興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

無視をする人の心理について

2017-09-20 | プチ臨床心理学

皆さんこんにちは。

今回はぽきりさんから、無視をするパートナーや配偶者の心理についての質問です。

ぽきりさん、お待たせ致しました。ご質問ありがとうございます。

以下がぽきりさんからの質問内容になります。


無視をする人の心理について知りたいです。


夫は機嫌を損ねるとすぐに無視をします。
ただ、なにが気に障ったのかわからないことが多く、聞いても答えてくれません。あんまり聞くと余計にイライラした態度をとるので放っておきますが、こちらとしては原因がわからない分いろいろ考えてしまい、あれかしら?これかしら?と機嫌が悪くなる直前の会話などを思い返したりと非常に疲れます。仕事中も気になって考えてしまったり、食欲までなくなってきたりと散々です。しかも1~2週間とか余裕で無視してきます。話してくれれば私が悪ければ謝りますし、なんて子供っぽいんだろうとちょっと理解しがたいです。

私はカチンとくることがあっても深呼吸して数時間置けば怒りの感情は収まるタイプなので本当に理解できません。今回は本日で4日目突入です。

今回の無視が始まった日、私は仕事を午後休して友人とランチをしに出かけました。夫と私の職場は近くにあり、出勤・退社の時間もあまり変わらないので1台の車で一緒に通勤しています。その日も夫の帰るコールでいつもの時間にお迎えに行きましたが、午後休した私は会社の制服でなく私服だったため、それを見た夫が「会社行ってないの?」と聞いてきました。が、ランチの件は数日前に伝えてありましたので「こないだ伝えたでしょ?○○ちゃんとランチに行ったのよ」と答えると夫は「ああ」と思い出した様子で、そこから無視が始まりました。

なにがいけなかったのかもわからないし、出勤時の車では笑い話をしながら仲良くしていたので突然の無視に毎回のごとく戸惑っています。しかも4日目。夫の怒りの継続力にも驚きます。ちなみに「おはよう」とか「おやすみ」とか「いってきます」という挨拶だけは私から掛けるとボソッと小さな声で返します。それ以外は無視です。なおさら謎です。器が小さいなあとさえ思ってしまいます。

そして無視が収まるときは、破棄のない声で話しかけてきて、それに私が明るく笑顔で答えることでやっと終了します。ただ結局原因も教えてくれないのでなんだったのかは謎のままです。

いったいこれはどういう心理なのか、解説どうぞ宜しくお願い致します。


このようなタイプのパートナーに悩んでいる方とは時々お目にかかりますが、ぽきりさんのこのエピソードもその典型です(脚注1)。

まず、行動心理学的見地からすると、こうした方たちは、これまでの人生における様々な対人関係の問題において、「無視をする」という行為が「強化されてきた」人たちということが考えられます。対人関係の問題における適応手段は人それぞれであり、一番建設的なものは、防衛的にも攻撃的にもならずに、心を開いて相手の話に耳を傾けながら、オープンに自分の気持ちや考えを言語化して相手に伝えていくやり方ですが、残念ながら、これができない人は少なからずいます。切れたり、暴力的になったり、暴言を吐いたりして、力ずくの解決を図るひともいれば、ぽきりさんの旦那さんのように、貝のように押し黙ることで対応する人もいます。

それではなぜ無視をする人たちは、このようにいくつもの適応手段がある中で、無視をする、ということを(ほとんど無意識的に)選んだのでしょうか? それには、その人の生まれながらの気質(内向性、外向性など)と、幼少期からの親との関係や、家庭環境などによって形成される性格と、さらには、その性格ができた環境下でいろいろと試行錯誤する中で、その人にとって一番うまくいった適応手段が、無視であった、ということです(これは、別の家庭環境で別の気質の誰かにとっては、怒鳴る、声を荒げる、早口でまくし立てる、嫌みを言う、などが一番うまくいっていたかもしれない、というものです)。社会学習理論(social learning theory)が示唆するのは、子供は自分の身近にいる、自分よりも大きな人間(親や祖父母や教師など)の行動を観察し、模倣し、内在化し、自分のものにしていくということですが、こうした人は、子供の頃、親が機嫌が悪くなったとき、怒ったときに、罰として無視をされる、ということを何度も経験していたのかもしれません。また、家族間で、怒りの表現手段として、激しい口論や、暴力、物に当たる、などの直接的な表現ではなく、無視、無反応、受動的攻撃性といった、間接的な表現手段が好まれる家庭文化であったことも考えられます。

ちなみに、無視をするという行為は、無視をされる側の人間が動揺したり、気を掛けてくれたり、行動を改めたりするなどの反応をすることが条件としてセットになっています。これはつまり、もし無視をしても相手が無反応であったり、へっちゃらだったり、関係がそれで終わってしまったり、無視ができないように攻撃してきたりするようでは、無視をするという行為はその人間関係において機能しません。無視をするということで、怒りが効果的に表現できる人間関係においてのみ、無視という行為は強化されます。

