岩井の新作。しかも3時間という長尺。最近敬遠する時間だが、体の調節をして頑張る。時間はさすが岩井映画、全然気にならなかった。また、出演者全員が芸達者で安定した映像を堪能できたことも一因。日本映画としてはここ最近ピカイチの収穫作である。
冒頭の東京の何気ない雑踏の風景が(いつも見慣れているはずなのに)実に美しい。いい色合いだ。もうここで岩井は観客の心をがっちり捕える。赤い郵便ポストに揺れて手を挙げる若い女。そこに男が辿り着く、、。
いじめは子供同志だけではない。今の若者は弱いものであれば何をも生贄にする。大きな声で授業をできない臨時教師は格好の対象となる。彼らはサメだ、ハイエナだ。この現代の暗闇。ある事件が起こって、マスコミが騒いで解決できるほど甘くはない。もう人間生活の中にその沈殿物は黒く堆積している。
そんなけなげな女だが、現代的で、したたかでもある。冒頭の郵便受けでのシーンははまさにネットサイト系による出会いであった。そこから始まる結婚生活。でも、嘘を嘘で固めた生活がほころびないはずがない。ふとしたことから女は奈落に転落し、下層生活を体験せざるを得なくなる。
この辺りはとても面白い。現代に生きるということは安定した未来が常に輝いているはずはないのだ。まあ、ここまでは実は何でも屋の安室に道かれた結果なのだが七海は気づかない。隙がいっぱいの女っているよね。だからいじめにも遭うのだが、黒木は実にうまい。
その後想像したことがない泥水を飲むような人生を彼女は体験する。そしていよいよ真白との出会いだ。ここで七海は荒波の大洋を泳ぐことになる。人生の真理は実はどこにでもころがっているのだ。彼女は輝いている。
真白は言う。「この世界はさ、本当は幸せだらけなんだよ。でもその幸せには人それぞれに限界がある。」考えちゃうね。いいセリフだ。Coccoの独壇場。受けの演技の黒木もいい。岩井はこのセリフを言いたいがためにこの映画を作ったような気もする。
ラスト近く、安室と七海は真白の母親に会いに行く。りりィがいい。綾野剛がすこぶるいい。輝いている。珍しく黒木が負けているかのよう。役者魂が煮えたぎっている。不覚にもここで急に僕は号泣する。
ラストシーン。七海はまっすぐ外を見る。そこにあるのは、人生の何かを知り得た姿だった。
僕たちが日常的に営んでいる人生そのものも、それは、ふと気づけば荒波に乗っている一艘の帆掛け船に過ぎないことに気づく。
この映画の視点がぐんと低い位置から見据えられていることに気づきます。弱者がちゃんと弱者を見ていることに気づかされます。弱者たちの美しいことよ。岩井俊二の新しいメッセージを受けることになる。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます