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小田博志研究室

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旅芸人の視点

2006-01-22 | テレビ番組

 日曜の午後、なんとなくつけたテレビで、ある「旅芸人」が出てくる番組をやっていた。「オルカ」と呼ばれる男性が、札幌から母のいる佐呂間へと旅をしていく。彼がどうしてそう呼ばれるのか、またどういう生い立ちなのか、途中から見始めたので分からない。(FNN系列UHB、日曜ノンフィクション「旅芸人北へ帰る」、午後2時~3時)

 オルカは年の頃三十代だろうか。無精ひげをのばしていて、おせじにも清潔そうではない。彼は街頭でパントマイム(?)をやって生計を立てている。すすきの交差点のような繁華街で、マスクと手袋を着用してじっと立ち、お金が入れられると体を動かす。(ヨーロッパのストリートにはこういう人がたくさんいたなあ。)

 彼には家族も決まった住所もないらしい。だから「ホームレス」と呼ばれる。(「旅芸人」と呼ばれるか、「ホームレス」と呼ばれるかでずいぶん印象が違うものだ。)札幌では公園のベンチで寝、地下街の入り口が早朝開くと、今度はその中のベンチで寝る。しかし午前10時前になると警備員に追い立てられる。昔に比べ札幌ではホームレスの居場所が無くなっているのだそうだ。

 冬の札幌ではそういうことはできないから、東京の新宿か渋谷辺りにいるらしい。

 この一人の男に付き添うような取材の仕方。ハンディカムを目立たないように持って撮影しているのだろう。彼が動けば取材者も一緒に移動していく。

 オルカはバスで旭川に向かう。「列車よりバスの方が安いから」だそうだ。層雲峡や、大雪山の豪壮な風景の間をバスは通り過ぎていく。旭川は札幌と違って危ないのだという。だからオルカは「仕事」の前に、トラブルに巻き込まれないようお祈りをしていた。でもこの日オルガは絶好調。一晩でこれまでの最高額(二万円以上)を稼ぎ出した。うれしくなったオルカは、翌日一杯五百円のカツ丼を食べる。そのおいしそうなこと。

 やさしい客もいれば、たちの悪い奴にからまれることもある。次に向かった北見では、客とのトラブルで警察に引っ張っていかれてしまう。そんな情景をカメラは遠巻きに捉えていた。謝罪文を書いて解放されてからも、深夜、町のベンチで座るオルカの横をパトカーが頻繁に通り過ぎる。これにはオルカもいらいらしてしまう。夜が明ける。見事なまでの朝焼け。それを見れば憂さも忘れてしまう。「東京じゃこんな景色は見られないよ。」

 十年ぶりにオルカは母のいる佐呂間町に行く。オルカはジンギスカン鍋でもてなされる。オルカは母に旭川で稼いだうちの一万円を、「オレにできるのはこれだけだ」と封に入れて手渡す。一万円札ではなくて、よれよれの千円札と五千円札の組み合わせだ。「こんなことをしてくれたのははじめてだ」と母は言う。

 オルカは二、三日故郷にいただけで、また旅にでる。同じ所にいられない性分なのだろう。移動しているときの彼の顔はとても楽しそうだ。

 この番組は何か「重大事件」を扱っていない。(今ちまたを賑わせている「ライブドア粉飾決済事件」に対し、”ニュースバリュー”の点で比ぶべくもない。)また「ホームレス」の窮状を告発するようなスタイルでもない。ただオルカという人間の、ちょっと変わった暮らし方を映し出しただけだ。しかし心に残った。(良質なロードムービーを観たときのような感じだ。)僕が今住む札幌や北海道がちょっと違って見えてきた。こんな視点もあったのだ、と新鮮に感じた。

 この番組を見ていて、僕はふと、ドイツのフライブルクという街での経験を思い出した。フライブルクは美しい街だ。あるドイツ人の友人はドイツで一番美しいと言っていたくらいだ。フッサールやハイデガーが奉職した伝統ある大学があり、また最近は環境先進都市という好イメージも加わった。

 そのフライブルクの駅に隣接したホテルでのこと。エレベーターで、ベッドメイキングの女性と一緒になり、少し言葉を交わした。その女性は「ソマリアから来た」と言った。難民としてドイツにやってきたようだ。「フライブルクは好きか」と彼女が僕に聞いてきた。僕は「大好きだ。こんなに美しい街だから」と、当然という感じで答えた。今度は逆に僕が彼女に同じ質問をした。すると愛想の良いそのソマリア人の顔が曇り、「あまり...」と言葉を濁した。

 彼女が見ているフライブルクは、僕のとは違っているということに気づいた。


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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
小田さん、こんばんは。 (グスタフ飯沼)
2006-03-17 01:16:00
小田さん、こんばんは。
私もこのドキュメンタリーを見ました。
そもそもオルカは、大阪のとある公園でテント暮らしをしていたのですが、あの「バラ博」で公園からの退去を求められ、早々にテントをたたんで北へ向かう旅に出たのです。
母がヒゲを切ったシーンは切なかったですね。母にとっては遺髪の代わりなんでしょうね。
ススキノで彼の元気な姿を見ることがあったら、そっと硬貨を置いてあげたくなりました。
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わたし札幌在住ですが、帰宅途中にオルカさんを見... (てst)
2007-06-06 23:57:27
わたし札幌在住ですが、帰宅途中にオルカさんを見かけますヨ。
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てstさん (ばb)
2008-10-27 01:26:49
てstさん

> 母にとっては遺髪の代わりなんでしょうね。

そうとらえるとなんだか切ないですね
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