ぽきりさん夫妻に話を戻します。旦那さんがどのような家庭環境で育ったのかはわかりませんし、もしかしたら、家庭環境ではなくて、学校など外の世界の対人関係の問題時に無視が機能していたのかもしれません。いずれにしても、ここで問題になっているのは、ぽきりさんが、旦那さんの無視という未成熟な対応に付き合ってしまっているところにあります(無視をする、という幼稚な手段に訴える彼に根本的な問題があるのはいうまでもありません)。彼には、ぽきりさんが、動揺したり、気をつかったり、元気がなくなったり、落ち込んだりと、彼のことをすごく気にしているのをはっきりと認識しています。彼はぽきりさんの注意関心が欲しいわけですが、実際にぽきりさんが歩み寄っても無視をすることを続けるのはある意味サディスティックであり、ふたりの人間関係にダメージを与えるものでもあり、なんといっても、ぽきりさんの精神衛生において有害です。

それから、これは非常に大事なことですが、特に大人の人間関係において、相手の言動に腹が立ったり、不満があったら、それをきちんと言葉にして相手に伝える義務があります(脚注2)。伝えなければ分かりません。今は憤懣やるかたなくて言葉も出ない、とにかくひとりにして欲しい、という状況であるならば、相手にそう伝えるべきです。「悪いけど今は一人にして欲しい。あとで話す」と。そのコミュニケーションを放棄して、非言語的に怒りを表現して相手にダメージを与えるのは、間違ったことです。ここでもうひとつ気になるのは、旦那さんは、無視をするのをやめた後で、どうして無視をしたのか、ぽきりさんときちんと話し合っているのかどうかということです。何か気に入らないことがあるとしばらく無視をして、気が済むと無視をやめる、という人にありがちなのは、どうして無視をしたのか、その後で相手に伝えることもしないため、無視されたほうは、どうしてなのかいつまでたってもわからない、ということです。とても自己中心的で、思いやりに欠けています。これではふたりの間に不信感こそ積もるものの、信頼感や安心感はいつまでたってもできません。無視されるほうは、無視が予測不能なので、今度いつまた無視されるか恐れながら、はれ物に触るように生活することになります。

対応策として私がお勧めしているのは、まず、1)無視が終わったらあまり日を空けずにきちんと話し合う、ということです。ここで、「どうして無視したのか」、「どんな気持ちで無視していたのか」、「何を考えていたのか」、などについて話してもらう必要もありますし、そこに正当性があれば、詫びる必要があるかもしれません。

次に、2)今度腹が立った時、機嫌を損ねたときは、その場で、何に腹を立てているのか、何が不満なのか、きちんと伝えてくれるように約束します。もしかしたら相手は、腹は立ったけれど、腹が立った理由が幼稚だったり恥ずかしいと思って、言葉にすることもできないのかもしれませんん。たとえば、ぽきりさんの今回の件は、あくまで質問のなかの限られた情報によって推測すると、旦那さんは、半休を取って楽しい時間を過ごしたぽきりさんが妬ましく思えたものの、そんなことを妬むのは恥ずかしいと思い、どう話して良いのか分からない、ということもあって、つまり、「自分が腹を立てているのはとても小さなことだ」という自覚があるゆえに、恥ずかしくて言葉にもできない、だけど腹立たしい、言葉にできないけれど腹立たしいから無視が一番好都合、という感じで無視に入るのかもしれません(無意識的に)。この場合、どんな感情であっても、相手がどう感じているのかはいつでも知りたいと思っているし、聞かせて欲しい、恥ずかしい感情なんてないんだと、伝えるのが良い場合もあります。これはつまり、相手の言語化をいつでも歓迎していることを伝える、ということです。また、何かあるたびに1~2週間も無視されるのはつらい、寂しい、悲しい、など、相手に気持ちを伝えて、無視という手段を取らないように約束します。

3)もしまた何かあったときに再び無視をするようだったら、「無視をする相手の方にも問題がある」ことを自覚して、なるべく個人的に取らないことです。無視をしている相手のことがもし気になり過ぎるのであれば、それは自尊心の問題でもあるので、自尊心を高める必要もあります。自分の言動や判断に自信があれば、「無視されている」イコール「自分が悪い」とは限らない、むしろそうでないことも多い、と思えるようになります。いずれにしても、相手は、ぽきりさんを長時間無視してもぽきりさんは自分から離れていかない、大丈夫だ、という前提があって無視をしているので、そんな風に扱われ続けるのなら、結婚生活続けていけないかもしれない、などと伝えて、無視という手段はもう通用しないのだと毅然とした態度で伝えることも大切です。

 


(脚注1)ちなみに、気に入らないことがあったり、腹立たしいことがあるときに、沈黙を保って相手を居心地悪くさせることを、アメリカでは"silent treatment"などと言いますが、これは通常は女性が男性に対してすることで、たとえば、"I gave him some silient treatment." (彼にサイレント・トリートメントしてやったわ)みたいに言います。もっとも、Silent treatmentは、このタイプの男性と比べて、その長さもせいぜい数十分から数時間と、ずっと短いです。

(脚注2)もちろんこれには例外もあります。たとえばぽきりさんが、ぐでんぐでんに酔って真夜中過ぎに帰宅し、旦那さんに罵声を浴びせて玄関で嘔吐して旦那さんに掃除をさせた翌朝に、旦那さんが口をきいてくれない、というのであれば、これはまあ無視されても仕方がないでしょう。