Sightsong

自縄自縛日記

イエメンの映像(2) 牛山純一の『すばらしい世界旅行』

2010-07-22 00:29:03 | 中東・アフリカ

テレビディレクターの故・牛山純一は、『すばらしい世界旅行』や『知られざる世界』を手がけている。残された映像が、BS朝日の『牛山純一 20世紀の映像遺産』という番組でピックアップされ、放送された(番組は既に終了)。この中に、イエメンを取材した『これがアラビアンナイトの王様だ!!』(1978年)と題された『すばらしい世界旅行』の回がある。

イエメン統一は1990年、取材先は当時の北イエメン、カミールという街である。

このあたりを治めるアブダラ・アマール殿下という「4万の兵隊を抱える」部族長がドキュメンタリーの主役だ。殿下のもとに、さまざまなトラブルが持ち込まれる。曰く、「隣村から嫁入りがあったが、実はとんでもない女性で、離婚しても持参金を返さなかった。すると、向こうが強引に宝石やカネを獲って行った。復習したい。」 これに対し、殿下は調停を行う。ロールプレイのようなものであり、難しくても威厳を示すためのハレの舞台なのだ、とのナレーションが入る。

室内はお決まりのカート(少し酔う葉っぱ)と水煙草。なぜか調停を、丘の上で行ったりもする。調停前にも、後にも、昂る気分で腰のジャンビヤを抜き、ダンスをする。殿下は何故か刈り入れ(何の穀物だろう?)を手伝う。

何度観ても奇妙なドキュだ。当時イエメンに行ったことのある人なんて非常に少なかっただろう。お茶の間で流されるこの映像は、とてもミステリアスなものであったに違いない。渋い久米明の声で、訳が解らなくても、とりあえず放置してよい気分になる。


カートを噛む


カート


丘の上で調停


ジャンビヤ・ダンス


刈り入れ

なお1978年は、現・サレーハ大統領が北イエメンの大統領の座に就いた年である。私が訪れたのは98年ころだが、街中ではサレーハの肖像がそこかしこに飾られていた。サレーハの「ハ」をはっきり発音していたら、それは女性の名前になってしまうぞ、しかし奴にはそれで十分だぜ、などと嘯く男がいた。

この時代から大統領も変わっていないし、イエメンが部族社会であることも変わっていない。これには、山あり谷ありの地形にあって、それぞれの街が天然の要塞となっていることが大きく影響しているようで、実際に、オスマン帝国もイエメンを版図に入れるのに大変な難儀をしたようなのだ。アル・カーイダが拠点をここに移したのも、地形的な面が大きいに違いない。

●参照
イエメンの映像(1) ピエル・パオロ・パゾリーニ『アラビアンナイト』『サヌアの城壁』
イエメンとコーヒー
カート、イエメン、オリエンタリズム
イエメンにも子どもはいる


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