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ノーカントリー (2007/米)(コーエン兄弟) 85点

2008-03-21 14:26:08 | 映画遍歴
この映画は玄人好みの映画ですね。何かを吹っ切ったときに出来る素晴らしい飛躍的な広がりと2時間ずっと緊張を強いられる映像の持続性には驚かされます。そしてその計算された映像の隅々からスタッフ・俳優たちの息遣いまで聞こえて来ます。

映画的に完成度は高いというのは言うまでもありませんが、しかしこの映画(コーエン監督のものは総じてこうですが)は観客を選ぶというか、多少観客を突き放したところがあるので、その性癖を知っている人とそうでない人とは受ける印象がかなり違ったものになるのではないか、といった気はします。

悪霊のような塊のハビエル・バルデムが映像のかなりの部分の比重を占めています。彼が出てくると、琴の弦を引っ張ったような空気がさらにまるで真空のような状況になります。不快です。おどろおどろしいです。でも、これが現代を表しているのでしょう。もう不条理という状況ではありません。まさに現代は悪夢なのです。出口がないのです。初期の名作「バートン・フィンク」と同様のテーマですが、でも焼き直しではありません。

現代というものを突き詰めてみればもうそこには希望という代物はない、ということはキルケゴールが言っていたように「死に至る病すなわちそれは絶望」しか残らなくなります。

この映画はストーリーから得る何かを期待するのではなく、2時間この緊張した時間を共有する映像の至福で十分値するのではないでしょうか。それは台詞と音楽を極端に省略した映画作りからも明らかです。コーエンの新境地であると共に新たな再出発の地点でもあるでしょう。

ただ映画的には本来主役であるはずのトミー・リー・ジョーンズが弱く(それは決して彼のせいではないので)バランスを欠いているのも事実。むしろ全く無名な俳優でも良かったのかもしれない。

彼が言うようにこの世にはもう国はないのであります。ハビエル・バルデムは悪の権現というより僕には疫病のような捉え方をしてしまいました。歴史的にも繰り返されてきたペストやエイズまたは戦争など、人類を調整するときに神の意思であるかのような現象に近いというか、、。

でも、こういう映像作家の力量を認めたアカデミー賞というのは評価を見直してもいいのかもしれません。

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