韓国映画の中でも特にギドクが好きで毎回欠かさず見ている僕。本作も突飛な題材で人間の救済をテーマにギドクが鮮烈に駆け抜けている。
テーマが大きすぎたのか(題名のピエタは宗教的な解釈から少々違和感を僕は感じたが)西洋人にはどうかなあとも思うのだが、大賞を獲っているのだからそこは問題ないのであろう、しかし大仰過ぎる、ちと恥ずかしい。
人間の愛を全く知ることなくただ生きて来た青年と、息子を亡くし復讐に生きる女との不思議な疑似親子像。しかしラスト、真実を知っても30年間に瞬時とはいえ人の愛を知ってしまった青年には元の人生を生き続けることはもはや出来ないのだ。
一瞬でも愛された息子として手縫いのセーターを着、死体となった母親と並ぶ青年は哀れである。でも彼には30年間の人生で唯一の至福のひとときであったのだ。もうこの人生を、呪われた自分の人生を逡巡する必要もない。彼はキリストのピエタのように、人のために、犠牲を伴って彼の人生を全うしようとする。
対する復讐心で青年に近づいた女は迷う。息子の復讐のために巧みに母親を演じている間に、もう一人の息子への愛に気付き始めている。彼女の作ったシナリオは着々と進んではいるが、やりきれなさと悲しみしか沸いてこない。もう一人の息子が愛を受け止めたその分、それは何倍にも跳ね返った苦悩となって彼女を襲って苦しめる。
ギドク独特の様式美は相変わらず素晴らしい。けれど今回は過去あれほどあった絵画的色彩が少々おとなしく、潤いに欠けたようにも思う。ギドク作品ではストーリー的にも分かりやすく(サスペンス要素をめずらしく導入し)新たなファン層が加わることでしょう。でもどこか僕は物足りない。この作品は起承転結、安定しているのだ。いつもの不安定さが薄まっている。ある意味ギドクらしくない。
もうちょっと自由な作品でもいいかなあとどこかで囁く自分に気付く。
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