある人が、何らかの理由で恋人とのセックスがうまくいかず、気まずい思いをして、それ以来、セックスに苦手意識ができて、行為の可能性がでてくるごとに強い不安に襲われるようになり、その不安を軽減するいくつかの回避行為が生まれ、はじめはそれがふたりの間において良くないと認識しながら取っていたその回避行為が繰り返されるなかでとても自然なものになってしまい、いつしか、セックスの可能性が意識化される直前に回避行為がはじまり、回避が回避として認識されなくなってしまう、というようなことです。

 またある人は、車の免許を取ったのはいいものの、ひとりで運転してまもなく事故に遭ってしまい、そのときの恐怖から、運転に対して強い抵抗感ができて、運転しようとするたびに事故を起こすのではという強い不安感がでてきて、ずっと時間がかかり面倒であるものの、自転車+電車という別のオプションを繰り返すようになり、このオプションを使っている限りその不安は経験されないので、運転しなければと思いつつどんどん車の運転から遠ざかり、やがてはどうして自分が車に乗らず、自転車+電車を使っているのか忘れてしまう、というようなことでもあります。

 さて、こうした自動的な抵抗感、苦手意識はどのようにして取り除けるのでしょう。

 皮肉なことに、その一番効果的な克服法は、その苦手なことに繰り返し取り組んでいくことです。その苦手なことに、やがてなじみが出てきて、安心感がでてくるまで、繰り返す、ということです。これにはもちろん、段階を踏むことが必要で、たとえばセックスの例であれば、パートナーに自分の苦手意識を話して、まずは性交ではなくて前戯などをふたりで「楽しむ」ことを目標にして、繰り返し繰り返し、その前戯を楽しんでいくことです。そうしているうちに、性行為になじみがでてきて、安心感がでてきて、無意識の抵抗感は徐々に解消されていきます。

 車の運転に関しても、たとえば、最初は誰か親しい人に同乗してもらったりして、通勤、帰宅ラッシュなどを避けて、近所を運転することを繰り返します。これを繰り返し繰り返ししているうちに、運転に親しみがでてきて、自分の運転技術や交通に安心感がでてきて、運転に対する抵抗感が弱まっていきます。

 これはつまり、何かに対して抵抗感があり、しかしそのことを避けていることで人生に悪い影響があるのであれば、そこから目を背けずに、少しずつでいいので、接近していき、接近に際して起こる不安を自然なものだと受け入れて、不安を感じながら練習していくなかで、「そのことに従事しても何も悪いことは起こらない」と経験的に理解することで、無意識の不安にあまり根拠がなかったのだと気づいていく過程です。


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4 コメント

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Unknown (Nancy)
2013-10-11 05:13:34
ある物事に対して苦手というのはまだ救い様があると思うのですが、
人に対して「おっくう」だったり「面倒」だったりするのはどう改善できるのでしょうか。
人間、ひとりでは生きていけないことは重々承知していますし、粋がるほど若くないし、そんなにアウトローな人間でもありません。
半世紀も生きていればそれなりに処世術もつきてきましたが、根本的なところで何かがひっかかっているような気がするのです。
ま、人生なんて所詮そんなものでしょうか・笑
下手な考え休むに似たり・・
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Unknown (Yodaka)
2013-10-13 03:40:20
Nancyさん、

お久しぶりです。
仰せのように、実際、苦手意識、恐怖、など、はっきりした感情があるほうが、却って改善しやすいもので、これはカップルセラピーにも見られるもので、High Conflictのカップルよりも治療が難しいのは、Apathyが前面に出ているカップルです。Apathy, 億劫、面倒、という感情は、そこにSense of urgencyがないので、「治さなければ、なんとかしなくては!」というMotivationも出にくく、慢性的になりやすいです。

しかし、こうした慢性的な感覚は、それ以前には確かに経験していた不安、恐怖、居心地の悪さなど、対象に求めるものがあったからこそ経験していたものが、改善しない状況によってこころの奥に押しやられてしまった状態なので、そこにはある主の精神的平衡が保たれているゆえ、その平衡を崩したくないという心理も働くので、さらにアクションは取りにくくなります。

それでも改善はできるもので、この記事の原理に基づいて、なんとなくでもいいので興味のある人間関係や社会活動(仕事でもボランティアでも趣味でもいいですね)に自分を「少しずつ」晒すようにして、その中で他者と感じるSense of Connectionを大事にして、徐々に活動を増やしていくのが良いと思います。他者とのつながりがある程度強くなってくると、不安や居心地の悪さなど出てくるかも知れませんが、そうした感情をきちんと経験しながら、人と繋がる活動を経験し続けていくなかで、その繋がっている感覚が自然で心地よいものになってくると思います。人生に求めすぎても大変だけれど、人生に求めなさ過ぎるのもよくないです。あなたが人生にもっとExpectするようになったら、人生のほうもあなたにもっとExpectするようになります。
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不安の本質は、知る事の欠如? (シオピー)
2013-10-18 12:32:20
自分にはいつも、御し難い、手に余る事柄に対して、積極的な解決を図らず、時間切れや担当替えといった不可抗力を待ち、結局のところ中断、棚上げ、先送りで、その立場から逃れてしまう。

日常に於いて、陰に陽に頻繁に出くわす、悩ましい問題です。

日本の戦後処理、といった難しい問題も、共通する話だろうと思います。

結局は、相手なり対象となる事象を、もっとよく知る事ではないかと思うのです。

直感的に、厭だな、と感じる抵抗感は、理性的に解決されない限り、その否定的な感覚だけが、いつまでも残ってしまい、
その数がやがて増えてきて、その時に持っている苦手な対象が、今後更にどんどん増えていくのではないかという不安、そして更に、特定の原因となる対象を持たない、漠然とした、観念的な不安をも引き起こし、常に不安がつきまとい、回避行動を繰り返しながら、人や社会との関わり合いを拒絶するようにさえなってしまう。

そこで、自分が何故、抵抗感を持つのか、苦手と感じる原因は何なのか、まずじっくり、客観的な内容を精査することが求められ、大前提になると思うのです。

その上で、自らの能力の、何が適応を阻むのか、積極的に自分の弱点を分析し、補い修正する努力を行うことにより、その特定の対象に対する抵抗感の解決策が、ある部分見出され、同時に、自分の弱点も、一つづつ克服されていく、と思います。

少なくとも私なりに、実践もしてきました。

そこで得たことは、自分にとっての、弱点の克服やリスクの回避は、否定的消極的な抵抗感から、一気に、成功体験として刻まれ、自分の人生を積極的に生き、周りにも、有益な示唆をもたらし得るノウハウに変貌する、ということです。

実は自分を発見する、絶好のチャンスなのかも知れませんね。
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Unknown (Yodaka)
2013-10-27 05:32:25
シオピーさん、

まさにそうだと思います。苦手意識には往々にして悪循環があり、そのサイクルのシステムのなかに知らずのうちに自分をおいて生きている限り、根本的なものは何も変わらず、苦手の対象に対する苦手意識は接触がないゆえに強化されるばかりで、だからこそ、あえてそれに接近して対峙することは、その苦手意識克服とは別に、新しい自分を発見したり、自己評価を高めたりと、良いチャンスがたくさんありますね。
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