小田博志研究室

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卒論の書き方 小田ゼミ版(授業関連)

2007-12-01 | 研究・教育

copyright © 2007 Hiroshi Oda

 これは私が担当する北海道大学文学部の卒論生のためにまとめた卒論研究の指針です。異なった分野・講座・学部・大学の学生には当てはまらない点もあるでしょう。それを考慮に入れた上で参考にしてください。

 卒論とは大学で学んだことの集大成。(12単位分のエネルギーを注ぐことが期待される)
 講義で学んだ知識、そして演習で身につけた研究の方法を卒論で実際に応用する。
 論文は「難しく」書けばよいというものではない。論文とは何か、研究とは何かを理解していれば、簡単な表現でもいい論文は書ける。(本当に分かっていれば難しいことでも易しく書けるはず。自分が読んで分からない文章を読ませられる方はたまりません)

問題設定(=研究課題

 問題設定が研究の出発点。
 設定した問題を明らかにすることが研究の課題となり目的となる。
 自分が明らかにしたい“問い”は何か?
 問題設定に成功すれば、その研究は半分成功したようなもの。
 よい設問は、適切に焦点が絞られている。

例)「大日本帝国時代から戦後にかけて、「日本人」の支配的な自画像といわれる単一民族神話が、いつ、どのように発生したかを歴史学的に調べ、その機能を社会学的に分析すること」(小熊英二『単一民族神話の起源』)

卒論の研究課題の選び方

 自分の研究にはどんな意義があるか?

① 学問的・理論的な意義
② 社会的な意義

 これらに加えて個人的意義も考えるとよい
 研究を行なっていく過程で有意義な経験が得られそうかどうか
 ワクワクしながら調査ができればよい(行きたい所に行く、会いたい人と会う、将来の目標にプラスになる、“社会人”として成長できる、何らかの能力が身につく)
 課題は難しすぎてもいけないが、安易すぎてもいけない
 危険は冒すべきではないが、より高いハードルを超えるチャレンジをしてほしい

位置づけ

自分の研究はどの学問的分野に位置づけられるのか?

例)文化人類学的開発論、トランスナショナリズム研究、エスニシティ論

具体的な調査対象を通して何を論じようとしているのか?

例)北海道のスローフードに関する調査を通して、食とグロバリゼーションとの関連を人類学的に論じようとしている。(Aを通してBを論じる)

先行研究のレビュー

 自分の研究課題に関する先行研究は何か?
 自分の研究が位置づけられる分野で重要な文献は何か?

理論的な先行研究:例)開発人類学の文献
研究対象に関する先行研究:例)フェアトレードに関する論文

自分の研究のキーワードを挙げ、それぞれについて先行研究を調べていく。
先行研究によって何がどこまで明らかにされているのか?
先行研究では何がまだ明らかにされていないのか?

理論の扱い

 既存の理論を、調査結果に押しつけるのはまずいやり方(=あてはめ型・トップダウン式理論適用を避けること)
 既存の理論は“道具”と考えよ。万能の(=何にでも当てはまる)理論はない
 既存の理論を適用するときには、その限界も知った上で行なう
 「理論枠組み」を定めるということは、自分がどんな学問上の流れに立つかを決めると言うことであって、そこにある理論を現象に押し当てるということではない。
 フィールドで出会う現実には、常に既存の理論からはみ出る部分があるはず。
 逆に、調査したことから新しい理論を作り上げること(ボトムアップ式)が望ましい。
 ただしその過程で、既存の理論を全く参照するなということではない。ボトムアップ式に理論を産出する上で、既存の理論の参考になる部分は取り入れて良い。また「総括的考察」をするときには、自分が産出した理論と、既存の理論との批判的な比較考察をすることになる。

調査

 調査とは、自分が立てた問題の答えを得るために、独自の資料(データ)を集めていく作業(これが“一次資料”)。フィールドワークは、調査の一つの形。その他の調査手法も併用することが多い。
 何が調査の目的か?何を(誰を)対象とするか?どんな方法を取るか?
 フィールドワークをする必然性は何か?⇒とにかくフィールドワークをすれば、人類学の研究になるというわけではない。問題設定に照らして、フィールドワークをする説明可能な理由がなければならない。研究目的に方法が適しているかどうか、が方法選択の基準

