評価しづらい映画ですね。感想は書けるけど、今までのようなノーランの流麗な画調があまり見られず、ずっと鳴り響いている音響だけがノーランだと知らしめています。
映画構成としてはオッペンハイマーとストローズの善悪の対比が見事ではある。色彩もカラーとモノクロ。ストローズを悪者に強調することでオッペンの罪深さを薄める効果はあるのかなあ。ほんとアメリカ的でもあります。
私が一番この映画を見てて、劇場全体が急に水に浮いてしまっているのではないかと錯覚したシーンが、アメリカ国民が狂喜するのが、原爆実験に成功した時ではなくて、ヒロシマ原爆投下の日であることだ。
これは日本人にとってはきつい。現在のウクライナ侵攻といいイスラエルのハマス攻撃といい、まったく人間の取る行動は同じ。愚か。人間そのものの真実の姿を真正面から描写するに恐ろしい映像であった。
このシーンでこの映画が終わるわけない。それから1時間はオッペンの人間性回復(善性)の語りである。やはりアメリカ映画である。ノーランでさえしっかりアメリカナイズしている。
冒頭に言ったようにオッペンとストローズの善悪の対比がこの作品の基底にあるが、ストローズはオッペンと対比する必要性に欠けるのではないか。彼はどこにでもいる醜悪な通常の悪人である。私はこの構造がずっと気になってしまった。
とはいえ、この映画、俳優がとても贅沢で、映画ファンにはたまらないプレゼントとなっている。ジョシュ・ハートネット、久しぶりの出演で、相変わらずカッコイイ。スター俳優マット・デイモン、ちょい役だけどケイシー・アフレック、インパクトのあるケネス・プラナー、トム・コンティなど十分楽しめた。あ、いや、この映画、主役のキリアン・マーフィはさておき、ロバート・ダウニー・Jrって、あんなにうまい俳優だった?見直しましたね。
とまあ、、人間ドラマの見本のような映画だけれど、その対象が人間の究極な暗黒の本質にかかわる人物なので、一言でいえば、人間というものをあらゆる方向から照射したどちらかというと見たくない映画でしたね。
でも面白かった。
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