興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

miracle years

2022-11-22 | 戯言(たわごと、ざれごと)
4歳の息子がアイスクリームを一心不乱に食べている。バニラアイスが薄いチョコレートでコーティングされたものだ。

よほど美味しいのだろう。普段は多弁な彼がこの時は無言で、何かに取り憑かれたように、真剣に食べている。その小さな手で木の平らな棒をしっかりと握りながら。

しかし彼はふいに、「あれ?」と言って、辺りを見回した。

どうしたの?と聞くと、

「◯◯、おうちにいるとおもったらちがうところにいた」と言って笑い出した。私も思わず笑い、ここは大学のカフェテリアだよ、と伝えると、「そうだった」と言って彼は再び笑った。

我々は、ORF(オープン・リサーチ・フォーラム)というこの大学の科学の祭典に遊びに来ていた。さんざん遊び回り、今はおやつの時間の小休止。

確かにそれはおいしいアイスだ。チョコレートの薄いコーティングがパリっとした歯応えで、その瞬間にバニラアイスが口の中にわーっと広がってくる。それにしても、彼は見当識が一瞬狂うほど夢中で食べていたのかと、私はなんだか感銘を受けた。

そっか、◯◯、アイス食べるのに集中してリラックスしてたらここがおうちだと思っちゃったんだね、と言うと、彼はなんだか安心したように、

「そうそう。パパもそういうことある?」

と聞くので、そうだね、パパもたまにそういう事もあるよ、と答えたら、

「そうでしょ」

と言って、彼は楽しそうに笑い、再びチョコレートバーを食べるのに集中し始めた。

そうは答えたものの、自分は何かに解離するほどに感動してそれを味わい尽くした体験を最後にしたのは一体いつの事だったか皆目思い出せなかった。自分の人生にも確かにそんな事もあったという感覚だけは覚えている。

何もかもが新鮮な幼少期は確かにミラクルイヤーで、その一つひとつの彼の体験を大切にしてあげたい、できるだけそこに立ち合えたら、そしてその彼の大事なプロセスを邪魔しないようにしなければ、と思いながら、チョコレートアイスと一体化している息子を眺めていた。