調査計画書を作る

スケジュールを立てて自己管理する

アウトライン(=構成=章立て=目次)

 序論―本論―結論が基本
 アウトラインが論文の「設計図」となる。
 自分の論文のアウトラインを早い目に考えはじめる。遅くても10月の末ごろにはできていることが望ましい。他の卒論や学術雑誌掲載の論文の目次を手本にしてよく学ぶこと。

アウトラインの基本形

I 序論

この論文ではどんな問題を明らかにするのか(問題設定=研究目的)
その問題の背景はなにか(手短に)
その問題を扱う意義はなにか(手短に)
この論文の構成はどんなものか

II (理論的テーマ=研究の分野

例えば「先住民族研究」「子どもの文化人類学的研究」「博物館研究」「市民社会と平和構築」など
この研究はどんな分野に位置づけられるのか
どんな先行研究があるのか
使う概念はどう定義するか
自分が立てた問題の、当該分野における独自性はどんな点にあるか(Iの「意義」と重なるが、こちらでより詳しく書く)

III (具体的な調査対象の説明

例えば「札幌市におけるアイヌ民族」「北海道の企業博物館」「対馬の朝鮮通信使行列復興」「ドイツにおける平和NGO」など
何について調査したのか
その基本的な情報はなにか
どんな先行研究があるのか

IV 調査の概要

どこで、何を・誰を対象に、何について、どのくらいの期間・回数、どのような方法で調査をしたのか

IV (調査と分析の結果
V (調査と分析の結果)
VI (調査と分析の結果)
・・・

調査と分析の結果明らかになったことを、適当な数の章に分けて詳しく述べていく

具体的な事例を描き出していきながら、分析的な議論もはさみこんでいく

VII 結論と展望

調査した結果、最初に立てた問題に関して、まとめると何が明らかになったのか
その結論にはどんな限界、問題点があるのか
今後さらに研究されるべき問題はなにか

以上、あくまで基本形なので、ポイントさえ押さえていれば、変形してもよい。
調査と分析の結果をいくつの章に分けるのかは自由。
また事例の描写的提示する章と理論的考察の章とを分けてもよい。

理論的テーマについてI序論で短く述べるにとどめ、II(理論的テーマの先行研究)をあえて省いて、論文の後半部分(調査と分析の結果)で、理論的テーマを本格的に扱ってもよい。(これは、分析を進める中で理論的テーマが浮上してきた、というストーリーラインを強調したい場合。)

要旨

 卒論提出後、口述試験の前に「卒論要旨」を提出することになっている。これはできれば前もって書いておき、卒論の一部として加えておいた方がよい(参照文献表の前に綴じる)。

 要旨の形式はA4一枚で、「この論文の目的は…。第1章では…。第2章では…。結論は…。」といったまとめ方をする。

卒論の長さ

 決まった長さはない。内容に対して適切な長さ。短すぎるのはよくない。調べたことを全部書いて不必要に長いのもよくない。40,000字が目安

よい論文とは

  • いきいきとした描写:読む人が、フィールドの情景や人物についていきいきと思い描けるような描写がなされているか。
  • オリジナリティ(独創性)があること:オリジナルな一次資料に基づいて、オリジナルな主張がなされているか。
  • 「知的な面白さ」を体験できること
  • 主張に根拠があること
  • 構成が一貫していること(論文の“筋”が明快であること)

やってはいけないこと=剽窃(ひょうせつ)

 他の人が書いた文章を、自分で書いたかのように用いることは絶対してはならない。
 剽窃とは、人のものを盗むことに等しい。人の文章は必ず引用の形で用いること。インターネットで見つけた文章を、自分の論文にコピー・貼り付けをするのは簡単だが、それはバレるものだと思うこと。剽窃が分かったら、当然卒論は不可にする。
 剽窃がバレた例:http://clip.sfc.keio.ac.jp/article.jsp?id=news04090301

倫理とマナー

 調査対象者の方々に友達感覚でメールを送らない(手紙の書き方を学んでからメールを出す)
 他大学に卒論コピーの送付を頼んではいけない
 調査の時には、まず自己紹介をし、調査の目的をはっきりと伝え、了承を得てから調査をする
 プライバシーの保護に気をつける:論文の中では匿名・仮名にする
 街角での立ち話のようなインフォーマル・インタビューの場合には、詳しい説明は不要。

