「空晴」10周年の新作である。いつものようにベランダが舞台。様々な人が現れ、勘違いから始まるコメディ、と全くワンパターンである。けれどもこのワンパターンが観客の心を強く鷲づかみするのを観客こそが知っている。
今回は冒頭で、懐かしき糸電話を持つ男登場。ところが、その父親らしき上瀧が強く嗚咽するシーンから始まる。誰かが死んだらしい。いつもとは違う。激しい。すぐ暗転する。
どうやら、ある人の10年祭の前日らしい。ここにも人の死が出現する。「空晴」にすると珍しいくだりである。だが、展開はいつも通り。楽しく、軽やか。いつもの勘違いも小池、南側、駒野がいいタッチでつないでゆく。この若手二人もうまくなったね。
さて、岡部が登場。彼女のセリフ回しは実に響く。会場にもだが、心に響くのだ。相変わらずうまい。今回は服を何回も取り換えて、実に女らしい。見た目も少々痩せたかなあと思われるほどだ。痩せました?
いつもより、心情に訴える劇だった。会場でははすすり泣きの声が聞こえる。人の死を題材に強く入れたのは初めてではないか。息子を亡くした父親と、父親を思う娘とのやり取り。やはり泣かせるなあ。新境地である。
哀しみの後、苦しくとも生きてゆく人間は、目の前に何か光を見ようとする。それは希望ともいう。ベランダから彼らが見た遠くの花火は「空晴」のこれからの5年先、10年先を見据えた風景だっただろう。実に印象的なラストだ。照明もいい。
実に10年を絞めくくるに、味わいのある凝縮したいい舞台だった。当たり前の人間の風景を描き、実に数ある劇団でも今や孤高たる存在となっている劇団である。ますます次作を見たくなってきた。
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