卒論を書くためのヒント

  • 他人が分かってこそ論文
    自分の研究対象のことを知らない人に分かってもらえるように書く。難しく書けばいい、というのは誤解
  • よい実例(過去の卒論、他の研究者の論文)から学ぶ
    『エスノグラフィー・ガイドブック』で紹介されている本、学術雑誌「民族学研究」「文化人類学」などに掲載されている論文、菅原和孝『フィールドワークへの挑戦』世界思想社に収められた学生レポート、出版された卒論(『〈癒し〉のナショナリズム』慶應義塾大学出版会)などを、「この人はどう書いているんだろう」という関心をもって読み込む。
  • 初心に帰る:訳が分からなくなったら、自分はそもそも何をしたかったのか思い出す。
  • 卒論執筆の参考になる本やサイト

    船曳建夫他1994「論文を書くとはどのようなことか」『知の技法』小林康夫・船曳建夫編,東京大学出版会,213‐224 必読!
    箕浦康子編著1999『フィールドワークの技法と実際』ミネルヴァ書房 第1章から5章までが重要
    東郷雄二2000『文科系必修研究生活術』夏目書房
    小田博志研究室⇒研究関連⇒研究ツールボックス:http://www13.ocn.ne.jp/~hoda/
    東郷雄二ホームページ,私家版卒業論文の書き方:http://lapin.ic.h.kyoto-u.ac.jp/thesis.html
    小熊英二ホームページ,レポート⇒テクニカルライティング:http://web.sfc.keio.ac.jp/~oguma/top.html

インターネットの使用について

 下調べのためには極めて有用。
 代表的な検索エンジン:http://www.google.co.jp/
 しかし論文の中では情報の信憑性に気をつけ、慎重に用いる。

データの保存に気をつける

 ハードディスクの故障などで卒論のデータが消えてしまうおそれはいつもある。
 それに対処するため、バックアップを取ることを心がける。
 USBフラッシュメモリが便利
 512MBないしそれ以上くらいだと、残り容量をあまり気にせずウェブページやデジタル写真なども保存できる。
 ただしUSBメモリを紛失しないように!PCのハードディスクにもバックアップしておくこと。
 ワープロの「フォルダ―ファイル」の区別を活用する。一箇所にまとめて保存するが原則。

本文中での引用の仕方

「 」で引用した後に、次のように( )内に出典情報を記載する。

文献の場合
(著者名 発行年:ページ)、例(小田 2004:111)

ウェブページの場合
(サイト名/ページ名)、例 (asahi.com/「東エルサレムの投票、イスラエル政府内で混乱」)

参照文献表

 参照文献(or参照ウェブサイト)表はすでに作り始める。後でまとめてつくろうとは思うなかれ。そのときには多くの文献情報が行方不明になってしまっている。最初は(五十音順にまとめてしまうのではなく)トピック別にしておくと便利。
 著者の五十音順(ないしアルファベット順)に並べる
 外国人の著者名を五十音順に並べるときは、苗字(family name)に基づくこと(例.ジェイムズ・クリフォードは“ク”の項目に入れ、“クリフォード,ジェームズ”と表記する。)
 より詳しくは、日本文化人類学会ホームページhttp://wwwsoc.nii.ac.jp/jasca/⇒学会出版事業:『文化人類学』⇒執筆細則⇒14.参照文献 を参考にすること

  • 書籍の場合
    著者、発行年、書名、出版社
  • 雑誌収録の論文の場合
    著者、発行年、論文名、収録雑誌名、巻(号):ページ
  • 書籍収録の論文の場合
    著者、発行年、論文名、収録書名、編者名:ページ、出版社
  • 翻訳書の場合
    著者、発行年、書名(訳者)、出版社

参照ウェブページ表

 サイト名、サブページ名、そのページの作成(/更新)年月日(明記されていない場合は自分が参照した年月日)、参照したページのURL
 例:難民支援協会ホームページ、難民とは?、2000年1月20日更新(2006年1月15日参照)、http://www.refugee.or.jp/refugee/index.html

 


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